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第8話

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「あの人は何を考えてるのかしら……?わざわざ家の隣に別荘を建てるなんて普通の神経じゃない」

オリビアは本気で迷惑そうな顔で不満を口にすると、やりきれなく淋しい気分でしょんぼりと肩をおとす。

家で従事する人達に詳しく話を聞けば、気が触れているとしか思えない彼の様子に、とっくに自分の理解できない遠いところに行ってしまったのだと悲しそうに涙ぐむ。

一般的な人間の考えからは論理的に破綻して、異常な執着を見せるアルフィ殿下に、オリビアは妙な困惑を感じます。だが柔軟に対応しなければいけない。

「彼は昔から思い込みの激しい人だったな」

テーブルに頬杖をついて、胸の奥で思った言葉をぽつりとつぶやき漏らす。アルフィとは幼馴染なので、性格は知り尽くしている。 

恋人になる前から仲が良い相手なので、砕けた調子で話せて気を使いすぎることがなく一緒にいて楽しい。でも彼は思い込んだら突っ走る情熱的な性格なので、付き合っている時にも色々苦労させられた。

そこが彼の素敵な部分でもあるけど、正直言うとトラブルに巻き込まれたことの方が多い。恋人の時はオリビアはアルフィに不思議な魅力を感じ心をひきつけられていた。

二人で過ごした記憶の糸をたぐると、彼と出会わなければ良かったなんて思わない。だけど今は恋愛感情が薄れてしまっている。少し前までは将来を誓い合った約束をしていたのに、実らず幻となって消えた。


「もう一度きちんと話す必要がありそうね」

オリビアは元婚約者のアルフィに複雑な思いがあり、気持ちや考えが胸の中で渦巻いています。しかし彼を放置させるのは常識外れの感情を膨れ上がらせて、もっと危険だと判断するよりほかはありません。

アルフィの暴走のきっかけは、男女間の問題が絡んだ妹のエリーとの浮気で完全に彼の自業自得だとしても、真面目な人柄の彼女は止める責任を感じました。

収拾がつかないほど彼は個性を爆発させて、やけを起こし続けている。そんな冷静さを欠いた頭がおかしいままの人をなだめるのは、本当に並大抵のことではないでしょう。

「彼と再び付き合い婚約することは決してないけれど、解決するには私のほうから歩み寄りを見せるしかありませんね……」

とうに手遅れで元恋人の心は粉々に壊れているかもしれない。それでも向き合い心に寄り添い、愛にあふれた目であなたをいつも気にかけているという思いを伝える。

そして彼の気持ちを理解しようという姿勢で互いに話し合って、落としどころを見つけて丸く収める。捨てた愚かな男に、これほどまで彼女が気遣い心情を思いやる必要は普通ならあり得ないと思う。

だがこのくらいの覚悟を決めなければならないところまで、極めて厳しい状況になっていると、澄んだ瞳で前を見つめる。

普段なら穏やかな感じの美しい顔は、真剣な瞳で表情を引き締めると、ぼんやりと容易ならない未来を予知していた。
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