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千錦寮の秘密?
事件発生!? 緊急寮生大会(4)
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「どっちかっていうと、私は学ランの方が……、あ、そういえば、寮食歌の時、歌ってくれた人って」
「あー、あれはね、一刻寮の『寮歌保存会』の人達』
「寮歌保存会って……」
「寮歌はフェイクじゃなくて、本当にあるの、寮食歌はその替え歌、でも、私が一年の時からあのフェイクはあったから、そこそこ千錦寮の伝統と言えなくはないかなー」
あのバンカラ大学生達はリアルに存在しているんだ、と、思い、志信は胸がときめいている事を自覚した。
「あ! でも、あれだよ? 彼らはいつもあの格好ってわけじゃないよ?」
あわてて早希が否定した。
「なんだ、そうなんですか……」
「そこでがっかりする志信ちゃんに驚きだよ、私は……」
佳織が驚いた様子で言った。
「え、でも、かっこよかったよね?」
志信が同意を求めて和美を見つつ言うと
「いやー……どうかなー」
寮歌保存会の事で志信達が盛り上がっている一方で、晶子達監査委員は必死に里香に謝罪していた。
「ゴメン! ゴメンよう、里香ちゃん、怖かった? 怖かったよね?」
「いえ、なんか、言葉につまっちゃって……」
里香も、にこやかに答えている。
「本当はアズがフォローに入るはずだったんだよ!」
わざと怒ったように晶子が言うと、アズと呼ばれた監査委員の一人が、ゴメーンとおがむような手を作って見せた。
「ショーコ先輩マジ怖かったですもん、しょーがないですよ」
そんな会話に特攻服姿の真帆が混ざって、会話している様子は、さっきまで険悪な雰囲気を出していたようにはとても見えない。
「いやー、真帆も怖かったねー」
「これ読んで勉強しましたから」
そう言って、真帆は懐に入れておいたレディース漫画を数冊出して見せた。
「これ、図書自習室にあったやつ?」
真帆から受け取って里香がパラパラとめくってみた。
「うわー、懐かしい、これ、いつの本よ」
「あー、私、これ、読んでた、小学生の時」
「どんな小学生だ、コレ、青年誌じゃなかった?」
「連載してたの、チャンピオンだから一応少年誌じゃない?」
食堂のあちこちで、にぎやかそうな声がわく。
「あー、なるほど、皆で一年生を騙すかわりに、こうやって話題ができるってわけか」
納得したように志信が言い、そして、和美に言った。
「和美ちゃん、もしかして、気づいてた? ってか、疑ってた?」
志信に言われて、和美は少し照れた様子で答えた。
「ん、昼間、志信ちゃんが男子寮の人達と話てて、あれ? って」
「あ、ジョージの態度か、なんか、奥歯に何かはさまってた感じだもんね」
「情報統制は毎年やるんだけどさ、やっぱどこかしらか漏れるよね」
「まあね、実質二日間くらいやるわけだからね、しょうがないって」
早希と佳織もいたしかたないという感じで言った。
早希達の時は『おめでた』ネタだったという。
四年生の先輩が妊娠したという事にして、結婚祝いをするからと食堂に集められ、来てみたら……という事だったそうだ。
「あー、それなら、平和でいいかなー」
志信が言うと、
「今年はね、こないだの不審者事件があったから、戸締まりの重要性について肌身に感じて欲しいっていう思惑もあったみたい」
早希がフォローした。
緊張感漂うなかから一気に和やかな雰囲気になるとうのは、エンターテイメントなどでも使う手法ではあるし、実際今それで話題ができたというのが、このイベントの狙いなのかもしれないな、と、志信は思った。
「まあ、これもね、加減が難しいんだけどね」
「何年か前は退寮を考えたって子もいたし、その子は……すぐにではないけど、結局、寮は出ちゃったんだけど」
今度は四年生が話に混ざってきた。
「まあ、来年は来年で工夫して」
そう言って四年生の先輩はぐいっとビールを飲み干した。
「そっか、今度は私達が騙す立場になるわけか」
志信が、オレンジジュースをちびちび飲みながら言うと、
「騙すって、人聞き悪いからヤメて」
早希が懇願するように志信にとりすがった。
「いや、でも実際騙されましたし、先輩方演技上手いなー」
志信が楽しそうに言うと、
「でもねー、騙す方もそれはそれで緊張するんだよ、私なんて、バイトに逃げちゃったし」
佳織が苦笑しながら言った。
新入寮生をもてなす為とはいえ、自分たちを偽り続けていた上級生たちも、
慣れない環境の、さらに特殊な習慣に戸惑い続けた新入生たちも、
全員が素の自分達にもどったように、なごやかな雰囲気が皆を包み込む。
短いならがも、歓迎の宴は、ささやかに、しかし暖かく、新しい仲間を受け入れるように開催されたのだった。
「あー、あれはね、一刻寮の『寮歌保存会』の人達』
「寮歌保存会って……」
「寮歌はフェイクじゃなくて、本当にあるの、寮食歌はその替え歌、でも、私が一年の時からあのフェイクはあったから、そこそこ千錦寮の伝統と言えなくはないかなー」
あのバンカラ大学生達はリアルに存在しているんだ、と、思い、志信は胸がときめいている事を自覚した。
「あ! でも、あれだよ? 彼らはいつもあの格好ってわけじゃないよ?」
あわてて早希が否定した。
「なんだ、そうなんですか……」
「そこでがっかりする志信ちゃんに驚きだよ、私は……」
佳織が驚いた様子で言った。
「え、でも、かっこよかったよね?」
志信が同意を求めて和美を見つつ言うと
「いやー……どうかなー」
寮歌保存会の事で志信達が盛り上がっている一方で、晶子達監査委員は必死に里香に謝罪していた。
「ゴメン! ゴメンよう、里香ちゃん、怖かった? 怖かったよね?」
「いえ、なんか、言葉につまっちゃって……」
里香も、にこやかに答えている。
「本当はアズがフォローに入るはずだったんだよ!」
わざと怒ったように晶子が言うと、アズと呼ばれた監査委員の一人が、ゴメーンとおがむような手を作って見せた。
「ショーコ先輩マジ怖かったですもん、しょーがないですよ」
そんな会話に特攻服姿の真帆が混ざって、会話している様子は、さっきまで険悪な雰囲気を出していたようにはとても見えない。
「いやー、真帆も怖かったねー」
「これ読んで勉強しましたから」
そう言って、真帆は懐に入れておいたレディース漫画を数冊出して見せた。
「これ、図書自習室にあったやつ?」
真帆から受け取って里香がパラパラとめくってみた。
「うわー、懐かしい、これ、いつの本よ」
「あー、私、これ、読んでた、小学生の時」
「どんな小学生だ、コレ、青年誌じゃなかった?」
「連載してたの、チャンピオンだから一応少年誌じゃない?」
食堂のあちこちで、にぎやかそうな声がわく。
「あー、なるほど、皆で一年生を騙すかわりに、こうやって話題ができるってわけか」
納得したように志信が言い、そして、和美に言った。
「和美ちゃん、もしかして、気づいてた? ってか、疑ってた?」
志信に言われて、和美は少し照れた様子で答えた。
「ん、昼間、志信ちゃんが男子寮の人達と話てて、あれ? って」
「あ、ジョージの態度か、なんか、奥歯に何かはさまってた感じだもんね」
「情報統制は毎年やるんだけどさ、やっぱどこかしらか漏れるよね」
「まあね、実質二日間くらいやるわけだからね、しょうがないって」
早希と佳織もいたしかたないという感じで言った。
早希達の時は『おめでた』ネタだったという。
四年生の先輩が妊娠したという事にして、結婚祝いをするからと食堂に集められ、来てみたら……という事だったそうだ。
「あー、それなら、平和でいいかなー」
志信が言うと、
「今年はね、こないだの不審者事件があったから、戸締まりの重要性について肌身に感じて欲しいっていう思惑もあったみたい」
早希がフォローした。
緊張感漂うなかから一気に和やかな雰囲気になるとうのは、エンターテイメントなどでも使う手法ではあるし、実際今それで話題ができたというのが、このイベントの狙いなのかもしれないな、と、志信は思った。
「まあ、これもね、加減が難しいんだけどね」
「何年か前は退寮を考えたって子もいたし、その子は……すぐにではないけど、結局、寮は出ちゃったんだけど」
今度は四年生が話に混ざってきた。
「まあ、来年は来年で工夫して」
そう言って四年生の先輩はぐいっとビールを飲み干した。
「そっか、今度は私達が騙す立場になるわけか」
志信が、オレンジジュースをちびちび飲みながら言うと、
「騙すって、人聞き悪いからヤメて」
早希が懇願するように志信にとりすがった。
「いや、でも実際騙されましたし、先輩方演技上手いなー」
志信が楽しそうに言うと、
「でもねー、騙す方もそれはそれで緊張するんだよ、私なんて、バイトに逃げちゃったし」
佳織が苦笑しながら言った。
新入寮生をもてなす為とはいえ、自分たちを偽り続けていた上級生たちも、
慣れない環境の、さらに特殊な習慣に戸惑い続けた新入生たちも、
全員が素の自分達にもどったように、なごやかな雰囲気が皆を包み込む。
短いならがも、歓迎の宴は、ささやかに、しかし暖かく、新しい仲間を受け入れるように開催されたのだった。
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