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「175話」

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目をぱちぱちさせ、もぐもぐと口に含んだものを飲み下す北上さん。

「……やっほー、島津君」

「あ、どもっす」

手を振り挨拶する北上さんに、こちらもつられて頭を下げる。
すんごい気まずかった俺と違って、普通そうである。

てかなんだって一人でこんな……迷彩服のままだし、ダンジョン潜ってそのままとか?
他の隊員さんは帰ったんだろう。

まさかの北上さんもシングルベルだったとは。

「良かったら一緒に食べるー?マーシーが作ったのじゃないけど」

「頂きますっ」

やったぜ、シングルベル回避だ!
孤独のクリスマスともおさらばよー!



やっぱ人と一緒に食べるご飯はおいしいね。
ついつい食べ過ぎて、結局マーシーに追加でいくつか作ってもらっちゃった。

「はい、コーヒー」

「ありがとうございます」

北上さんにお礼を言ってコーヒーを受け取り、一口。
外で飲むと余計に美味しく感じるね。正確には外じゃないんだろうけど。

「こっちこそありがとねー。ケーキこんなに貰っちゃって」

「いえいえ……冷静に考えるとこの量一人で食うもんじゃないっすよね」

「1ホールはさすがに多いかなーと思う」

クリスマスってことでケーキも買ったんだよね。
近所で美味しいことで有名なお店のやつ。
カフェルームで買っても良かったんだけど、せっかくだからそっちを選んだのだ。
……皆で切って分けて食べるんですー的な雰囲気を出そうと、1ホール買ったのはちょっと失敗だったかなーとは思った。でもこうして実際に分けて食べる事になったんだし、結果オーライだ。


クロのはさすがに扱っていなかったから、カフェルームのやつだけどね。
クロ的にはどこで買ったのでも問題ないらしく、今もすごい勢いでケーキを食べている。
顔が半分ケーキに埋まってるけど、大丈夫かいな。


さて、ケーキも食い終わったし……頃合いかな。
まずは……いや、同時に行くか。

「北上さん、クロ……クロ、ちょっと顔拭こうか」

その前にクロの顔がクリームで酷いことになってるのをどうにかせんと……そんなケーキ美味しかったのかな。

「ええと……では改めて。北上さん、クロ……実はクリスマスって事でプレゼント用意してあるんです。受け取って貰えませんか?」

「えっ、うそっ良いの??」

「はい……女性に渡すプレゼントとしてはどうかと思いますが……」

実はね、買ったのはクロの分だけでは無かったのだ。
北上さんに声を掛ける勇気はなかったが……万が一、万が一の可能性もあるとプレゼントだけは用意したのだ。

ただ女性へのプレゼントなんて何が良いのかさっぱりだったので、北上さんの好きな物を選んでおいた……たぶん気に入ってはくれると思いたい。


一度物置代わりの個室に戻り、北上さんとクロのプレゼントを手に広場へと戻る。

クロのプレゼントは猫用の櫛とかなので割と小さめの箱だ。
でも北上さんのは……めちゃくちゃでかい。

「でっか……開けてみても?」

「どうぞどうぞ……クロ、その箱はさすがに小さすぎない?」

どうぞどうぞと言うと、ごそごそと箱を開ける北上さん……とクロ。
てかクロ、いくら箱が好きだからってそれに入るのは無理だと思うんだ。
櫛がつぶ、れる……。


「薪ストーブ!……これっ、秋に新発売したやつ!やった、嬉しいー」

クロを箱から出して、櫛を回収している間に北上さんは箱を開け終えていた。
中身は最近発売されたばかりの薪ストーブである。
もちろん外で使う様ね。

最近は装備を十分に調えて楽しむ人も増えていますよと、店員さんにお勧めされたので即決で買ってしまった。

鴨にされたかなーと思わなくもないが……北上さん、かなり喜んでいるのでまったく問題は無い。

「えへへ……ありがとねっ」

……用意しておいて良かった!

あの時の俺を褒めてやりたいぐらいだ。



その後、せっかくだから使ってみても良い?ということで薪ストーブの試運転をする事になった。
ストーブに上には薬缶がおかれ、このまま薪が燃え尽きるまではお茶を飲みながらのお喋りタイムとなる。

まじで過去の俺グッジョブ過ぎる。

「クリスマスが終わったらすぐお正月だねえ」

北上さんの言葉に相槌を打つ俺。
実際クリスマスから正月までってすぐだよね、すぐ。
あと数日したら、じいちゃんばあちゃんの家に行って餅つきするし。

「そうっすねえ。北上さん正月はどうするんです?」

「んー?……一応年越しは実家でって考えているけど、長居はしないかなー……親戚増えてそうだしー」

「ははは……」

乾いた笑いしかでねえ。
実家帰ったら、あら〇〇ちゃん久しぶりねー、覚えてる?あなたがこんな小さい頃にうんたらかんたら……とか起きるんだろうな。
こわっ。




……まて。ちょっと待って。
俺、北上さんの下の名前知らない。

まじか、そういえば教えてもらってないぞ……てか、隊員さんみんな苗字しか知らないでやんの。
どうにかして聞いておかないと……知り合って結構経つのに、名前把握してないとかあかん。


なんて俺が内心焦っている間にも北上さんの話は続く。

「ただでさえ親戚がさ「いつ結婚するんだー?」とか「彼氏できたの?」とかうるさいし、そこにさらに増えでもしたら……まあ、そんな感じだよー」

親戚が集まったら集まったで大変なんだなあ。

「島津君はどうするの?」

「正月は祖父母宅で過ごしますよ。親戚も離れた所に住んでるんで冬は集まらないし、気楽なもんす」

俺は……まあ、去年と大体同じかな。
じいちゃんばあちゃんの家にいって、年明けまで過ごすのだ。

道内に親戚はいるけど、距離があるからね。
冬道を長距離運転するのはきついから、冬は集まらないのである。

「いいなー」

「年明け前に餅つきして、年明けは近所の神社で餅まきするんで神社にいって……餅ばっか食って過ごす予感がします」

餅つきも餅まきも楽しいよね。
この年になって餅まき……とは思わない、だって毎年大人もまざって取り合いになっていたし。
結構大量にまくんだけど、小さい頃は数個とるので精一杯だった。

「……いいなー。お餅いいなー」

「実家では餅つきしないんです?」

「しないよー。切り餅買ってそれで終わりだもん」

おや。
……そういや餅つきやる家庭のほうが珍しいんだっけか?
うちは毎年やってた記憶しかないけどなー。

……ふむ。

「ありゃ……つきたての餅美味いんすけどねー。……やるの28日なんで北上さんもきます?」

さりげなーく、さりげなく。
さりげなく誘うのだ島津康平。


「いくっ!……いいの?」

「大丈夫っすよ。近所の人も参加しますしー」

「それじゃお願いしちゃおっかなー」

おおっし!
よくやった、俺。

その流れで初もうでなんかも……いや、実家に帰るのなら無理か?
実家の場所によっては行けるかもだけど……餅つきの時にでも聞いてみよう。そうしよう。

やったね、年末の楽しみが増えたゾ。
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