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第一幕 江戸にイこう!

第十五話 爆弾発言

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 じっくりと焦点を合わせては、ほんの身じろぎもしないで対面する親子。千代姫は下から上へ睨み据えている。対して殿様は無表情のまま、これといった変化はない。自分のことで喧嘩が始まろうとしているのに、でしゃばる真似も出来ずにハラハラと手を合わせて祈ることしかできない。窒息しそうな重苦しい沈黙を最初にぶち破ったのは、千代姫からだった。

「父上、なせこの方を処刑しようとしたのですか?」

「城と娘を脅かす危険人物と判断し、守ろうとしたまでのこと」

 単刀直入といった感じでストレートな質問を投げつければ、応答は反射並みの速さでやってきた。

「いいえ、この方は危険人物でもなければ、罪人でもありません。ただ迷いこんだだけです。証拠に私はなにもされていません。決めつけだけで斬りつけるなんて野蛮です」

 さらに千代姫は負けじと一語一句を強く協調して弁明を述べていく格好は弁護士と重なる。

 いつしか辺りには、城に務める者全員が出てきたんじゃないかってぐらい俺たちを取り囲む人は円状となり、ひどく混雑していた。ここが外といっても向かいには城、後ろは塀があり、何十人も集まれば隣と肩はごっつんこ。それらが立ち見の傍聴としたら、もうこれは立派な裁判だ。被告人の気持ちがなんとなく分かる。

「千代、ここはお前のような娘がしゃしゃり出るでない。今すぐ戻れ。その小僧が本当に危険じゃないと言える保証がどこにある? 手を出されていないから、それだけか? しかも小僧は江戸ではなく、程遠い場所から来たと窺える。行動のみならず、見たこともない身なりだ。怪しむのも当然。生きる知識も身分も乏しい。それでこの江戸を生きていくのは厳しい。だから――」

「だから、斬る? 殺す? でしたら父上、それは逆にも言えると思います。もし斬りつけた後、本当に罪人じゃなかった場合、どう責任をとるおつもりですか? それとも戦のしすぎで、たくさん人を斬ることに快感を覚えましたか?」

 千代姫は最後にとんでもない発言を残しては不敵な笑みをこぼして、場を最上級に凍らせた。

 俺を必死に庇ってくれるのはすごく嬉しい。嬉しいからこそ、彼女の身も心配だったのに、殺し文句みたいな快感を覚えたのかって……この子、なんちゅうことを――! 俺は爺やから伝染したように「あばばば」と唱えながら、泡が吹き出す勢いで殿様をチラ見、するまでもない。怒りのオーラで赤く燃えているのが見なくてもヒシヒシと伝わってくるから。

「父上、お答えに――」

「いつからそんな口を利くようになった……っ!」

 殿様は催促する返事を遮り、早口で言い放つ。三秒もない発言時間。それでも今の発せられた文章には狂気めいた殺気が混ざりこんでいた。自分に言われたわけでもない。だけど体が鞭打ちのように痺れては、雷が落っこちたのかと錯覚したぐらい、耳の鼓膜まで揺すぶられてしまった。
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