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第32話

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 ウィンドウに表示されたルートを辿り、疾走疾走ただ疾走。スキル【疾走】も使い、全力で森を駆ける。瞬く間に次々と巨大な木々が通り過ぎていく。ウィンドウに表示された目的地まで、みるみると近づいていく。このペースなら、最初の洞窟にあと五分と経たずに到着することができそうだ。足があるってこんなにも素晴らしいんだなと、改めて実感する。

 その後、ほんの数分走り続けると、前方に一部木々がなくなっている所が見えた。矢印の示す目的地である。――っと、そろそろ目的地へ到着だ。
 少しの期待を抱きながら足を止め、その場所へ入ると、そこには目の前に切り立った崖と、その崖に暗く先の見えない洞窟が在った。自身よりも大きなその入り口、その姿はまるで大きな口が開いているようだ。
 おお……。これが、一つ目の洞窟か。何というか、正に洞窟って感じの見た目をしてるな。まあ、それは良いとして、拠点にするならまずは大きさだよな。入り口は今の俺の高さの1.5倍くらいはあるから良いとして、中で途中で狭くなってるかもしれない。だが迂闊に入るのは危険かもしれないな。先客がいるかもしれないし。
 一応周囲を見回し、それらしき跡は無いか確認する。――それらしき跡は無いか。うーむ、どうするか。一応それらしき跡は無いとはいえ、居ないとも限らない。それこそ、BやAの魔獣がいる恐れだってある。……まあ、何はともあれ、少々危険かもしれないが、中に入らないことには始まらない。取り敢えず中に入ってみよう。どうせここがダメだったら、別の所へ行かないとダメなんだし。ぱっぱと確かめちゃおう。
 一応、安全対策の為に身体強化と察知に才けたスキル【熱感知】【隠密】【聞き耳】【危機察知】【疾走】そして、新しく習得した【硬化】をすべて使用していこう。いくらステータスが上がったとはいえ、俺は慢心しない。到底太刀打ちできそうもない格上の存在を俺はもう知っているからだ。目をつむるとふと思い出す湖中心付近の湖底での出来事。あんな怖い思いはもう二度とごめんだ。
 ……ふぅー。洞窟に入る前に入り口前で一度息をつき、自分の中で覚悟を決める。そして俺は洞窟へと一歩を踏み出した。

 少し歩くと入り口からの光もなくなり、暗闇となった洞窟の中。洞窟内は夜の暗闇とは少し違う、静けさをもっていた。いくら目的があるとはいえ、とてもでは無いが夜目が利く現在の体でなければ早々に引き返していただろう、そのくらい真っ暗な道だ。
 おお、凄く暗いな。夜目が利いてよかった。もし夜目が利かなかったら、こっちにはライトもないし洞窟なんて歩けないからな。そして、この洞窟中に入ってみて分かったが中も結構広いんだな。横幅は、自分二人分くらい横に並べるくらいの広さあるし、天井の高さも入り口と同じくらいの広さ。そして奥は続いている。こんだけ広ければ、住めなくはなさそうだな。……っと、そうだ。中に入ったんだから、マップを開いて洞窟の全貌を把握しないとな。
 スキル【鑑定】洞窟内マップ。

 俺の声に反応し、他の洞窟の位置を示していたウィンドウの表示がこの洞窟内のマップへと変わる。そして、洞窟の形が二次元でシンプルに表示される。表示された洞窟は、くねくねとした少し長い一本道と、その先の大きなホールという、単純な構造だった。
 ふむふむふむ。なるほど。この洞窟、少々曲がりくねってはいるが、一本道なのか。それは、進みやすそうだな。分かれ道なんてあったら、迷路見たいで流石に進むの面倒だからな。いくらマップがあるからといって。それに対して、一本道なのはありがたいんだが……。
 俺はウィンドウに表示された奥にあるホールに目を向ける。実はそこに一つの赤点が表示されていたのだ。
 先客がいるのか……。それらしい、跡は無かったと思うんだけどな。まあ、そんなの専門家でも何でもない初心者の俺がやったわけだから、気が付かないのも無理はないか。それにしてもこの赤点、注目しても名前が表示されないってことは、今までに出会った事が無い魔獣なのか。それに、水中蜥蜴の時よりも赤点のサイズが少し大きい。単に大きさが大きい魔獣なだけならいいんだが、高ランクの相手だったら厄介だな。……まあ、それでも一応顔くらいは拝んでから決めよう。もし無理そうな敵でも、素早さが六百台でそれが【疾走】と【逃げ足】で計十五倍になるんだから逃げきれないことは無いだろう。よし、それじゃあ先へ進もう。
 ――そこから数分後、次の角を曲がればホールという所まで来た。ふぅー。やっぱり、少し怖いな。でも、覚悟を決めよう。どうせ逃げれば何とかなる。だから、なにも恐れることは無い。拠点探しの一個目の洞窟。先客はいったいどんな魔獣なのか拝見させて頂こう。
 勢いをつけ、ばっと角を曲がる。すると同時に、広い空間とその真ん中にいる一匹の巨大な魔獣が姿を現す。幅、長さともに五十メートルほどの空間、そんな広い空間でもとてつもない存在感を放つ一匹の魔獣。
 じっと座り込んでいる為、長さを図りずらいが、ぱっと見五メートルはあろうかという大きな体。サファイアを連想させるような、青く力強い瞳。雪のような純白の毛並みに、それと対を成すような黒いストライプの模様。自分の腕より一回り程大きな前足の手からは、サーベルのような長く鋭利な五本の鉤爪が伸びている。口にはナイフのような二本の牙。一目で魅了されてしまいそうな、美しさと力強さを感じさせるその姿は、まさしく中国の伝説上の神獣「白虎」そのものだった。


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 読者の皆様へのお知らせ

 いくつか表記の変更を考えている為、このような形をとりお伝えします。変更内容は、スキルのカッコ表示と、ステータスの表記の変更です。実は今話から、スキルのカッコ表示は変更しているのでこんな感じになると思ってください。少しでも見やすくなって頂けると幸いです。また、これまでに書いた話に関しては直すのに少々時間がかかると思いますので、ご了承ください。

※このお知らせは、変更が完了次第削します。
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