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第35話

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 それから数時間経ち外も明るくなった頃、俺は起床した。
 ……。……。はぁ。いつもの事ながら、眠い。睡眠時は床に寝転がっていただけで、寝心地が最悪だった。そのせいで体の所々が痛い。全く迂闊だった。取り敢えず、この問題は早急に対処しよう。藁とか草を持ってくるだけで大分変わるはずだ。一度外に行き取ってくるとしよう。
 ――数分後。草は適当な歩き回ってかき集めることが出来た。そしてそれをルームに置く。これで簡易的にだが、ベットの完成だ。見た目は雑だが、ベットはベット。少しは寝心地が良くなるだろう。

 さて、問題が一つ解決した所で今日の予定についてだが……。うーむ、そうだな。今日は食料確保に専念するとしよう。場所は、慣れてる湖周辺が適任だろう。新居になって、食料は何も無いし、あの辺りの魔獣ならほとんど知っている。知らない魔獣と遭遇し、万が一という事も無いだろう。
 よし、準備する事すら無いし、早速食料確保に出発だ。

 新居からでて、まずは湖まで走る。時間はそう長くは掛からない。移動速度もそうだが、やはり新居が近いからだろう。湖も近いし、いずれ行く事になるであろう中央部にも近い。ホントいい所に拠点を構えることが出来た。
 と、そうこうしている内に、木々が途切れ、緑色の景色から一面エメラルドグリーンへと景色が変わる。そして壮大な湖が視界全体映し出される。
 っと、もう湖へ着いたのか。うーむ、そうだな……今日は湖を基点として南西にある小川の方で食料調達してみるか。以前あの辺りでレベル上げ……もとい、狩りをしていた時は人と会って結局、あれ以降小川の方向は行かなかったからな。
 よし、そうと決まれば、マップを表示して、再び進行開始。

 ――湖岸に沿って走ること数分後、ようやく俺は以前ワイルドフィッシュを狩りをしていた箇所に着いた。以前何度も何度も来ていただけの事だけあって、とても見慣れた景色。そして、目的地はここから見える、小川から先だ。マップがあるから、万が一という事も無いが、迷子にならないように一応川に沿って狩りをしよう。あと問題は、人間に会った時だが……まあ、これはいつも通り逃げるという事で何とかなるだろう。いくら、転生者で人間になることを目指しているといっても、魔獣は魔獣。化け物には変わりはない。こちらが攻撃しなくても絶対的に攻撃される。だからしばらくは我慢しなければ。
 よし……。それじゃ、小川に沿って食料調達開始だ!

 小川に沿って、道のようになっている岩の上を低速で走る。もちろん、マップの反応を見ながらだ。今の所、遭遇したのは懐かしのボアー君だ。近くの木々で、ムシャムシャしていたので、とりあえず【隠密】を使って接近。その後、腕に【硬化】を使って気付いていないボアー君を後ろから、どすん。これで終わってしまった。昔は苦労した、ボアー君も今やこんなに簡単に倒せるようになってしまった。時間の経過とは怖いものだ。……まあ、実際にはほんの数十日前の事なんだけど。ん? 数十日……。もうそろそろ、こっちに来て一か月経つのか。そう思うと、短いような長いような。取り敢えず、生きてきた中で一番内容の濃い一か月だった。

 そんなことを、思っている間に、マップに赤い点が表示された。
 っと、危ない。考え事していたせいで、見落とすところだった。まあ、そんなことは無いか。だって反応はこの先真っすぐの所。小川のど真ん中だ。反応は赤点二つ。……ん? マップ上の点が一つ消えた? どういう事だ? ……まあいい、行けばわかることだ。残りはあと数十メートル、そこの緩いカーブを曲がればすぐに見える。さて、次はいったいどんな奴か。消えた奴は確認前に消えたから名前が分からなかったが、残った赤点は確認しても名前が表示されなかった。つまりは初見の魔獣という事。毎回の事だが少しワクワクする。
 少しの期待を胸に、カーブを曲がり、そして魔獣の姿が少し先に現れる。茶色い毛並みを持ち、体長はおよそ4mほど。川の真ん中に四本足で立ち、口には大きな魚。恐らくはワイルドフィッシュだろう。魚をくわえた口には長い牙。その姿は木彫りの熊を思わせる。というか、どこからどう見ても、まんま熊である。だが、よく日本で見かけた可愛い熊のキャラクターって感じではない。顔とかも普通に怖い。
 そうか……今度は熊か。熊といったら……やっぱり殴り合い。熊ファイトだよな。何かリアルの熊だとそういう印象がある。ほら、あのゲームでも熊が殴って攻撃してきたし。となれば、ここは俺も近接でやるか。進化の時に習得した【硬化】これを、ボアー君の時みたいに両手に発動させて。レッツバトル!
 相手はこちらに気付いていないから、俺が先に先制攻撃をして、熊VSドラゴンっぽい蜥蜴のバトルの始まりだ。

 俺が一気に飛び出したのに数時遅れて、熊がこちらに気付く。そして遅れながらも左手を上げ、防御の姿勢をとる。だが、当然のことながら、俺の勢いをそんな生半可な防御で防げるはずもない。
 上げた左手を避け懐に回り込み腹部に一発。そして体を回して左足に【硬化】を使用し、回し蹴り。これで二発。
 回し蹴りの衝撃で熊は吹き飛び、近くの木に勢いよく激突。
 並みの魔獣ならここでダウンする。ちなみにここでいう並みというのは今まで狩ってきたCランク程度の魔獣の事だ。もともと高いドラゴニックリザードのステータスに【硬化】により強化された、拳と蹴りの二発。結構なダメージのはずだ。だが……。
 視界を向けると、吹き飛ばされた熊が腕に力を入れ、木から起き上がり、怒りの表情を向け、四本の脚で直立していた。
 凄いな、あの熊。そこまで格上って感じはしないが、雑魚ではない。身にまとうそのオーラがその辺の奴らとは違う。強さと言えば、そういや鑑定してなかったな。取り敢えず、名前とレベルだけでも、知っておこう。舐めてはかかれないから、少しでも相手の情報が欲しい。
 スキル【鑑定】

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名称:獰猛な茶熊獣フォーローシスベアー
危険度:C  LV 39

解説
 熊型の魔獣の一つ。全長は3から5m。名前の通り獰猛で、一部の森に存在する。この熊からとれる毛皮は斬撃体制や魔法体制が高く、当然のことながら熊自身も頑丈なため、攻撃もさることながら、防御が特に秀でている。熊型の魔獣の中でも上位種にあたり、更に進化をすると、大変なことになる。
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 なるほど。耐久がもとより高い魔獣な上、このレベルだからか。まあ、だからと言って今更撤退する気は無い。斬撃や魔法が利かないとなると、このまま【硬化】を使って近接戦闘をしたほうが良いだろう。
 さあ、熊。覚悟しろ。これから第2ラウンドの始まりだ。
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