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【5】彼女の中の
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……夜、外には行けない。インターネットを閲覧するだけなら好きにできる、それどころか有料コンテンツも見放題ではあるが、よく考えたら自分はそこまでエロの人ではなかったユズルは夜の過ごし方を持て余し気味だった。
栄養バランスのとれた食事と運動は、外にいたころよりもユズルを健康にしてくれたが、健全な肉体に対してわきあがるものについてはあまり考えないようにしていた。
心臓を下にして眠るといいらしいと左半身を下にして横たわったがかえって鼓動が耳についていっそう目が冴えてしまった。
一瞬、ベッドサイドに置いたままのゴーグルを見る。
この部屋を割り当てられた時に一度おもしろがって使いはしたが、激しい後悔、そして虚無感に襲われてやりきれない気持ちになってしまい、かといって強力に使うまいと封印したりはしていないゴーグル。
酒の力を借りたらもしかして……と、起き上がる。
ビジネスホテルの一室のようなそこは、小さな冷蔵庫もある。中から缶ビールを取り出してプルトップにてをかけたところで天井からかすかに物音がした。
それはあきらかに何かが移動しているような音だった。
ねずみや猫にしては軽くない音は、まるで人が移動しているようだ。
気まぐれに、ユズルは机にのり、点検口に手を伸ばした。マイナスドライバーがあれば話は簡単だったが、無いので、十円玉を差し入れてひねる。
現状ほとんど使う事は無いが、ここへ来る時に持ってきた荷物の中に財布があった。
日頃であればそんな事考えもしなかったが、やはり変化を求めていたのだろう。
刺激的な何かを求めての行動だった。
天井裏は当然ながら暗かった。安普請のアパートだと天井の明かりが漏れていたりする事もあるのだが、そんな事は無かった。
暗い中、目をこらしているが、確かに何かが動いたような気配があって、振り向くと……。
匍匐前進をしていた人物が、下からの明かりに照らされたユズルの姿を補足したように速度をあげた。
「な……ッ」
驚いてユズルが声をあげる前に、匍匐前進で近づいて来た人物が距離を詰めて来た。
「そこ、どけッ!」
物言いは乱暴だったが、声の主は女だった。
驚いてよろけたユズルはベッドの方へ倒れこみ、それに続いて女が天井裏から飛び降りてくる。
ホコリと共に飛び降りて来た人物は、そのままユズルの身体に馬乗りになった。
「あんた……誰……」
妄想していた巨乳美女では無かったが、地味ながら比較的整った顔立ちの女だった。化粧気は無いが、自分と同世代だろうか、そう思いながら、ユズルは女の顔に見覚えがある事に気がついた。
「ミソノ……? あんた、ミソノか?」
記憶の中の人物はなかなか名前が出てこないものだが、すらりと名前が出てきた事に驚いて尋ねると、女はユズルの問いかけを否定した。
「いや、俺はゲンジロウだ、シオバラ・ゲンジロウ」
人違い? と、ユズルは思ったが、どう考えても男としか思えない名前には違和感しかなかった。
栄養バランスのとれた食事と運動は、外にいたころよりもユズルを健康にしてくれたが、健全な肉体に対してわきあがるものについてはあまり考えないようにしていた。
心臓を下にして眠るといいらしいと左半身を下にして横たわったがかえって鼓動が耳についていっそう目が冴えてしまった。
一瞬、ベッドサイドに置いたままのゴーグルを見る。
この部屋を割り当てられた時に一度おもしろがって使いはしたが、激しい後悔、そして虚無感に襲われてやりきれない気持ちになってしまい、かといって強力に使うまいと封印したりはしていないゴーグル。
酒の力を借りたらもしかして……と、起き上がる。
ビジネスホテルの一室のようなそこは、小さな冷蔵庫もある。中から缶ビールを取り出してプルトップにてをかけたところで天井からかすかに物音がした。
それはあきらかに何かが移動しているような音だった。
ねずみや猫にしては軽くない音は、まるで人が移動しているようだ。
気まぐれに、ユズルは机にのり、点検口に手を伸ばした。マイナスドライバーがあれば話は簡単だったが、無いので、十円玉を差し入れてひねる。
現状ほとんど使う事は無いが、ここへ来る時に持ってきた荷物の中に財布があった。
日頃であればそんな事考えもしなかったが、やはり変化を求めていたのだろう。
刺激的な何かを求めての行動だった。
天井裏は当然ながら暗かった。安普請のアパートだと天井の明かりが漏れていたりする事もあるのだが、そんな事は無かった。
暗い中、目をこらしているが、確かに何かが動いたような気配があって、振り向くと……。
匍匐前進をしていた人物が、下からの明かりに照らされたユズルの姿を補足したように速度をあげた。
「な……ッ」
驚いてユズルが声をあげる前に、匍匐前進で近づいて来た人物が距離を詰めて来た。
「そこ、どけッ!」
物言いは乱暴だったが、声の主は女だった。
驚いてよろけたユズルはベッドの方へ倒れこみ、それに続いて女が天井裏から飛び降りてくる。
ホコリと共に飛び降りて来た人物は、そのままユズルの身体に馬乗りになった。
「あんた……誰……」
妄想していた巨乳美女では無かったが、地味ながら比較的整った顔立ちの女だった。化粧気は無いが、自分と同世代だろうか、そう思いながら、ユズルは女の顔に見覚えがある事に気がついた。
「ミソノ……? あんた、ミソノか?」
記憶の中の人物はなかなか名前が出てこないものだが、すらりと名前が出てきた事に驚いて尋ねると、女はユズルの問いかけを否定した。
「いや、俺はゲンジロウだ、シオバラ・ゲンジロウ」
人違い? と、ユズルは思ったが、どう考えても男としか思えない名前には違和感しかなかった。
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