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森の賢人

「60話」

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風呂に行く前に必要な物揃えないとね。

と言うことでまずは雑貨屋さんにきておりますよ。
タオルぐらいあるだろーと来てみたけど、ちゃん石鹸やら桶もあった。ありがたいね。

……あとちょっと良さげな櫛も見つけたのでこれも購入しておく。
ちょっとね、タマさんのご機嫌取りってほどじゃないけど……ほら備えあれば憂いなしって言うじゃない?

お風呂の結果によっては爪研ぎにされる未来がありそうなのでね。ハハハ。


「それじゃ石鹸とタオルと着替えと……そんなもんかな」

「ニャー」

大体買ったのでお風呂行きますかね。

「混んでるかなあ、空いてるといいんだけど」

「ニャー」

俺もタマさんも目立つからね。
出来るだけ空いていてくれたほうが有難いのである。

「宿のお姉さんの話だと割と近くってことだけど……」

「ニャ」

地味に距離あるなあ。
歩いて15分かそこら経った気がする。

……というかね。

「……タマさん、さっきからニャーしか言ってないけど……」

「フシャーッ」

めっちゃ威嚇された。


どうどうとタマさんを宥めて少し歩いて行くと、前方に一際大きな建物が見えてきた。

建物から出てくる人は皆、髪がちょっと濡れている。
たぶんあれが目当てのお風呂屋なんだろう。

「ここかー……意外とでかいなあ、ここ」

「……」

タマさんてばすっかり無言になってしまって……。
だがしかし、何時までもあんな埃まみれというのは良くない。
なので心を鬼にしてタマさんへと声を掛けるのであった。


「タマさんタマさん。 行きますよ?」

「ぶにゃ」

可愛いな!もう!
何かいじけたタマさん見られただけでもう満足して……いかんいかん。
タマさんの気が変わらないうちにささっと風呂に行かねば。


タマさんの手を引いて風呂場へと向かう俺。
気分はお子様連れの父親である。

記憶あれだから子供居たとかも分からんのだけどね。


とりあえず、中に入って……入り口が一つしか無い、まさかの混浴であった。
まあ、野郎しか居ないんだろうけどな!


ささっと服を脱いで風呂道具一式をもって扉を潜る。
湯船に人影が見えるが、ありがたいことにごく少人数であった。
ガラガラなのはありがたいね。風呂屋にとってはそうじゃないだろうけど……たぶん夜が混むんじゃないかな? 仕事終えてひとっ風呂とかそんな感じで。

「何かルールとかあるんかねー」

「ニャッニャー」

こう、ルールとか気になるよね? あ、ならない?
何かローカルなルールとかありそうでさ、それを知らずに入ると常連のおっさんに怒られたりとか……まあ、いいか。気にせず入ろう。

んで、タマさんさっきから背後で何をやってらっしゃるので?


「湯気が嫌なのね……」

踊ってるのかなーと思ったら、湯気を払ったり目をゴシゴシしたてたらしい。
湯気が嫌いなのかー……ここまで来ちゃったし、ぱぱっと済ませちゃおうか。 ゆっくりするのは今度一人で来たときにすれば良いし。


「んー……湯船に浸かる前に洗うかな?」

「……ニャ」

タマさん埃まみれだからなあ。
お湯かけただけじゃ取れないだろう。

そんな訳で洗いますよ?

「タマさん、お湯かけるから目をつぶってねー?」

とりあえず洗い場にいって、自分にお湯を……そして動かないタマさんにもお湯をざばぁっとかける。

タマさんてばぶるぶるするでない。
辺りに色々と飛び散ったじゃないかー……しょうがないにゃあ。

「おし……それじゃ洗うけど、どうする自分で洗える?」

「ニャ……」

さすがに洗うのは自分で出来るようだ……。

ものすっごいしょんぼりした顔しながら洗ってるけど。

あんま見つめてるのも失礼だし、自分もさっさと洗ってしまおう。
新品の石鹸を泡立ててーと。

「ぷぅ……んん、髪がギシギシいってるなあ……やっぱ石鹸だけだとね」

泡を洗い流したけど、髪が半端じゃなくギッシギシいってる。
何時ものことだし、石鹸だからしょうがないんだけどねー。

せっかくお風呂入ったんだし、何とかしたいところではある……んんー。

「リンス……なんだっけムクロジだったっけ? 石鹸代わりになるやつ」

なんか石鹸代わりになる木の実あったよね、確か。
たぶん、普通ならあくまで石鹸の代用品なんだろうけど……。

「リンス効果とか諸々ついたムクロジの実……出来るかな? ……誰も見てないな」

俺の能力使えば出来ちゃう気がするんだよね。
失敗したら失敗したで石鹸で洗い直せばいいんだし、やってみようと思う。

……よし、誰も見てないな。
お肌にも毛にもむっちゃ良い感じの実よ、なるのです。
全てはタマさんのためにっ!

「……出来たし」

「ニャ? それ何ニャー」

死んだ目をしていたタマさんだけど、俺が何か実を作ったのを見て興味を示す。

ごめん、タマさんこれ食い物じゃないんだ……いちおう食えはするぽいけど。石鹸代わりなんだよね。

「石鹸代わりになる実だよ……いや、そんな絶望した目で見られても困る……」

なんかすっごい目で見られた。
食い物じゃなかったのがそんなショックだったのかタマさん……。


まあ、洗うんですけどね。
タマさんにもムクロジをこすって作った泡をお裾分けしつつ、自分のも洗う。

ギシギシした感じは消えたし、変なべたつきとかも無い。
割と上手くいったのではなかろうか?

「んっし、あとは湯船に浸かって帰りますかねー」

洗ったので湯船につかりませう。
タマさん、逃げちゃダメですよ?

「タマさん、実は結構ほっそりしてるよね」

「ニャッ」

にゃんこって濡れるとビックリするぐらい細くなるよね。タマさんも例外ではなかったようだ……お腹以外は。

とか考えてたら尻尾で背中叩かれた!
バチュッとか尻尾で出せる音じゃないぞ!?



まあ、色々あったけど無事お風呂から出ることが出来た。

バリバリ。

タマさんもホコリがとれて、艶々した毛艶になったし良かった良かった。

バリバリバリ。

さっきからバリバリとうるさいけど。
今はタマさんと二人、宿に戻って寛いでいるところだ。

バリバリッ。

あとは……。

「……さて作るか」

俺が果物を作るだけである。

ちなみにバリバリと言う音の正体は、タマさんが盾で爪研ぎしている音である。
装備屋から借りた盾……タマさんの爪によってズタボロになっている。


……失敗したら死ぬんじゃなかろうか、俺。
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