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5.錆びた黄金③
しおりを挟む思い出した。
4限は既に始まっていて、数学の【細田先生】が黒板にサラサラっと余剰定理の式を書いているが、全く頭に入ってこない。
部屋の隅にふとゴキブリを見つけた時のような、見たくなかったものを見てしまったような、そんな感覚に襲われている。
…名前聞いて気付けよって話なんだろうけど、だって無理だよ。
前はメガネをかけていたし、変な話あんなに綺麗になっているなんて思わないじゃん。
例えイジメていたからといって、その人の事は印象にはそんなに残ってないさ。
てかこんな遠く離れた場所でもう一度会っても…。
イジメられる側はきっとイジメた側を忘れない、一生。
きっと僕は酷く悪人なのだろう。
否、絶対。
ゴールデンウィーク前日の放課後。
結局、若宮と田嶋と何処へ遊びに行くのかも決まらなかったが、1日だけ田嶋も休みの日があるので、その日は自分もバイトの予定を空けて何処かへ行くということだけ決まっている。
「っしゃ~~。とりあえず4日だな、お前らすっぽかすんじゃねーぞっ。」
若宮は楽しそうだ。
自分自身も友達と遊びに行くなんて久々なので何をしたら良いかも忘れてしまったが、それでも楽しみである。
それでも心の隅には確かに埃が溜まっている感覚が残った。
いつも通り、放課後は図書室へ向かう。
正直またバッタリ出会ってしまうのではないかと不安はあったが、仕事はサボれない。
まあ出会ってしまってもきっと向こうは警戒して話しかけて来ないだろうから、そのうちに背を向けて逃げてしまえばいい、そう思っていた。
予想を遥かに超えたので思わずたじろいだ。
図書室の扉を開けると、本の貸出口に彼女が並んで待っている。
そして今日の当番は自分だ。
心臓が高鳴る。
息が荒いのが自分でも分かる。
きっと凄い形相なのだろう。
隣の向井も何やら不穏な雰囲気を察して話しかけてきた。
「おいおい、そんなに俺との委員会の仕事は嫌か?ははっ、西尾ちゃんなんとかいえよ~。」
気を遣ったように笑う向井に、そんなことねえよ、とだけ返して貸出口へ向かう。
さらに心臓が強く打つ。
ああ、死ぬと分かった時ってきっとこうなるんだろうな。
「お、、お待たせしました…。」
拍子抜けした声が出てしまった。
彼女がこちらを見ているのが分かる。
気まずっ。
すると彼女の方が先に口を開いた。
「…『凍てつく空の下』……まだ持ってる…?あれ、借りたいんだけど…。」
「あっ…えっ…と…ごめん。」
思わず声が裏返ってしまった。
「…いいの。ただ、楽しみにはしているからなるべく早く…ね。それだけっ。」
なんだこのやり取りは。
向こうは酷く憤怒しているはずだ、きっと親の仇のように。
なんだ、何か企んでいるのか…?
罪悪感のある自分は大分疑心暗鬼になっていることだろう。
「…あとさ、」
「はい!なんでしょう…!」
思わず敬語になってしまった。
しっかりしろよ俺…。
「私…あなたに返したいものがあるの…。」
えっ、えっ?なんか貸したっけ??
いや全くそんな覚えないよ、復讐してやるの遠回しの言い方か…??
そんなハテナばかりの自分を見て、彼女はこう切り出した。
「やっぱり、覚えてないよね。ううん、いいの。今日は持ってきてないから返せないけど…んー、明日でいいかな?」
「明日って…ゴールデンウィークだよ…??学校ないよ…??」
「あ、そっか。でも私は学校来なきゃなんだ、色々とあってね。少しでも過去を思い出してくれたなら明日来てよ、朝保健室にいるからさ。」
えーーーーーーー。
いや、バイトは午後からだけど…。
面倒とかそれ以前に怖いって。
理由がわからない、何か分からないモノ程怖いものってないよ。
後ろで向井が、おーい、と呼ぶ声が聞こえた。
「ちょ、あ、、呼ばれてるから!その本は借りるんだよね…?はい、今日から2週間です…!」
気味が悪かったので、急いで手続きを済ませ、喋る隙を与えないようにしてその場を離れようとすると背後で確かに聞こえた。
「…絶対ね。」
背筋が凍った。
きっと『凍てつく空の下』の世界でもこんなに悪寒のする事はないだろう。
今日のバイトなんてすっぽかしてしまいそうになるくらいに頭がいっぱいだった。
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展開が遅くてすみません…。
次話でやっとゴールデンウィークに入ります…!
タイトル3話目にしてまだ入ってないとか…。
次話も宜しくお願いします…!
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