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寮食堂に歌え!

ようこそ、千錦寮へ(3)

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「あれ? でも、あの歌って、女子寮だけなんですか? あっちの、男子寮の人たちはそれぞれのタイミングで食べてるみたいですけど」

 志信が、早速疑問に思った事を口にした。
 早希と佳織は、少し困ったような顔をして、互いを見た。
 その時、急に話に加わった者がいた。

「説明しましょう」

 早希達のさらに向こう側に座っていた一人が、一年生達に向かって声を張り上げた。

「ショーコ先輩……」

 早希達が『先輩』と言うからには、三年生か四年生だろうか。
 ワンレンの長い髪を、ゆるやかに背中で無造作に結わえた、眼光鋭い女性だった。

「ここ、三角大学は、そもそも旧制三角高校と、三角師範学校が統合して新制三角大学になっていて、旧制高校は、全寮制だった事から、ここ、一刻寮も、そうした旧態然とした学生寮の流れをくんでいます、けれど、それは男子寮の話、新制三角大学以降作られたこちら、女子寮、千錦寮には、そうした伝統がありません、……まあ、とはいっても、築年数としては半世紀ほどたってはいるけど……、というわけで、昔懐かしい学生寮の気風をたやすまいと、自主的に始めたってわけ」

 一息にまくしたて、早々に昼食を済ませたショーコ先輩は立ち去っていった。
 竜宮昌子(たつみや しょうこ)、三年生で千錦寮監査委員長らしい。

「寮監とか、監督生とか、まあ、そんなポジションの人、監査委員はショーコ先輩の他にもあと三人いて」

 早希が語尾を濁すと、佳織が続けた。

「元レディースらしいよ?」

 はい? と、一年生四人は怪訝そうな顔を作った。

 佳織は、周囲をうかがうようにして声をひそめ、続きは部屋に戻ったら、と、締めくくった。

 最初のインパクトに気を取られていたが、昼食のカレーは美味だった。これで250円は安い、と、志信は思った。
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