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第60話

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「うぅ……うぅぅ……うわあああん……」

レオナルドはアリーナの家にやってきて執事になるように命じられた時は、反抗的な態度を露骨に表面に出していた。その気持ちも分からなくはありません。王太子殿下という次期国王の座を約束された国で一番高貴な身分なのに、自分よりも年下のメイドの女性に教育を受けているのです。

彼は賢くないので何度も逆らって肉体に何度も鞭をまともに受けていた。でもそれは彼の最後のプライドだったとも言えよう。レオナルドが休まるのは寝る時だけで、まぶたはひくひくと震え枕を濡らす日々が続いた。

「痛い……寒い……」

泣いていると傷に触れ鋭い痛みが全身に走った。それと同時にぞくぞくと背中に寒さを感じる。使用人部屋なので暖房は当然のようにない。厳しい冬の季節で辺境伯家の庭には雪が積もっている。今日はメイドたちと一緒に馬車置き場から門のまえの道を雪かきした。

朝に出かけたアリーナが馬車に乗って夕方ごろ帰って来た時は、メイドたちと並んでぺこぺこと頭を下げてアリーナに対してお嬢様お帰りなさいませと挨拶をした。アリーナが戻るまでに雪かきを終えているようにとメイドたちに言われていたので、夢中になり全力を尽くして雪かきをした。最後のほうは寒さで手の指に感覚がなくなっていた。

「レオナルド雪かきご苦労さま。頑張っていますね」
「私のようなどうしようもない男に身にあまるお言葉……アリーナお嬢様ありがとうございます!」

アリーナはメイドと一緒に並んで出迎えているレオナルドに、ふと気付くとにこりと笑って言った。レオナルドは正直なところ、王子の自分にこんなことをさせて許せないと文句を言いそうになりましたが、メイドたちに焼け付くような視線を向けられおしとやかに振る舞う。

ここでアリーナに失礼な態度をとろうものなら、また鞭で叩かれてしまう事が頭をよぎった。さすがにいくら頭の悪い彼でも何度も叩かれたら、ほとんど本能的な恐怖に駆られ反論しないように気持ちをおさえるようになる。

「婚約破棄したことを根に持っているのかな?でもカトリーヌが……」

簡素なベッドの上でひととおり泣いたレオナルドはポロッと言う。あの日アリーナに婚約破棄を宣言した時から自分は大きな不幸に見舞われたと思い始める。幼馴染のカトリーヌを妊娠させてしまったから仕方なかったんだと心の中で正当化しようとして、アリーナとやり直せないかと悪知恵を働かせるのです。

「そうだ!カトリーヌのお腹にいる僕の子供はどうなったんだ?それとカトリーヌはアリーナの能力ので一年しか生きられない……その後はどうなるんだ?」

レオナルドは足りない頭で考えを巡らせていた。だがその心配はいらなかった。父の国王が産まれた子供は養子となって跡を継ぐことを決めている。元王太子殿下のレオナルドは、まだ自分が次期国王になれるのだとおめでたい頭をしていた。
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