上 下
12 / 51
千錦寮の秘密?

事件発生!? 緊急寮生大会(4)

しおりを挟む
「どっちかっていうと、私は学ランの方が……、あ、そういえば、寮食歌の時、歌ってくれた人って」

「あー、あれはね、一刻寮の『寮歌保存会』の人達』

「寮歌保存会って……」

「寮歌はフェイクじゃなくて、本当にあるの、寮食歌はその替え歌、でも、私が一年の時からあのフェイクはあったから、そこそこ千錦寮の伝統と言えなくはないかなー」

 あのバンカラ大学生達はリアルに存在しているんだ、と、思い、志信は胸がときめいている事を自覚した。

「あ! でも、あれだよ? 彼らはいつもあの格好ってわけじゃないよ?」

 あわてて早希が否定した。

「なんだ、そうなんですか……」

「そこでがっかりする志信ちゃんに驚きだよ、私は……」

 佳織が驚いた様子で言った。

「え、でも、かっこよかったよね?」

 志信が同意を求めて和美を見つつ言うと

「いやー……どうかなー」

 寮歌保存会の事で志信達が盛り上がっている一方で、晶子達監査委員は必死に里香に謝罪していた。

「ゴメン! ゴメンよう、里香ちゃん、怖かった? 怖かったよね?」

「いえ、なんか、言葉につまっちゃって……」

 里香も、にこやかに答えている。

「本当はアズがフォローに入るはずだったんだよ!」

 わざと怒ったように晶子が言うと、アズと呼ばれた監査委員の一人が、ゴメーンとおがむような手を作って見せた。

「ショーコ先輩マジ怖かったですもん、しょーがないですよ」

 そんな会話に特攻服姿の真帆が混ざって、会話している様子は、さっきまで険悪な雰囲気を出していたようにはとても見えない。

「いやー、真帆も怖かったねー」

「これ読んで勉強しましたから」

 そう言って、真帆は懐に入れておいたレディース漫画を数冊出して見せた。

「これ、図書自習室にあったやつ?」

 真帆から受け取って里香がパラパラとめくってみた。

「うわー、懐かしい、これ、いつの本よ」

「あー、私、これ、読んでた、小学生の時」

「どんな小学生だ、コレ、青年誌じゃなかった?」

「連載してたの、チャンピオンだから一応少年誌じゃない?」

 食堂のあちこちで、にぎやかそうな声がわく。

「あー、なるほど、皆で一年生を騙すかわりに、こうやって話題ができるってわけか」

 納得したように志信が言い、そして、和美に言った。

「和美ちゃん、もしかして、気づいてた? ってか、疑ってた?」

 志信に言われて、和美は少し照れた様子で答えた。

「ん、昼間、志信ちゃんが男子寮の人達と話てて、あれ? って」

「あ、ジョージの態度か、なんか、奥歯に何かはさまってた感じだもんね」

「情報統制は毎年やるんだけどさ、やっぱどこかしらか漏れるよね」

「まあね、実質二日間くらいやるわけだからね、しょうがないって」

 早希と佳織もいたしかたないという感じで言った。

 早希達の時は『おめでた』ネタだったという。

 四年生の先輩が妊娠したという事にして、結婚祝いをするからと食堂に集められ、来てみたら……という事だったそうだ。

「あー、それなら、平和でいいかなー」

 志信が言うと、

「今年はね、こないだの不審者事件があったから、戸締まりの重要性について肌身に感じて欲しいっていう思惑もあったみたい」

 早希がフォローした。

 緊張感漂うなかから一気に和やかな雰囲気になるとうのは、エンターテイメントなどでも使う手法ではあるし、実際今それで話題ができたというのが、このイベントの狙いなのかもしれないな、と、志信は思った。

「まあ、これもね、加減が難しいんだけどね」

「何年か前は退寮を考えたって子もいたし、その子は……すぐにではないけど、結局、寮は出ちゃったんだけど」

 今度は四年生が話に混ざってきた。

「まあ、来年は来年で工夫して」

 そう言って四年生の先輩はぐいっとビールを飲み干した。

「そっか、今度は私達が騙す立場になるわけか」

 志信が、オレンジジュースをちびちび飲みながら言うと、

「騙すって、人聞き悪いからヤメて」

 早希が懇願するように志信にとりすがった。

「いや、でも実際騙されましたし、先輩方演技上手いなー」

 志信が楽しそうに言うと、

「でもねー、騙す方もそれはそれで緊張するんだよ、私なんて、バイトに逃げちゃったし」

 佳織が苦笑しながら言った。

 新入寮生をもてなす為とはいえ、自分たちを偽り続けていた上級生たちも、
 慣れない環境の、さらに特殊な習慣に戸惑い続けた新入生たちも、
 全員が素の自分達にもどったように、なごやかな雰囲気が皆を包み込む。

 短いならがも、歓迎の宴は、ささやかに、しかし暖かく、新しい仲間を受け入れるように開催されたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クズはウイスキーで火の鳥になった。

ねおきてる
ライト文芸
まさか、じいちゃんが教祖で腹上死!? この美人はじいちゃんの何? 毎日、夜12時に更新します。(できるだけ・・・)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る

通りすがりの冒険者
ライト文芸
高校2年の安藤次郎は不良たちにからまれ、逃げ出した先の教会でフランチェスカに出会う。 スペインからやってきた美少女はなんと、あのフランシスコ・ザビエルを先祖に持つ見習いシスター!? ゲーマー&ロック好きのものぐさなフランチェスカが巻き起こす笑って泣けて、時にはラブコメあり、時には海外を舞台に大暴れ! 破天荒で型破りだけど人情味あふれる見習いシスターのドタバタコメディー!

処理中です...