上 下
4 / 156
木の中にいる

「3話」

しおりを挟む
およそ10分ほど経っただろうか、森の中を駆ける俺の視界に森の切れ目と……轍のある、むき出しの地面がうつる。
走り出してから割とすぐだったね、結構近くまで歩いてたのか……最もずっと歩いていたとしたら数時間は掛かっていたとは思うけど。

「あれは……道だ!」

道を目にした俺はさらに加速し、一気に森を飛び出した。そして道に出ると同時に右半身を踏ん張りブレーキをかける。
結構な勢いで走っていたからだろう、地面からはもくもくと土煙があがり当たりの視界を一時的に奪う。

やがて煙が晴れるとそこには地平線へと続く道が延々と続いていた。
残念ながら町の姿を確認することは出来なかったが、道の続く先には間違いなく町があるはずだ。

ようやく、ようやく森を抜け町へと続く手がかりを得た喜びから俺は自然と叫び、思いっきり拳を空に突き上げていた。

「よっしゃあああぁぁ…………」

10日近くがんばった甲斐があった……それでさ、これで後は道なりに進むだけと思ったんだけどさ。
ふと気になることがあって、俺は自身の体をまじまじと見つめる。

ずっと森の中を着の身着のまま彷徨っていただけあって、服はぼろぼろだし体も結構汚れている。
ていうか右半身まっぱだし、ズボンもそのへんに生えてた草で縛ってなんとかずり落ちないようにしているだけ。そして何より右半身が木だ。

「これ、やばいよね。気味悪がられるならまだしも最悪モンスター扱いで命がやばいんじゃ……」

半身が裸だけならまだ誤魔化せると思う。でもこの木の部分はダメな気がする……。
えぇ……どうしよう。




あれから悩みに悩んだ末に俺はある解決策を思いついた。

いやもうほんと思いついたときは正直俺って天才じゃね? って思ったね。
そしてそのあと無性に泣きたくなった。


まあそれは置いといて。
俺が今何をしているかと言うと、思いついた解決策を実行すべく茂みにじっと身を潜め、道の様子を伺っているのだ。

ああ、ちなみに養分吸いまくってまっちょになったマイボディだけど、時間が経つにつれ徐々にしぼんでいって……いまは左側の倍ぐらいの太さになっている。
ずっとのあのままだったらどうしようかと思っていたけど元に戻りそうな感じで一安心である。
よくよく思い出すと走っているときも少しずつしぼんでいってた気がしなくもない。てことは何かで力を消費するか時間経過で元に戻るって感じなのかな、たぶん。

てか、それよりもですね。

「そもそも人いるのか? この世界……」

策を実行するには人の協力が不可欠である。
隠れてからそろそろ丸1日経つが未だに人は現れない。
轍はあるしそこまで荒れてないことからそれなりに人通りはあるはずなのだが……げせぬ。
ちょっぴり本当に人がいるのかと不安になってきたじゃないか。

「……なかなか来ないなあ。いい加減腹が減ってきたぞ……いや、減らんのだけど」

腹をさすってみるけど、別にお腹がすいている訳じゃない。
茂みに隠れてて動かないでいるため、今日も根っこが元気に養分を吸っている。
ただ、ずっと食べ物を口にしていないので気持ち的に空腹というやつだ。


そんな風に時間を潰していたその時だ。
俺からみて左手のほう、遠方ではあるがゆらゆらと揺れる影が見えた。
よくよく目を凝らして見ればそれは人影とおそらく馬車であろうことが確認できた。待望の人がついに姿を現したのだ。

「!!?? ひ、人だっ!」

10日振り、そしてこの世界では初めてとなる人との出会いに俺のテンションは爆上がりだ。
心臓はばっくんばっくんと煩いまでに鳴り、俺は緊張からか茂みから顔をだしては引っ込めと意味不明な行動を繰り返していた。


いや、ほんと何してんの俺……。


「間違いない人だ! お、落ち着け俺! 焦っちゃいけない、びぃーくぅーる」

落ち着けと自分に言い聞かせ深呼吸をする。
すると徐々にではあるが心臓の高鳴りは収まり、上がりまくっていたテンションもやや落ち着いてきた。

しかしいざその時がくるとなかなか怖い物がある。
一発でうまくいけば良いけど、いかなかった場合が怖い。
街道に変な奴がでると噂にでもなったら……この世界の住人がそこまで血の気多くないことを祈る。


……大分冷静になったところで改めて策の流れをお復習いしよう。

「……よし、俺は冷静だ。 確認しよう……ばれないように後を追う。 程よいタイミングでモンスターに襲われる馬車、ピンチになったところで颯爽と俺登場。 悪は滅びる。 そして感謝された俺はお礼がしたいと町へと案内され……完璧だ。 完璧すぎて不安しかねえ」

アホじゃねえのとか言わない。
何せ異世界に転生しているんだ、そんなテンプレ見たいなことが起きたっていいじゃないか。てかそれぐらい許されろ。


「しかしどんな敵が出るんだろうな? あんま強いのだとさすがに……」

自分で策考えておいてあれだけど、結構だめだめな策だよねこれ。

人影はもう近くまで来ていてどんな格好をしているかも確認出来るようになっていた。
なんていうか思っていたよりもずっと装備がしっかりしてそう……鎧もごついし、武器も見た目凶悪だし、その装備を身にまとっている本人もやたら筋肉質でいかついおっさんばか……あ、女性もいる。たぶん杖持ってるし軽装……つっても鎧っぽいのは着てるけど、たぶん魔法使いってやつなんだろうな。
弓持ってるのも女性……かな、たぶん。胸が薄くて線の細い男といまいち区別がつかない。
男の娘じゃないよね? よね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

悪役令嬢は最強を志す! 〜前世の記憶を思い出したので、とりあえず最強目指して冒険者になろうと思います!〜

フウ
ファンタジー
 ソフィア・ルスキューレ公爵令嬢5歳。 先日、第一王子セドリックの婚約者として初めての顔合わせでセドリックの顔を見た瞬間、前世の記憶を思い出しました。  どうやら私は恋愛要素に本格的な……というより鬼畜すぎる難易度の戦闘要素もプラスしたRPGな乙女ゲームの悪役令嬢らしい。 「断罪? 婚約破棄? 国外追放? そして冤罪で殺される? 上等じゃない!」  超絶高スペックな悪役令嬢を舐めるなよっ! 殺される運命というのであれば、最強になってその運命をねじ伏せてやるわ!! 「というわけでお父様! 私、手始めにまず冒険者になります!!」    これは、前世の記憶を思い出したちょっとずれていてポンコツな天然お転婆令嬢が家族の力、自身の力を用いて最強を目指して運命をねじ伏せる物語!! ※ この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。 上記サイトでは先行投稿しております。

処理中です...