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舞台の下で活動する面々(5)
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「茜さん、やっぱり瀬尾さんに言った方がよくないですか?」
ベッドは、眠る時にカーテンをひくようにしている為、外の音がよく聞こえない。だから、その声もぼそぼそと聞こえてきた。
晶子が、声が響かないように配慮をしてしゃべっているのがわかった。
「……言いたくない」
一方、茜の方は多少は配慮はしているのだろうが、語気が荒いせいで比較的しっかりと聞き取れた。
志信は、枕元にあったスマホを手に取り、時間を確かめた。まだ六時にもなっていない。まさか二人は徹夜をしたのだろうか、と、思ったが、志信が眠る前に響いていたキーボードの音が止んでいる事から、早く起きたのかもしれない、とも、思った。
どちらにしろ、自分が寝ていると思っての話なのだろうし、聞くべきでは無い、と、寝直そうと枕に顔をうずめようとした。
「真尋さんだったら、もうとっくに茜さんの意図に気づいてそうな気もしますけどね」
真尋の名が出たことで、志信の好奇心の天秤がかたむいた。
「ファイルのアクセス履歴に真尋くんの名前は無かったし」
「でも、あの人だったら、別人のアカウントで、って事もできるんじゃないですか? 瀬尾さんと真尋さん、組んでるって思うのが普通じゃないですか、瀬尾さんが真尋さんを頼るだろうってくらいの予測、私にだってできますよ」
晶子の言葉に対して、茜は沈黙を通している。
志信は、断片的な情報を得て、今回茜が寮に来た意味と、真尋との関係について思いを巡らせた。年齢から考えて、茜と真尋は同級生なのだろう。ならば、何度か話に出ている『瀬尾』というのも、茜にとっては同級生に違いない。
同級生の三人、男子二人に女子一人、外には出られない、出たくないと言う茜。
何があったんだろう、志信は、真尋に直接尋ねてみたいという衝動にかられたが、真尋とは連絡先の交換はしていない。部屋へ行けば会えるし、真尋と直接連絡をとる必要が無かったからだ。
ならば、真尋と同じフロアで、後輩の辰巳譲二に尋ねてみようか、と、思ったが、今ゴソゴソと動き出して、外にいる先輩達に気づかれるのも、聞き耳をたてている事に気づかれてしまう。
志信は、もどかしさを感じながら、極力動かないようにして意識を耳に集中させた。
「茜さん、私は、瀬尾さんと真尋さんにちゃんと話をして協力してもらった方がいいと思います」
「それはダメ、真尋くんはともかく瀬尾は……、リアルに迷惑がかかるもの、結局、真尋くんはどうなったって学生だし、直接関係してるわけじゃないからいいけど、瀬尾は、あの人にとっては部下なんだし」
「だったら何で瀬尾さんと絡むところでこんな作戦たてたんですか、今回、どうやったって瀬尾さんに迷惑はかかりますよ?」
「わかってる……、わかってるけどさ」
何かをしようとしている茜に対して、晶子は瀬尾という人物に協力を求めるべきだと説いている。そして、瀬尾という人物が、真尋を動かすという事は予想していなかったような茜の口ぶりだ。
茜は、真尋が留年し続けているという事は知らない様子だった。そこまで付き合いが深くないのか、単純に関心が無かったのか。
真尋も、自分から積極的に連絡をとってくるような性質では無いから、互いで連絡をとらずにいたところで疎遠になったままだったのだろう。
何とも、真尋らしい。志信は思った。
「茜さん、いいんですか? もし茜さんが直接言うのが嫌なら私が言っても」
そう言いかけた晶子が、気まずそうに言葉を区切った。
志信は、なぜか、晶子を止めた茜の表情が思い浮かぶような気持ちがした。
のどかそうな優しげな眼差しが、時折見せる驚くほど冷徹な視線。それは、茜の秘められた意志の強さが、わずかに、これだけは譲るまいとしている物を守ろうとしているように志信には思えた。
「言うなら、私が自分で行くから……、ゴメン、晶子にまで迷惑かけちゃって」
我に返ったように冷静に言う茜の声に、志信もまた、何か協力できる事はないのだろうか、と、思い始めていた。
ベッドは、眠る時にカーテンをひくようにしている為、外の音がよく聞こえない。だから、その声もぼそぼそと聞こえてきた。
晶子が、声が響かないように配慮をしてしゃべっているのがわかった。
「……言いたくない」
一方、茜の方は多少は配慮はしているのだろうが、語気が荒いせいで比較的しっかりと聞き取れた。
志信は、枕元にあったスマホを手に取り、時間を確かめた。まだ六時にもなっていない。まさか二人は徹夜をしたのだろうか、と、思ったが、志信が眠る前に響いていたキーボードの音が止んでいる事から、早く起きたのかもしれない、とも、思った。
どちらにしろ、自分が寝ていると思っての話なのだろうし、聞くべきでは無い、と、寝直そうと枕に顔をうずめようとした。
「真尋さんだったら、もうとっくに茜さんの意図に気づいてそうな気もしますけどね」
真尋の名が出たことで、志信の好奇心の天秤がかたむいた。
「ファイルのアクセス履歴に真尋くんの名前は無かったし」
「でも、あの人だったら、別人のアカウントで、って事もできるんじゃないですか? 瀬尾さんと真尋さん、組んでるって思うのが普通じゃないですか、瀬尾さんが真尋さんを頼るだろうってくらいの予測、私にだってできますよ」
晶子の言葉に対して、茜は沈黙を通している。
志信は、断片的な情報を得て、今回茜が寮に来た意味と、真尋との関係について思いを巡らせた。年齢から考えて、茜と真尋は同級生なのだろう。ならば、何度か話に出ている『瀬尾』というのも、茜にとっては同級生に違いない。
同級生の三人、男子二人に女子一人、外には出られない、出たくないと言う茜。
何があったんだろう、志信は、真尋に直接尋ねてみたいという衝動にかられたが、真尋とは連絡先の交換はしていない。部屋へ行けば会えるし、真尋と直接連絡をとる必要が無かったからだ。
ならば、真尋と同じフロアで、後輩の辰巳譲二に尋ねてみようか、と、思ったが、今ゴソゴソと動き出して、外にいる先輩達に気づかれるのも、聞き耳をたてている事に気づかれてしまう。
志信は、もどかしさを感じながら、極力動かないようにして意識を耳に集中させた。
「茜さん、私は、瀬尾さんと真尋さんにちゃんと話をして協力してもらった方がいいと思います」
「それはダメ、真尋くんはともかく瀬尾は……、リアルに迷惑がかかるもの、結局、真尋くんはどうなったって学生だし、直接関係してるわけじゃないからいいけど、瀬尾は、あの人にとっては部下なんだし」
「だったら何で瀬尾さんと絡むところでこんな作戦たてたんですか、今回、どうやったって瀬尾さんに迷惑はかかりますよ?」
「わかってる……、わかってるけどさ」
何かをしようとしている茜に対して、晶子は瀬尾という人物に協力を求めるべきだと説いている。そして、瀬尾という人物が、真尋を動かすという事は予想していなかったような茜の口ぶりだ。
茜は、真尋が留年し続けているという事は知らない様子だった。そこまで付き合いが深くないのか、単純に関心が無かったのか。
真尋も、自分から積極的に連絡をとってくるような性質では無いから、互いで連絡をとらずにいたところで疎遠になったままだったのだろう。
何とも、真尋らしい。志信は思った。
「茜さん、いいんですか? もし茜さんが直接言うのが嫌なら私が言っても」
そう言いかけた晶子が、気まずそうに言葉を区切った。
志信は、なぜか、晶子を止めた茜の表情が思い浮かぶような気持ちがした。
のどかそうな優しげな眼差しが、時折見せる驚くほど冷徹な視線。それは、茜の秘められた意志の強さが、わずかに、これだけは譲るまいとしている物を守ろうとしているように志信には思えた。
「言うなら、私が自分で行くから……、ゴメン、晶子にまで迷惑かけちゃって」
我に返ったように冷静に言う茜の声に、志信もまた、何か協力できる事はないのだろうか、と、思い始めていた。
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