上 下
11 / 39

第11話 子供の心を親知らず

しおりを挟む
「僕がすればいい」

父親が母に浴びせていた冷酷非情な言葉を聞いてから、リアムは自分が父に全く似ていないことを気にするようになる。兄のトーマスと父がそっくりなのもいっそう拍車がかかり、小さな体の中でさまざまな葛藤かっとうしながら過ごしていく。

その苦しみから夜中に突然目を覚まして、胸にぐさりと刺さる父の発した言葉を思い出しすすりながら泣いた。父の怒鳴り声のように、あまりに大きな声を上げて泣いてしまったら家の人たちに気付かれるし、その事を両親に報告されたら家族が壊れてしまうかもしれない。

「ママを悲しませたくない……」

何よりも大切な母を心配させたくないから、リアムは経験しなくてもいい精神の負担をすることになり、唇を噛みしめて頑張って耐えていた。

両親の喧嘩を見てから数日経った。リアムは忘れようと努めて明るく振る舞おうとしますが、あの仲の良かった両親の激しいやりとりを思い出して暗く沈んだ顔になってしまうのです。

特に日頃から穏やかな顔で温かく接してくれる父が、悪魔の化身だと思ってしまう怖い顔で怒鳴る姿がフラッシュバックして脳内を駆け巡った。

「――リアムに笑顔が見られないな」

妻に向かって好き勝手に奇怪な叫び声で、汚い暴言を吐いていた事を子供に見られていたなど、想像だにしないジャックは最近は次男のリアムに元気がないな?と首をひねってかなり心配していた。

どうしてだろう?少し前までは活発で弾んだ調子の声をいつだって自分に向けてくれていたのに、急に人格が変わったみたいに羊のように静かになった。はやく無邪気な仕草であどけなく笑うリアムのにこっとした笑顔が見たい。

「やあ!」
「うわあっ!! パパ!?」
「チョコクッキーは美味しいかい?」

リアムはトーマスと甘くておいしいお菓子を食べながら、吸い込まれてしまうほど愛くるしい仕草で何かのおしゃべりをしていた。二人とも頭や体を横に振ったりして喜びを表現して、お菓子の味に満足そうな顔をしていた。

その時に後ろから不意打ちのように、父親に肩をつかまれ声をかけられた。つぎの瞬間にはリアムはびっくりした声を出してしまった。そして身体がかすかに震えて不安そうな目になる。頭の中にカオスが発生し、混乱状態で至福のひと時がまたたく間に失われた。

トーマスのほうは父親のを知らないし、生まれつき自分のペースのとらえ所のないゆるふわな性格なので、いきなり登場した父にもリアムのように驚いた反応をするこもなく、気にも留めず皿に乗ったクッキーへ手を伸ばし、サクサクした食感を立てて食べ続けていた。

「リアム元気がないようだね。どうしたのかな?」
「そ、そんなことないよ」
「本当かな?パパの目にはリアムが悲しくて落ち込んでいるように見えたんだけどな」
「パパ大丈夫だから心配しないで」
「それならいいんだけどね」

リアムが元気がないは他ならぬジャック自身なのに、子供の発達段階の性格や行動の変化は難しいな……と子供の問題で親には悩みの種が尽きないものだとジャックは思った。

「リアムは何か隠している?ふぅ、これが子供を育てる苦労というものか……」

子供と話しを終えたジャックは、ひとり部屋で自分に語りかける。くたびれた顔で親になるのは大変だなと、親としての一種の気苦労を感じてジャックは短くはかないため息をもらした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

7年ぶりに帰国した美貌の年下婚約者は年上婚約者を溺愛したい。

なーさ
恋愛
7年前に隣国との交換留学に行った6歳下の婚約者ラドルフ。その婚約者で王城で侍女をしながら領地の運営もする貧乏令嬢ジューン。 7年ぶりにラドルフが帰国するがジューンは現れない。それもそのはず2年前にラドルフとジューンは婚約破棄しているからだ。そのことを知らないラドルフはジューンの家を訪ねる。しかしジューンはいない。後日王城で会った二人だったがラドルフは再会を喜ぶもジューンは喜べない。なぜなら王妃にラドルフと話すなと言われているからだ。わざと突き放すような言い方をしてその場を去ったジューン。そしてラドルフは7年ぶりに帰った実家で婚約破棄したことを知る。  溺愛したい美貌の年下騎士と弟としか見ていない年上令嬢。二人のじれじれラブストーリー!

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

邪魔者は消えようと思たのですが……どういう訳か離してくれません

りまり
恋愛
 私には婚約者がいるのですが、彼は私が嫌いのようでやたらと他の令嬢と一緒にいるところを目撃しています。  そんな時、あまりの婚約者殿の態度に両家の両親がそんなに嫌なら婚約解消しようと話が持ち上がってきた時、あれだけ私を無視していたのが嘘のような態度ですり寄ってくるんです。  本当に何を考えているのやら?

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...