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森の賢人

「76話」

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「アグレッシブ過ぎんだろお!?」

木々をなぎ倒して止まった巨大魚はその場でピチピチ……というかズシンズシンと跳ねている。

あれ食らっていたらどうなっていたことか。
食われるか潰されるかどちらにしろ痛いじゃすまなかったかも知れない。
本当、冷や汗もんですわ。

「……餌ってこういうことね。 縄張りに入ると即襲いかかってくると」

いくら縄張りに近付いたからといってアグレッシブ過ぎやしませんかね。
……まあおかげ捕まえる手間が省けたけどさ。 お魚が自ら陸に飛び出すってどうかと思うのです。

「食われないように気を付けるニャ」

「へっ?」

食われないようにとタマさんが俺に注意するが、ちょっと遅くやありませんかね…………なんかすっごい嫌な予感がしたのでバッとお魚の方を振り返る。



我ながらナイス判断だった。
さっきまでズシンズシンと跳ねていた巨大魚が、地面をズリズリと這うように猛スピードで俺目がけて突っ込んできていたのだ。

元気過ぎんだろォォオ!?

「あぶなーい!?」

デッドボールを避けるときのように腰をぐいっ引いて飛び退る俺。
巨大魚はガチガチと歯を鳴らし、俺の横を掠めるように過ぎていく。

メキョリと鈍い音がして、俺の変わりに噛まれた木が食いちぎられていた。

「がんばって捕まえるニャ」

「どうやって!!?」

ちょっと無理があるんじゃないデスカねっ!?
あれの正面に立ちでもしたら間違いなく食われる、盾とかおかまいなしに一口だろう。
かといって横からとなるとあの巨体と早さを考えるとこれも厳しい。

「触手で何とかするニャー」

「蔦だから! これ蔦だからね!」

触手じゃないってば!

くそうタマさんめ……でも突っ込み入れたおかげか、何か冷静になれた。

でかいと言っても所詮はお魚、蔦の網で捕まえてやるわ!



どうせまた俺を食おうと突っ込んでくるのだろう。
ならばと俺は蔦を伸ばして編み上げ、あの巨体が何とか収まるぐらいの網を用意した。

すると丁度タイミング良く巨大魚がつっこんで……というか飛び掛かってきたので、網を広げ受け止める。

あ、もちろん俺本体は横に逃げております。
ひかれちゃうからね。

「どっせい!」

すっぽりと網にくるまれ暴れるお魚を押さえつけようと、網の目をぎゅっと絞っていく。

巨大魚も自分がとらわれた事が分かるのだろう、身をぐるんと回転させ、湖のほうへと向かい逃げようとする。

「いだだだだっ!?」

この巨大魚、力が半端じゃない。

足元に根っこをはった俺事引っ張ってぐいぐい地面を這っていくのだ。

こりゃかなわんと周囲の木々に蔦を伸ばしまくって踏ん張り……それでもしばらく進んだところようやく巨大魚動きを止めた。

つってもまだ暴れてはいるけど、その場でビッチビチしてるだけである。
もう逃げられまい。

「……つ、捕まえた」

疲れた……。
まさか釣りに来たつもりがこんなことになるなんて……まあでも後は普通に釣れば良いんだし。 タマさんと一緒に釣りしてお魚いっぱい食べ……る……この巨大魚どうするの?

どう考えてもこいつ食べるとなると他にお魚なんていらないよね?


「ニャ。 あとはまかせろニャー」

そう言ってやたらと長い包丁やらなんやら……道具一式をもったタマさんがトコトコとこちらへ向かい歩いてくる。

やっぱ食べるのねこいつ。


タマさんはまだ暴れている巨大魚に近付くと、ひょいと頭の上にのった。

そしてその前足を巨大魚の頭にてしっと叩きつけると……破砕音と共に地面がべっこりと割れ、魚がピクリとも動かなくなった。

前足を押し当てただけでこの威力…………いや、お魚捕まえるだけなら最初からそうすれば良かったんじゃ……え、それじゃお魚の捕まえ方が身につかないだろうって? うん……まあ、確かに。


気絶した?巨大魚をやたらとぶっとい紐で縛り上げたタマさん。
木を利用して巨大魚を宙吊りにし始める。

「あ、それ吊るす用だったのね」

「吊るしたほうが切りやすいニャ」

吊したほうが切りやすいかー。
そういやそんなお魚居たような……アンコウだっけ? 吊して切る奴。

言われてみればこの巨大魚なんかそれっぽい見た目してなくもない。
胴体に比べてでっかい頭部とかまさにそんな感じだ。

ただ、鱗が怪しげに光ってて丈夫そうだったりとアンコウがでかくなっただけって訳じゃ無さそう。

あの鱗うまく剥げるんだろうか?


吊し終わった巨大魚にタマさんが包丁もって近付いていく。
どうやらすぐに解体するつもりのようである。

一体どこから切るのかなーと思っていると、何やら首元にぶすっと包丁を刺して、次に尻尾をぶすっと、腹をちょっと裂いてぶすっと刺している。

刺したところから血がだばだばと流れているので太めの血管を切ったのだろう。
血抜きってやつですな。

「اسحب هذا الدم إلى الخارج」

「おー……」

こんだけでかいと時間掛かりそうだなーと思っていたら何やらタマさんが魔法を使った。

するとだばだばと流れているだけだった血が、蛇口を全開にあいたような勢いで噴き出し始めた。

血はやがて一箇所に集まり、丸くて巨大な血塊が一つ出来上がる。

「いるかニャ?」

絶対いりません。
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