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「218話」

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顎をさする俺を見て、固まった笑顔のままエマ中尉が話しかけてくる。

「……仲が良いのですね」

「ええ、小さい頃からずっと一緒にエブッ」

エマ中尉の言葉に、ちょっと嬉しくなった俺はクロについて語ろうとして……口に猫パンチを受けて黙る。

まったく、クロってば……なに、初対面の相手に馴れ馴れしく話してんじゃないわよ! みたいな感じだろうか。
愛い奴め。



とか考えてたら追加で4発ぐらい猫パンチをもらった。
目、鼻、口に的確に当ててきたぞっ。

「ブフッ……失礼」

なにわろてんねん。

「明日、ダンジョンに潜る際には恐らく我々は島津さん方と同じパーティーになるかと思います」

「あ、そうなんですね。と、なると階層更新を目指す感じですか?」

島津さん方ってことは、いつもの自衛隊のメンバーと一緒ってことだろう。
日本で一番攻略進んでるメンバーとパーティーになるんだ。この機会に可能な限りレベルを上げて、階層更新したいだろう。

「はい、そうなりますね。島津さん方と一緒であれば、問題なく進めるでしょう……本当に助かります」

「いえいえ。困った時はお互い様ですよ」

なので、俺が何かあった時は助けてくださいね?
具体的に言うと、今回の滞在期間中なにごとも無く過ごせるようにして欲しいなーなんて思うのですよ。
期待しちゃうからね?



さて、挨拶は終わった。
なにやらエマ中尉がソワソワしているが、特に何かを言いだすでもなく黙っている。
なんじゃろな。


うーん。
何か話題ないか?

……無難にダンジョンのお話でもしますかね。
ちょっと気になってたこともあるし。

「そういえば、苦戦しているという話でしたけど、またスライムみたいな厄介な敵が出てきたんですか?」

前にもなんか苦戦してたよね。
あの時は尻尾生やして解決したはずだ。

尻尾ありで苦戦するということは、スライムそのものじゃないだろう。
あれは核を壊せば終わりだからね。考えられるのはー……防御高すぎとか、回復能力高すぎ……あと、居てほしくはないけど、物理無効なタイプとかね。いわゆる幽霊的なやつ。

もしそうだったら俺は帰る。それかフロア毎ブレスでぶっ飛ばすかだ。

「スライム……ではないですが、似たようなものとも言えなくはないですね」

「ふむ?」

ん? スライムに似たようなもの……核のないスライムとか? いや、それだとスライムには変わりないか。
なにが出たんだろうね。

「見た目は巨大な山羊が近いかと思います。ただ、形状があいまいなんです。通常時は奴の体は鉄より堅く、その体液は酷く粘り気があって、刃が深く刺さりません。そして時にはドロドロに。不透明であったり透明にもなったりと……ある程度ダメージを与えると、ドロドロになる傾向が強いですね。そしてドロドロになったあいつにはあまりダメージが通りません。さらに厄介なのが自己治癒能力も持っていまして……」

ほほう。

「ドロドロから戻ったら、傷が治ってるとか?」

「そうです」

うわあ。面倒な相手だな。

「確かにスライムに似てると言えなくはないですね。それなら核もあるのかな?」


核が無ければ下手すりゃずっと殴り続けて、結局倒せませんでしたー! みたいなはめになる。
通常時は核まで武器が届かず、ドロドロになった時にどうにか探して核を壊す感じかな? ドロドロ自体には攻撃してもあまり意味は無いのだろうし。……いや、それなら普通に倒せるよな。苦戦してるってことは違うってことか。

ウィリアムさんを見ると、どうにも苦い表情を浮かべている。
これ、核が無かったパターンか。そりゃまた面倒な。

「どうやって倒したんです?」

「全員の火力を集中して消し飛ばしました」

「おう、ごり押し……」

実にアメリカっぽくて良いと思います。
全部消し飛ばせば、そりゃ弱点云々なんて関係ないもんね。

「数が多いと無理ですね。退却するしかないです」

「なるほど。とりあえず、明日実際に見て対策考えます」

「よろしくお願いします」

そんな話をして、ウィリアムさん達とは別れた。
その後、ウィリアムさん達と話をしていたのを見てか、ちょいちょい色んな人が声を掛けてきたけど、どれもただ挨拶に来ただけだったり、軽く雑談する程度だったりと、特に事前に警戒してたようなハニトラ的なものはなかったと思いたい。むさいおっさんが大半だったし。

俺にはそっちの趣味は無い。


冗談だよ。
まあ、初日からなんかしてくるってのはさすがに無いのだろう。
とりあえず警戒は解かずに1週間乗り切るとしよう。



んで、その翌朝。

昨晩はお楽しみでしたね。なんてこともなく、隊員さん達と朝食をとった俺とクロはダンジョンへと装備をとりに向かっていた。

「おっし、装備はばっちりと」

いつもの装備を見に着けて、軽く鏡でチェックして満足そうに頷く。

「ほんとこの部屋便利だな。どのダンジョンからでもアクセスできるんだもんなー」

これで別のダンジョンにも自由に出入り出来たらいいのだけど。さすがにそれは無理か。
それが出来ちゃったら、下手すりゃ他国の者が自国に自由に出入り出来てしまう。

そのへんをアマツが考えて、施設のみ共通にしてるのだろう。


「準備できたか?」

部屋を出ると、既にみんなの準備は終わっていた。
はやいな。

「ええ、ばっちりです」

「それじゃ行くぞ。向こうは既に全員集まってるそうだ」

「おおう」

自衛隊が早いのかと思ったら、アメリカも早かった。
まさかもう集合場所に揃ってるとは。


遅れちゃいかんと、隊員さん達の後に続いて、集合場所へと向かう。

集合場所へと近づくと、少しざわめきが聞こえてきた。
本当にもう集合場所に集まっているのだろう。

そして集合場所に隊員さん達が入ると、急にざわめきが大きくなった。

「え、なにこのざわめき」

別に自衛隊員なんて見慣れているはずだろう。だが、このざわめきはどうにも困惑? しているような感じがした。
なんだ、何があった?


「……こいつらなんで尻尾が無いんだ? 耳はついてるけど……」

一体どうしたのかと、アメリカの隊員さんを観察していると違和感を覚える。
なぜか尻尾が生えていないのだ。

「なんかおかしい」

「ああ、なんだろうな……」

俺のつぶやきに同意するように、都丸さんも困惑した表情を浮かべる。

自衛隊の待機場所に向かう間も、向かってからもざわめきは収まらない。
……みんな目を見開いて、明らかに驚愕した表情でこちらを見ている。どういうことだ? 訳が分からない。

事情を知ってそうで、且つ教えてくれそうな人は……いた。

奥の方で、こそこそしていたウィリアムさんを発見した俺は、天井を駆けて、彼の目の前へと降り立った。

「ウィリアムさん」

「し、島津さん……どうしましたか?」

ギョッとした表情を浮かべたウィリアムさんであったが、すぐに笑顔を浮かべ俺への対応を始める。

「なんで皆尻尾がないんです?」

「そ、それは……」

俺の問いに、ウィリアムさんは明らかに動揺した。
鼓動が一気に跳ね上がり、心音が上がり、額には薄っすらと汗がにじみ、目がキョロキョロと忙しなく動く。

俺はそれを見て、軽く息を吐いた。

「この状態で、その山羊擬きと戦ってるってことですよね? そりゃ苦戦しますよ」

「尻尾は必須装備……ですか」

「ええ、その通りです」

当然でしょーがっ。
それでスライムとの戦い乗り切ったんだから、ウィリアムさんだって必須装備なんてことは分かっているはずだ。

……なのになぜか誰も着けていないんだよな。げせぬ。

いや、全員ではないな。例のベジタリアンになった隊員は着けてるっぽい。

なんだろうな。
そんなに猫耳尻尾が嫌だったのだろうか……。


俺がそう、色々と思考を巡らせている間に、ウィリアムさんはどうにか気持ちの整理をつけたようだ。
意を決したように、顔を上げると、ぐっと歯を食いしばって後ろを振り返る。

「わかり……ました。少しお時間をください……おい、お前ら! 装備を変更するぞ!!」

そう叫んだ、直後。悲痛な叫びがあちこちから上がった。

……なんでやん。



そこまで、そこまで嫌だったかと若干凹んだ俺ですが、大丈夫です。
猫耳尻尾は必須装備だと期間中に全員に叩き込んでやろうじゃないか。
なんなら別に猫にこだわらなくても良い。今となっては猫以外の耳尻尾セットもあるからな……各員の趣味に合わせたものを着ければいい。

そう、俺が決意を新たにしていると、ぞろぞろと耳と尻尾をつけた一団が戻ってきた。
その姿に俺は違和感を覚える。

「……? あれ? 都丸さん、なんかおかしくないですか?」

「? 何がだ? ……んんん??」

何がと言われると難しいが、普段見ている隊員さんの耳尻尾と、どこか違う気がするのだ。

俺が首を傾げていると、都丸さんも彼らを観察してクエスチョンマークを頭に浮かべた。


やっぱ何かが違う。

一体何が違うのだろうか? 髪の色とか体格とか、そのへんに違和感を覚えたのか?
……いや、違うな。これは……そうだ。位置が違う。




「尻尾の位置が妙に下に……直刺し??」

ないわー。
変態かよ。
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