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第21話

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「カトリーヌ令嬢!」
「……なんでしょうか?」

――カトリーヌが部屋を出ようとした時でした。国王が必死の様子で大声で叫んだ。カトリーヌは思わすドアの前で足を止めて、振り向いて国王を少し見つめてから言葉を返す。

「アリーナ令嬢と敵対するのは絶対にやめたほうがよい」
「そうよ。アリーナ様には勝てないわ」

国王と王妃はアリーナと戦うことを真剣な面持ちでやめさせようとした。二人とも落ち着いた声ですが、顔からは何か熱心さは伝わってくる。アリーナには、どう頑張がんばっても勝てないと言うのです。

「ご心配いただいて感謝いたします。ですが私は大丈夫です。彼を助けたい……私の生き様で後悔こうかいはしたくないのです」
「お父様、お母様、カトリーヌはこう見えても強力な魔法を使える優秀ゆうしゅうな魔法師です。上位精霊せいれいとも契約していますから大丈夫ですよ……」

カトリーヌは軽く頭を下げてから話した。まず自分の身を本気で案じてくれているということに、純粋じゅんすいにありがたくて厚くお礼を申し上げる。それでもカトリーヌはレオナルドを助けたいと、強い決意と固い覚悟かくごがうかがえるのであった。

カトリーヌが話した後に間髪かんぱついれずに、横になっているレオナルドが咄嗟とっさに口を開いた。カトリーヌは魔法が得意で上位精霊と契約していると言う。カトリーヌの腕前に感銘かんめいを受けているような口ぶりです。表情も少し明るくなって、彼女に全幅ぜんぷくの信頼を寄せている様子だった。

「レオナルドありがとう。あなたは生きるのをあきらめないでね……彼の言う通りです。心配なさらないでください。自分で言うのも何ですが……私は強い。すごく強いのです」
「……カトリーヌ令嬢が魔法の名人で、上位クラスの精霊と契約していることは知っておる。だがな……アリーナ令嬢には、どのような手段を使っても勝てないだろうな……」

カトリーヌはレオナルドの言葉に、すっかり嬉しくなってさわやかな笑顔を見せている。愛している男から熱心に応援おうえんされて、あらん限りの勇気を出した。それは喜びの武者むしゃぶるいで、一気に気持ちが高まった。

ところが、国王は水を差すように介入する。カトリーヌがかなりの魔法の使い手であることと、上級な精霊とも契約していることは知っていると言う。実際にカトリーヌは、国中でも数えるほどしかいない一流の魔法師なのだ。

確かにカトリーヌは強い。それは国王も高く評価して認めているし、世の中の多くの人々に認められている。にも関わらず、アリーナには明白に勝てないと答えた。国王は、何か恐れていらっしゃる。はるかに重い恐怖感きょうふかんいだいていた。
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