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第23話

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「迷惑をかけた。本当にすまない」
「いえ…」
「妻はもう駄目だ。完全に洗脳されている」

ジャックはエリザベスの家に行き父親のカインに事情を説明したところ、ヴィクトリアにいくら筋道を立てて熱心に説得しても目をつむり耳をおさえて聞く耳をもたない。

生気の抜けたようなげっそりした顔をして消え入りそうな声で弱気な言葉を吐く。ジャックはこの夫婦が腕を絡ませ笑顔で並んで歩く仲睦まじい姿の昔の記憶があるのでやりきれない気持ちに浸る。

「妻の占い師への崇拝がこれほどまでだったとは…」
「あの、エリザベスはどんな調子ですか?」
「幸いなことに医師の判断によると心の傷が浅くて安心したよ。今は回復に向けて療養生活してる」
「僕もなにか協力させてください」
「ありがとう。その時はお願いするよ」

ひどく思い詰めた表情でヴィクトリアへの思いを語るカインに、ジャックは気が引ける面持ちで気になっていたエリザベスのことを尋ねる。

するとほんの僅かだが、嬉しそうに目を細めて声がはずむ。不幸な気持ちが胸につかえているエリザベスは精神の病気と闘っている真っ最中だと言う。

自分にも手助けをさせてほしいとお願いするジャックにカインは優しい口元に白い歯を見せ晴れやかな声で感謝の言葉を返した。

「これでクロエとエリザベスの問題は解決したかな…」

帰りの馬車の中でジャックは、ほのぼのとした笑みを浮かべてつぶやく。ジャックが一番懸念していたことはエリザベスが後先を考えない暴走状態になり、クロエにつきまとい行為をする事を最も恐れていたのです。

一時は念のためクロエの安全のために生活する場所を変えようとさえ模索していた。仮にエリザベスからしつこく後をつけるような事をされた場合には遠慮しないで厳しく対応してほしいと伝えていた。

エリザベスが正常な様子を取り戻したら、3人で絶え間なくにこやかな笑顔で語り合いそれぞれの気持ちを受け入れ頷き合って楽しいお喋りをしたいと心の中で思い描く。

「最近はなんだかよく眠れるようになったな」
「私も重荷を下したように心が軽くなって枕を高くして眠ってます」
「それは良かったね。実は僕もだよ」

夕食時の家族水入らずの気持ちがほっこりする会話。近ごろ両親は寝つきがとても良いらしい。起きるのが残念に思うほど深くぐっすり眠れていると朗らかな声で話す。

以前とは別人のように生命力のみなぎる顔つきになり体調も万全で、家の中でじっとしていられないほど元気に満ちて二人で定期的に散歩をしているそう。風景を眺めながらのんびりとだが相応の距離を歩いているみたい。

娘のように可愛がっているエリザベスが家にやって来なくなり、最初は暗い気持ちにはまり込んで寂しいとジャックに漏らしていた両親だったが、現在は緊張がとけて心が解放され余程健康に見える。

やはり自分達では知らない間に何らかのストレスを受けていたのだろう。ジャックは落ち着いた気持ちでそんなことを思いながら彼女との子供が欲しいとふと頭に浮かぶ。
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