上 下
26 / 39

第26話 兄と子供の泣き声に妹の感情は……

しおりを挟む
「ダニエルおじちゃん?」

部屋に入って来たソフィアの子供たちは、きょろきょろと首をまわしてダニエルに目がとまる。週に一度は家に来て自分たちにプレゼントを持って来てくれる

リアムとトーマスはそんな思いを抱いているので、ダニエルにとっさに駆け寄って行く。そばに近づくにつれてダニエルの顔が大きく腫れあがっている事に気がつく。

「大丈夫?」
「痛くない?」

心配する気分になったリアムとトーマスはダニエルに声をかけた。

「うわあああぁあああぁああぁあああぁあっ!!」

ダニエルは頭を抱えて悲鳴をあげる。悪意のない無邪気な天使の顔を見て緊張の糸が切れて、ダニエルの心は紙細工みたいに簡単に崩壊した。

先ほどまで欲望そのもののような存在のマリアに、性的な攻撃をされていた時は平気な顔をして忍耐強く辛抱していた。ところが愛する子供たちにはあっけなく敗れてしまった。やはり日頃から可愛がっている純粋無垢な存在には弱かったようだ。

「ダニエルおじちゃんどうしたの?お腹痛いの?」
「大丈夫?ダニエルおじちゃん泣かないで」

急に火がついたように大声で泣き出したダニエルを見て子供たちは何だか困ったような顔になる。いつも笑って遊んでくれるのにどうして?

リアムとトーマスは自分たちがダニエルを慰めてあげようという気持ちになっていた。だけど異常なほどの悲痛な声で泣き続けるダニエルに、ダニエルおじちゃんはのか?と不安でたまらなくなる。

大の男が恥も外聞もなく泣き喚いてみっともないが、ダニエルには自分ひとりの力では止めることはできなかった。

「う、うわあああああああっ」
「うわあああん」

いくら声をかけてもダニエルおじちゃんは泣き止まない。ぽろぽろ涙を流しながら我慢していた子供たちも弾けた泣き声を上げた。

その声を聞いた瞬間ダニエルはピタっと止まる。妹夫婦の子供だがダニエルは自分の子供みたいに可愛がっている。泣きじゃくるリアムとトーマスの泣き顔を見てダニエルは自分が情けなくなる。

一時でもマリアの身体に溺れて大切な妹を裏切って最後には子供まで泣かせてしまった。ダニエルは自分が泣いている場合じゃないと思って目が覚めた。

「私はなんてなんだ……リアムとトーマスごめんよ。許してくれーーーーー」
「ダニエルおじちゃんっ」
「おじちゃーん!」

自分の命より大切な宝物であり、何ものにも代えがたいリアムとトーマスに言い訳のしようがない事をした。この子たちが大きくなって非道徳的な自分の恥ずべき振る舞いを知ったらどう思うのか?ダニエルは考えただけで恥ずかしくて死にそうになる。

子供たちはダニエルの胸に顔を埋めて強く抱きしめられた。ダニエルは深い罪悪感や後ろめたさを抱き、自分の犯した罪を泣きながら謝っていた。

ダニエルおじちゃんが元通りに戻ってくれて良かった。リアムとトーマスはそんな思いで胸が熱くなり涙を流している。三人は部屋中に響き渡るような大きな声で泣いていた。

「――お兄様」
「ソフィア!?」
「子供たちを泣かせて自分の行いを振り返って反省しているようですが、これでお兄様を許すと思いますか?」

不意に背後から声をかけられてダニエルは心臓が止まったように思える。声に驚いて振り向くと妹が唇を歪めて美しく上品な顔をしかめていた。

その視線はひどく冷たいものが感じられる。兄は怖さに足が震えはじめ身体が何かに縛られたように動けなくなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あなたの婚約者は、わたしではなかったのですか?

りこりー
恋愛
公爵令嬢であるオリヴィア・ブリ―ゲルには幼い頃からずっと慕っていた婚約者がいた。 彼の名はジークヴァルト・ハイノ・ヴィルフェルト。 この国の第一王子であり、王太子。 二人は幼い頃から仲が良かった。 しかしオリヴィアは体調を崩してしまう。 過保護な両親に説得され、オリヴィアは暫くの間領地で休養を取ることになった。 ジークと会えなくなり寂しい思いをしてしまうが我慢した。 二か月後、オリヴィアは王都にあるタウンハウスに戻って来る。 学園に復帰すると、大好きだったジークの傍には男爵令嬢の姿があって……。 ***** ***** 短編の練習作品です。 上手く纏められるか不安ですが、読んで下さりありがとうございます! エールありがとうございます。励みになります! hot入り、ありがとうございます! ***** *****

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

(本編完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏
恋愛
 私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。  私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・  これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。  ※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。  ※途中タグの追加や削除もありえます。  ※表紙は青空作成AIイラストです。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

処理中です...