上 下
39 / 50

第39話

しおりを挟む
「冗談でもそんなこと言わないで!」
「その男はおかしい。イリスの気を引くために苦しそうにしてるんだ!」
「レオンやめて!」

同情せずにいられないイリスはいい加減にしてという気持ちで、レオンを恐いくらい厳しい表情で叱る。

つけこむ形でイリスの心を揺さぶっているんだよ?そんな浅はかな男の嘘に騙されてはいけないと、レオンもきつい口調で諭すのです。

だがイリスは、お願いだからハリーのことを悪く言わないで!と鋭い声で叫んだ。自分は守る役割を担っていると言わんばかりだ。

「本当は何ともないんだろ?さっさと起きろよ」

とてもじゃないけど辛抱しきれないレオンは、いきなり実力行使に出る。ぺしぺしハリーの頭を叩いて思いっきり悪態をつく。

「ちょっと何するの!」

イリスは怒りすら感じて噛みつくように言う。陰気な貧しい病人のハリーを助けたいという、母性を自覚した瞬間だった。

二人は凄まじい調子で言い合っているが、その間もハリーは大人しく聞いてることにした。しばらくするとイリスの付き人兼護衛の男が数人ほど姿を現す。

イリスが何か指示すると男たちは、倒れているハリーを担架のようなものに乗せて運び去った。イリスは献身的な様子で付き添って、ハリーのほっそりした手を握っていた。

「何があったんだ?」
「喧嘩か?」
「彼女を巡る三角関係だろう」

これが男女間の痴話喧嘩か?それなりに広い大通りの両側には、一種の好奇心にそそられて立ち止まって見物する人もいる。

他人の揉め事や争い事に介入する者は少ないので、けっこうな人数で状況を静観している。今忙しいのだろう?逆に全く知らん顔をして歩道を通りすぎていく人も多い。

「イリスどうしてそんな男を庇うんだ!」

どうして救いの手を差し伸べる?君にひどいことをした男だろう?苛ついて頭をかいたレオンは、その場を離れるイリスに向かって反射的に叫ぶ。

イリスが婚約破棄になった理由も知っているレオンは、こんな男に手厚い保護する必要があるのかと、信じられないという顔である。

「私が見て見ぬ振りできないのです。レオンには関係ありません」
「平民を屋敷に連れ帰ってまで傷の手当てをするのか?」
「触らないでください。どいて!」

レオンは力が抜けていくのを感じて地面に膝をついた。いつもの上品な物腰のイリスと違って、気高い誇りを感じて気後れしたのだ。

レオンは内心ではかなりビビっていた。それをイリスに見透かされたのも、レオンは恥ずかしく思い精神的なショックを受けてしまう。

大きな図体のわりには、根は小心者のレオンは崩れていく。やるせない絶望を感じながら、去って行く馬車をぼんやり眺めて絞り出すような悲しい声を立てる。レオンはいつまでも泣き止まなかった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の婚約者が、記憶を無くし他の婚約者を作りました。

霙アルカ。
恋愛
男爵令嬢のルルノアには、婚約者がいた。 ルルノアの婚約者、リヴェル・レヴェリアは第一皇子であり、2人の婚約は2人が勝手に結んだものであり、国王も王妃も2人の結婚を決して許さなかった。 リヴェルはルルノアに問うた。 「私が王でなくても、平民でも、暮らしが豊かでなくても、側にいてくれるか?」と。 ルルノアは二つ返事で、「勿論!リヴェルとなら地獄でも行くわ。」と言った。 2人は誰にもバレぬよう家をでた。が、何者かに2人は襲われた。 何とか逃げ切ったルルノアが目を覚まし、リヴェルの元に行くと、リヴェルはルルノアに向けていた優しい笑みを、違う女性にむけていた。

出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。 ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。 しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。 ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。 それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。 この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。 しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。 そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。 素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

拝啓、王太子殿下さま 聞き入れなかったのは貴方です

LinK.
恋愛
「クリスティーナ、君との婚約は無かった事にしようと思うんだ」と、婚約者である第一王子ウィルフレッドに婚約白紙を言い渡されたクリスティーナ。 用意された書類には国王とウィルフレッドの署名が既に成されていて、これは覆せないものだった。 クリスティーナは書類に自分の名前を書き、ウィルフレッドに一つの願いを叶えてもらう。 違うと言ったのに、聞き入れなかったのは貴方でしょう?私はそれを利用させて貰っただけ。

もう、あなたを愛することはないでしょう

春野オカリナ
恋愛
 第一章 完結番外編更新中  異母妹に嫉妬して修道院で孤独な死を迎えたベアトリーチェは、目覚めたら10才に戻っていた。過去の婚約者だったレイノルドに別れを告げ、新しい人生を歩もうとした矢先、レイノルドとフェリシア王女の身代わりに呪いを受けてしまう。呪い封じの魔術の所為で、ベアトリーチェは銀色翠眼の容姿が黒髪灰眼に変化した。しかも、回帰前の記憶も全て失くしてしまい。記憶に残っているのは数日間の出来事だけだった。  実の両親に愛されている記憶しか持たないベアトリーチェは、これから新しい思い出を作ればいいと両親に言われ、生まれ育ったアルカイドを後にする。  第二章   ベアトリーチェは15才になった。本来なら13才から通える魔法魔術学園の入学を数年遅らせる事になったのは、フロンティアの事を学ぶ必要があるからだった。  フロンティアはアルカイドとは比べ物にならないぐらい、高度な技術が発達していた。街には路面電車が走り、空にはエイが飛んでいる。そして、自動階段やエレベーター、冷蔵庫にエアコンというものまであるのだ。全て魔道具で魔石によって動いている先進技術帝国フロンティア。  護衛騎士デミオン・クレージュと共に新しい学園生活を始めるベアトリーチェ。学園で出会った新しい学友、変わった教授の授業。様々な出来事がベアトリーチェを大きく変えていく。  一方、国王の命でフロンティアの技術を学ぶためにレイノルドやジュリア、ルシーラ達も留学してきて楽しい学園生活は不穏な空気を孕みつつ進んでいく。  第二章は青春恋愛モード全開のシリアス&ラブコメディ風になる予定です。  ベアトリーチェを巡る新しい恋の予感もお楽しみに!  ※印は回帰前の物語です。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

王妃の鑑

ごろごろみかん。
恋愛
王妃ネアモネは婚姻した夜に夫からお前のことは愛していないと告げられ、失意のうちに命を失った。そして気づけば時間は巻きもどる。 これはネアモネが幸せをつかもうと必死に生きる話

貴方の事を愛していました

ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。 家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。 彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。 毎週のお茶会も 誕生日以外のプレゼントも 成人してからのパーティーのエスコートも 私をとても大切にしてくれている。 ーーけれど。 大切だからといって、愛しているとは限らない。 いつからだろう。 彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。 誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。 このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。 ーーけれど、本当にそれでいいの? だから私は決めたのだ。 「貴方の事を愛してました」 貴方を忘れる事を。

処理中です...