上 下
145 / 156
生を受けた理由

「エピローグ」

しおりを挟む
ウッドが世界樹と一体化して、元に戻らない。
その話はギルド内、それに街中ですぐに広まった。

ウッドを知るものは初めは冗談か何かだろうと考えたが、世界樹の根元に一人ポツンと座り込むタマさんの姿を見てその話が本当であると理解する事となる。


「タマさん、食事持ってきました……」

「……ありがとニャ」

世界樹の根元から動こうとしないタマさんを心配し、様子を見に来る者、食事を届ける者などタマさんの元を訪ねる者は大勢居た。
ケモナーもその一人である。


(……さっさと戻って来なさいよ)

最初はタマさんと話せると内心喜んでいたケモナーであったが、今ではそんな気持ちはほとんどなくなっている。

タマさんが動かなくなってから1年近い月日が過ぎようとしている……その間にタマさんの体は元の半分ほどに窶れてしまっていた。

毛並みもボロボロで艶が無い、日ごとに窶れていくタマさんを見て、ウッドに対し早く戻ってこいと言う思いが強くなっていく。


「……それじゃ、また来ますね」

「ニャ」



タマさんが世界樹の根元から動かないのにはいくつか理由がある。

一つはウッドの装備がそのまま残っていることだ。
これは装備を無理にとった場合、木を傷つけてしまうことになり、それはつまりウッドを傷つけることになる。

……ダンジョンシーカーはもとより、街の住民もウッドが世界樹を動かしたであろうことは、大体理解していた。
当然恩人であるウッドに対し、悪さをするような奴はまず居ないのだが……例外もある。
街の外からきた者であったり、盗賊であったりと高価な装備が放置されているのはそう言った者にとっては魅力的に映るものだ。
それ故にタマさんは世界樹の根元から動こうとはしない。


そしてもう一つの大きな理由、それは世界樹の枝に残った巨大な世界樹の実である。
幸いなことに指導者との闘いで命を落とした者は……他には居ない。

つまり世界樹に残ったあの実はウッドのものである。


ウッドの装備を見つけて暫く放心状態であったタマさんであったが、ある日気が付いたのだ。
実が徐々に徐々にであるが大きくなっていくことに。


そしてこう思った。

手がもげても再び生えてくるウッドであれば、世界樹に取り込まれたとしてもいずれ復活するのではないか?
そしてあの大きくなっていく実の中は……と。

僅かでも希望があるのなら……そう考えたタマさんは世界樹の根元から動かなくなった。



人よりずっと寿命の長いタマさんにとって1年やそこらはほんの一瞬の出来事にすぎない。
……ただ、それでもやはり僅かな希望に縋って待ち続けるのは辛いものがある。

ふと、ため息を吐いて……何となく上を見上げた時であった。

巨大な世界樹の実が風に振られ……落下してきていたのだ。

落下先には岩がある、落ちた実は確実に潰れるだろう。
タマさんが全身のバネを使い、落下地点に向かい手を伸ばす…………だが、気が付くのが遅すぎた。


実は岩にあたり、弾け飛んだ。













「…………?」

ふと感じた浮遊感? 落下感?に俺は目を覚ました。

この内臓が浮かびあがる感じ、これ間違いなく落ちてるよね? てか真っ暗で何も見えないし! 何か体にまとわり付いてて上手く動けないし、どういうことなのっ!??


なんて混乱していたその直後、俺の尻を凄まじい衝撃が襲う。

「っおんぎゃあぁぁー!??」

叫ぶと同時に前方に撃ちだされる俺。

「おぐぅっ……い、いったい何が?」


地面をズザザザッと滑ってなんとか止まったけど尻が痛い、とにかく痛い。


一体何がと後ろを振り返ってみればそこには潰れた実とでっかい岩。
落下して岩にぶつかったらしいんだけど、どうもいい感じで角度のついた岩だったらしく、ぶち当たって俺の尻に衝撃を与えると同時に、落下ベクトルを90度変えて前方に撃ちだしてくれたらしい。

ありがとうよ、すっぽんぽんで撃ちだされたわっ!



それを理解した瞬間、俺は色々と思い出した。

俺、世界樹と一体化して意識失ってそれから……そうだ、神様をむしって土下座して再転生させて貰えたんだった。

ちくしょう神様め!
転生させるならもっといい場所あるでしょっ!? なんで実に詰め込んで、しかも岩に激突コースで転生させますかねえ? 最初の木にめり込んでいたのと言い……まったく、次あったらまたむしってやるわっ。



「っぐぽうっ!!?」

とかなんとか考えていたら、鳩尾に毛玉が凄まじい勢いで飛び込んできた。
数百m毛玉と共に吹っ飛ばされた。


「し、死ぬ……ってタ、タマさん!? 一体どうしたの――」

――毛玉の正体はタマさんだった。
タマさんは俺のお腹に顔をうずめてグリグリと頭を押し付けている。
ケモナーさん見たら目と鼻から血を噴出させそうな光景ですね。

って、あれタマさん何か震えて…………タマさんなんでこんなに痩せて??。それに街の様子も……壁とか撤去されてるし、これ俺が世界樹と一体化してから結構な時間が経ってるぞ……。


……俺があの実から出てくるまでずっとタマさん待ってくれていたのか。
俺、神様の気分次第ではもっと別の場所で転生していた可能性だってあるんだよな、でもタマさんのそばで転生させてくれたのか……? むしったのに。








……神様、さっきの言葉は取り消します。


「ただいま、タマさん」

「ニャ!」


俺の転生場所は、ここで、あってます。


敬具。






終わり。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

悪役令嬢は最強を志す! 〜前世の記憶を思い出したので、とりあえず最強目指して冒険者になろうと思います!〜

フウ
ファンタジー
 ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢5歳。 先日、第一王子セドリックの婚約者として初めての顔合わせでセドリックの顔を見た瞬間、前世の記憶を思い出しました。  どうやら私は恋愛要素に本格的な……というより鬼畜すぎる難易度の戦闘要素もプラスしたRPGな乙女ゲームの悪役令嬢らしい。 「断罪? 婚約破棄? 国外追放? そして冤罪で殺される? 上等じゃない!」  超絶高スペックな悪役令嬢を舐めるなよっ! 殺される運命というのであれば、最強になってその運命をねじ伏せてやるわ!! 「というわけでお父様! 私、手始めにまず冒険者になります!!」    これは、前世の記憶を思い出したちょっとずれていてポンコツな天然お転婆令嬢が家族の力、自身の力を用いて最強を目指して運命をねじ伏せる物語!! ※ この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。 上記サイトでは先行投稿しております。

処理中です...