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ダイダロス・カフェ

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 ロボテクストラベル社の入っているビルから、地下鉄の駅までの間、一応都心にありながら、乗降人数の少ない駅近くの路地に、小さな看板が出ている。木彫のプレートを、市販のイーゼルにのせただけの簡単なもので、プレートにはカタカナで『ダイダロス・カフェ』と書いてあった。

 退勤して、ビルを出ると、小雨が降っていたが、傘を出すのが面倒なオーノは小走りで『ダイダロス・カフェ』へ向かった。ロボテクストラベル社の社員は、こちら側の地下鉄よりも、ビルを挟んで反対側、地下道を通ってたどりつく事のできるターミナル駅を利用する者の方が多く、『ダイダロス・カフェ』で、オーノは同僚に出くわした事が無い。カフェと名乗ってはいるが、酒も充実していて、軽食のメニューもあり、夕食を作るのが面倒な時などに、立ち寄る気に入りの場所だ。

 数少ない憩いの場所を、オーノは初めて同僚に教え、遅れてくるマツモトの到着を待った。

 オーノが店内に入ると、雨のせいか、自分以外に客はおらず、まずはカウンターについて、飲み物だけオーダーした。

 オーノは、繁盛していない店が好きだ。少々清掃が行き届いていなかったり、接客態度に難があるような。

 もちろん、客を恫喝するようなケースは問題外だが、素っ気ないくらいがちょうどよい。

 気に入った店には通い詰め、執拗に同じメニューを注文するので、馴れ馴れしく話しかけたりくるようなスタッフはかえって困る。

 当然、長居もしづらくなる。

 ダイダロス・カフェは、特別何が美味しいという店では無いが、本業では無いようなゆるさと、適度なBGM、居心地の良さでは出色だった。

 しかし、オーノが気に入って通い詰める店は何故かいつのまにか閉店してしまう。

 つぶれかけの店にオーノが惹かれて通っているのか、オーノの好むような店は長く続かないのか。

 ともかく、ダイダロス・カフェが潰れるまでは、通うつもりでいるのだった。

 紅茶を頼んで(ポットでお湯のおかわりができる事も気にってる)、一杯飲み終えたところで、古風なドアベルが鳴った。ドアにつけてあるものが鳴っているので、合成音声では無い。本物の音色だ。

「こんなところに店があったんですね、もーちょい先のパスタ屋には時々行くんですが」

 マツモトが来た所で、オーノはボックス席へ移動する事にした。

 カウンターで二人分の注文を済ませてから、いるもやる気のなさそうな初老のマスターにひと言行って席を移る。

 マツモトとオーノはひとしきり店の事を話し、オーノの注文した、ペペロンチーノ、ホワイトアスパラ添えと、マツモトの頼んだエビピラフが運ばれ、食べ終えて所で、本題に入ることにした。
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