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第35話

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「アリーナ様、お願いですから子供を……この子は彼の残してくれた最後の大切な宝物なんです……」

アリーナの顔からは迷っている様子が伝わってくる。カトリーヌは絶好ぜっこうの機会だと考えて全力でお願いしておりました。

正直なところ、カトリーヌは子供が出来たことに面倒めんどうなことになったと思っていた。その理由は魔法師として第一線で活躍かつやくしていた彼女は、一時的とはいえ休みたくなかったのです。

でも今は色々な思考が頭の中で飛び交った結果、何でもいいから子供に頼るのが生き延びられる可能性が高いと考えたのだ。そして判断力に優れた打算ださん的なカトリーヌは、臨機りんき応変に対応することを決定して、お涙頂戴ちょうだいの作戦行動に入ったのである。

「――わかりました。子供は助けましょう」
「ありがとうございますっ!!」

そのまましばらく沈黙ちんもくが流れた後、アリーナはやわらかい言い回しではっきり言った。その声を聞いた瞬間にカトリーヌは神に感謝して、思わず微笑ほほえみ返さずにはいられなかった。

思いがけずに命が助かった……。カトリーヌは子供がいて良かったと、本当に心から嬉しそうな表情をみせた。救われた喜びに体がふるえている。死の恐怖と戦い続けてきたカトリーヌは、魔法師として常に進んで危険な仕事を受け持っていた。

だが彼女は、今日までこれほど恐ろしい目にったことは一度もない。実に恐怖を超えたとの遭遇そうぐうであった。今後は子供も産むので、これを機に長い休息を取りたいと思い始める。だが、あっという間に地獄じごくに落ちてしまう。

「カトリーヌさん、何か勘違いしていませんか?」
「え……?それはどういう……?」

死のふちから生還せいかんしたカトリーヌは命が助かって、もうすっかり安心しきっておりました。やっと胸のつかえが取れて、感情の乱れを感じさせないなごやかで温和な顔つきでくつろいでいた。

ところがアリーナから予想外の言葉が飛んできて、カトリーヌは呆気あっけにとられてしまった。どうやら自分は思い違い?をしていたらしい。カトリーヌはアリーナの言った意味がよくわからないので、顔を上げて聞き返した。

「子供は助けると言いましたけど、を助けるとは言ってませんよ」
「いや、でも……私のお腹の中には子供がいますから……私も一緒に助かるのではないでしょうか……?」

*****
新作「聖女に王子と幼馴染をとられて婚約破棄「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で価値の高い女性だった。」を投稿しました。よろしくお願いします。
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