「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。

第40話

「イリスすまない」

ベッドに横になっているハリーは、温かで柔らかな感触を確かめる。実に久しぶりに味わった人間らしい生活だった。

「いいのよ」

とても穏やかな声でイリスは返してきた。ハリーは自分の姿が情けなくて恥ずかしい気持ちになっていた。

数ヶ月前の新婚旅行の後は、幸福な結婚生活に入っているものと信じていた。それがどういうわけだろうか？イリスに捨てられて王族から追放処分を受けている。

「二人が別れてるなんて……ハネムーン先にまで連れてきた親密な人なのにね」

今はイリスの同情を誘おうとしている図々しいうえに恥知らずな男だ。しばらく考えて、静かにしゃべり始めようと思ったらイリスが口を開く。

幼馴染のエレナとハリーは、顔をあわせればいつも喧嘩になってしまうのでもう別れている。再開した時に少し話したがイリスは胸に引っかかっていた。

あれだけ仲が良く愛していたエレナとどうして別れたのか？イリスは、ちょっと嫌味をこめて話のきっかけに尋ねた。

「イリスとの結婚生活を潰した僕はエレナとも別れて乞食みたいな生活だよ」
「うふふふふ」

結局最後まで添い遂げることはなく、二人は別々の道を歩むことを決めて喧嘩別れした。そのことを弱々しいかすれた声で言う。

ハリーの姿は確かに乞食同然である。イリスは、なんだか気の毒に思えて優雅にほほえみを見せた。だからと言って甘い態度はしない。

「忠実な下男げなんとして家で働く？」

その時、直感的に閃くものがあった。公爵家の邸宅には大勢の使用人たちがいる。住み込みで雑用などして働かないか？ハリーにそう提案した。

「お願いします！イリスありがとう！」

半ば冗談のつもりで言ったイリスは、ハリーの即答に思わず吹き出しそうになった。喜びでハリーは涙を流しながら泣いている。

「ハリー、その口の利き方は何？」
「僕のような乞食を雇ってくださってイリスお嬢様に感謝いたします」

元王子で一度結婚を決めた男が、家の使用人として働くことが決定した。そうすると、しもべの分際で主人に慣れ慣れしく呼ぶのかと、イリスが不愉快な気持ちになるのは普通の感情であろう。

イリスに、ぴしゃりと言い返されたハリーは、ハッと気づいて態度を改める。主人のイリスに対して礼儀を欠いたふざけた言葉遣いをしてしまった。

ベッドに寝ていたハリーは直ぐに飛び起きると、眼前でいきなり土下座をして、心から感謝しております最大限尽力すると言葉を贈りました。