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一年生交流会

始まらずに終わった恋(1)

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 おそらく、いま、慎吾に聞けば、相手の名前もわかるんだろう。しかし、それを聞く心の準備は、志信にはまだ無かった。

 聞きたくない、知りたくないと思う話ほど、すぐに耳に入ってくるものなのかもしれない。部屋に戻ると、和美と志信が、それぞれ一年生交流会の副委員長と会計になった事を聞いた佳織が、意図せずして前年の副委員長の名前を志信へ告げた。

 一年生交流会の委員長副委員長は付き合うという、一刻寮で言い伝えられているジンクス、委員長は羊谷悠嘉、そして、副委員長は。

 寅田早希。

 悠嘉の恋人は、志信のごくごく身近に居た。

 志信は、知ってしまった事実が、胸の奥に重く、わだかまる思いを感じていた。

 和美が、悠嘉に思いを寄せているかもしれない、そんな風に思っていたりもした。

 しかし、それは、あくまで志信が、『そうだったらいやだな』という妄想の一つにすぎない。

 だが、今されている話はそうでは無い。

 もしかしたら、ジョージが持っている情報は古いのかもしれない。

 けれど、伝えられたジンクスは、実際に付き合っている二人がいてこそ説得力を持つ。

 少なくとも、ジョージが知る範囲で、悠嘉と、早希は付き合っているというのは事実として認知されている事なのだ。

 もちろん、今、ジンクスの話をして、佳織にそういった事実がある事を確かめる事はできる。しかし、その話をした時に、志信は取り乱さずにいられる自信が無かった。

 自分でも、思っていた以上に、志信は悠嘉の事を思っていたのだろうか。

 いや、これは、推しのアイドルに恋人がいた事実を知った状況に近かった。

 誰かとこの気持ちを共有したいと思っても、志信は、誰にもその気持ちを言っては居ない。確かに、和美達に、あの、入寮時のドッキリに現れた悠嘉の姿がりりしく、格好良かったといった事は言ったが、その話はそこで終わっている。

 和美と佳織は、昨年の一年生交流会の時の話をしているが、志信の耳には届いていなかった。

 ダメ押しに、早希がバイトから戻ってくると、いたたまれなくなった志信は、風呂に行くと言って、部屋を出て行った。
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