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第8話 恋人が出来ない理由に悲しく納得

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「お前がいつまでも独身でいるがわかった気がした……」

ジャックとダニエルの野良犬同士のような言い争いを見物すれば、ダニエルの妹に対する愛情の重さというか強烈な執念に勘付いて父親がうっかり喋る。兄なのにそこまで想って愛していたのかと、父親は胸にしまい込まれている過去の出来事を回想する。

――昔から一目置かれて引く手あまたのダニエルが、どうして女性と付き合おうとしないのか?両親は頭の中が不安要素だらけだった。良識のある奉公人たちと相談し、父親が真意を確かめるために行動を開始した。

その日、朝の用事が済むと午後は特に予定はなく、ダニエルは部屋で緊張を解いて日課にしている妹のソフィアとのを楽しんでいた。すると部屋のドアをノックする音がして、驚いてベッドから飛び起きた。

「何か用事か?」

きっとメイドがお茶を持ってきたのだろう。気分が良かったのに誰だともどかしく思えた。ふぅ、と息を吐いたダニエルは落ち着きを払って返事をした。

「ダニエル私だ」

予想と異なり父親だった。本来であれば絶対的に偉い家長である父親が、息子の部屋に来て話をするのは滅多なことではない。メイドに命じて息子を自分の部屋に呼ぶのが普通なので、ダニエルもぽかんとした顔で立ちすくんでしまった。

「何か問題でもありましたか?」

自分でも気がつかないうちに何かやらかしてしまって、これからひどくお叱りを受ける事になるのか?とダニエルの精神は緊張状態を強いられていた。その心配は杞憂きゆうに過ぎないことがわかる。姿を見せた父はほがらかな顔をして機嫌がよさそうで、ダニエルは救われた思いでほっとした感じが身体に走った。

「問題があるという事ではないから気にしないでくれ。それよりお前の飲みたがっていた高品質の貴腐きふワインが手に入ったんだ。少し付き合え」
「はい、わかりました」

珍しく父から二人で酒を飲もうと誘われた。ダニエルは酒は好きなほうでワイン生産地に足を運んだこともあるほど。父親のほうも知っているので酒を飲みながらなら話しやすくて、何でも心を開いて自分をさらけ出してくれるだろうと思って誘いかけた。

別の部屋に移動した。部屋では二人きり親子水入らずで、酒のつまみを用意させてメイドは早々に退出させた。飲み始めて一時間も経つとワインの甘い香りが部屋じゅうに漂って、二人とも高揚した気分で気持ちよくなっていた。

気を緩めてほしいので今日は無礼講で遠慮は不要だと言い、しばらくは世間話を交わして打ち解けて、聞くなら今しかないと父親は脳裏をよぎり口火を切る。

「ダニエル、お前は周囲が認めるいい男だ」
「そんな事ありませんよ」
「まあ謙遜けんそんするな。だがお前が恋人を家に連れて来たこともないし、私が知らないだけで心に決めた特定の相手がいるわけでもないようだしな。何か病気とか交際できないでもあるのか?」
「そういうわけではないですけど……」

身体的な苦悩があって女性と付き合う事を怖がっているのか?と聞いたところ別にそんな事はないと答えた。それならどうして?その時に天啓てんけいのごとく閃いた。まさかとは思うが息子は同性への恋愛感情があるのではないか?それなら今に至るまで女性と付き合ってない事も説明がつく。

「もしかして……お前は男が好きなのか?」
「え?……ふざけないでください!私は女性が好きです!!」

男が好きなのか?父親から突然いかめしい表情で問われた。アルコールの影響で頭がぼーっとして、初めのところは何を言っているのか理解できなかった。ようやく合点がいったダニエルは癇癪かんしゃくを起こして立腹するとおっかない顔で父を睨んだ。

「悪かった。だがな、人格的にも立派でクールな風貌のお前が彼女もいない事が、妻にうちの家人みんなが不思議に思っていたんだ」

父は平謝りで頭を下げ続けた。しばらくしてダニエルもそう言われても無理もないか?と思って悔しいけど父を許した。それでも不機嫌に黙りこんで自室に戻っていく。ベッドにごろりと横になって先ほどの気分転換を図ろうとし、切ない感情を覚える妹との仮想ロマンスに羞恥心を犠牲にし兄は愉悦に浸っていた。
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