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第13話
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数週間経って、クロエとジャックは大きなトラブルもなくしっかりした足取りで交際を続けていた。お互い時間の流れに身を委ねていれば改めて婚約するのも容易だろう。クロエはエリザベスとも昔ながらの友人のように良き間柄になっていた。
ジャックの家に行けばエリザベスの話し相手をして相談に乗ったり、学生時代の悲しい過去を聞かされると情のこもった豊かな表情で気に病みそれがきっかけなのかエリザベスの歪んだ精神を癒した。
日を追って自分に懐いてくれて屈托がなさ過ぎるエリザベスの心持ちにクロエは最初の頃に持っていた反感も瞬く間に消えてしまい今ではお嬢様育ちのわがままな妹として可愛がっている。
ある日、ジャックは恋人と仲直りも出来てエリザベスの問題も解決して不安や悩みが消えたこともあり、男性の友人に誘われて飲み会に出席し久しぶりに愉快でたまらない気持ちのいい気分で家に帰って来る。
「クロエさんに嫌われたーーーー!!もう生きていけないぃぃぃぃーーーー!!」
家に入った瞬間に耳を澄まさなくても自然に風が音をつれてきたジャックの耳の中に入り込んでくる圧倒的な金切り声。
それからの展開は早かった。晴れやかな心境があっけないほどあっという間に風に飛ばされると、夢中で手を振り回して全力疾走していた。部屋に辿り着くと救いを求める悲しい顔がジャックの脳内に飛び込む。
「エリザベス泣いていても分からんぞ!理由を教えろ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あなた!そんな言い方では駄目よ!」
「すまない…厳しい言い方して悪かった…機嫌を直しておくれ…」
「エリザベスちゃん大丈夫だから泣かないで…」
「辛かったなエリザベス私達がいつもそばにいるぞ」
ドアを開けるとやはりと言うべきかエリザベスが部屋で赤ん坊みたいに大声で泣いていた。実にけたたましい雰囲気で苦しみを和げられるように涙を流し肩を落とすエリザベス。
そばでオロオロとした落ち着かない態度になってひどくうろたえている面持ちの父親に、慰めの言葉を幾度も繰り返してもお手上げ状態でほとほと困ったという風にしゃがみ込み頭を抱え込む母親。双方とも疲労した顔で一段と柔らかい口調になりエリザベスの心に語りかけるが彼女の胸の不安感を取り除いていくことはできない。
「どうして?何があったんだ!」
「実は私達も事情は詳しく分からないのだがエリザベスの泣き声を聞いて駆けつけたらお前の恋人が怒って部屋を出て行ったんだ」
「クロエさんのことを引き止めたんだけど、もうエリザベスとは口をききたくないって言うのよ…」
不安に胸が落ち着かないジャックは絶え間なく高音で泣き叫んでいるエリザベスに問いただすわけにもいかず、両親にためらうことなくするどい目つきで質問をかけると知っていることを話し始める。
クロエは恋人のジャックがいなくてもジャックの家に遊びに行けるほど、それなりに親密な付き合いをしていた。ただ単にエリザベスがクロエに甘えて呼んでいるだけだが、面倒見のよいクロエはエリザベスのことを生まれたての赤ん坊のように優しく丁寧に接してあげていた。
「たぶんエリザベスがクロエの気に障るようなことを思わず口に出してしまったんだろう」
「それしか考えられないな…」
「ジャック何とかしなさい!」
頼れるのはやはりクロエの恋人の息子だけ。すがるような瞳で見つめられ涙ながらに悲願されると両親の気持ちに引きずり込まれていく。
「僕がクロエと話して理由を聞いてくるから」
仏頂面だが優れた技能を持ち古くから仕えているメイドは気位が高く素早い動きで手品みたいにジャックの身だしなみを整える。
部屋の隅で小さく縮こまって心労で青ざめた顔の両親を奮い立つ澄んだ瞳で気にかけ励ましたジャックは馬車に飛び乗り御者に急ぐようにと働き掛けてエリザベスの家に向かう。
ジャックの家に行けばエリザベスの話し相手をして相談に乗ったり、学生時代の悲しい過去を聞かされると情のこもった豊かな表情で気に病みそれがきっかけなのかエリザベスの歪んだ精神を癒した。
日を追って自分に懐いてくれて屈托がなさ過ぎるエリザベスの心持ちにクロエは最初の頃に持っていた反感も瞬く間に消えてしまい今ではお嬢様育ちのわがままな妹として可愛がっている。
ある日、ジャックは恋人と仲直りも出来てエリザベスの問題も解決して不安や悩みが消えたこともあり、男性の友人に誘われて飲み会に出席し久しぶりに愉快でたまらない気持ちのいい気分で家に帰って来る。
「クロエさんに嫌われたーーーー!!もう生きていけないぃぃぃぃーーーー!!」
家に入った瞬間に耳を澄まさなくても自然に風が音をつれてきたジャックの耳の中に入り込んでくる圧倒的な金切り声。
それからの展開は早かった。晴れやかな心境があっけないほどあっという間に風に飛ばされると、夢中で手を振り回して全力疾走していた。部屋に辿り着くと救いを求める悲しい顔がジャックの脳内に飛び込む。
「エリザベス泣いていても分からんぞ!理由を教えろ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あなた!そんな言い方では駄目よ!」
「すまない…厳しい言い方して悪かった…機嫌を直しておくれ…」
「エリザベスちゃん大丈夫だから泣かないで…」
「辛かったなエリザベス私達がいつもそばにいるぞ」
ドアを開けるとやはりと言うべきかエリザベスが部屋で赤ん坊みたいに大声で泣いていた。実にけたたましい雰囲気で苦しみを和げられるように涙を流し肩を落とすエリザベス。
そばでオロオロとした落ち着かない態度になってひどくうろたえている面持ちの父親に、慰めの言葉を幾度も繰り返してもお手上げ状態でほとほと困ったという風にしゃがみ込み頭を抱え込む母親。双方とも疲労した顔で一段と柔らかい口調になりエリザベスの心に語りかけるが彼女の胸の不安感を取り除いていくことはできない。
「どうして?何があったんだ!」
「実は私達も事情は詳しく分からないのだがエリザベスの泣き声を聞いて駆けつけたらお前の恋人が怒って部屋を出て行ったんだ」
「クロエさんのことを引き止めたんだけど、もうエリザベスとは口をききたくないって言うのよ…」
不安に胸が落ち着かないジャックは絶え間なく高音で泣き叫んでいるエリザベスに問いただすわけにもいかず、両親にためらうことなくするどい目つきで質問をかけると知っていることを話し始める。
クロエは恋人のジャックがいなくてもジャックの家に遊びに行けるほど、それなりに親密な付き合いをしていた。ただ単にエリザベスがクロエに甘えて呼んでいるだけだが、面倒見のよいクロエはエリザベスのことを生まれたての赤ん坊のように優しく丁寧に接してあげていた。
「たぶんエリザベスがクロエの気に障るようなことを思わず口に出してしまったんだろう」
「それしか考えられないな…」
「ジャック何とかしなさい!」
頼れるのはやはりクロエの恋人の息子だけ。すがるような瞳で見つめられ涙ながらに悲願されると両親の気持ちに引きずり込まれていく。
「僕がクロエと話して理由を聞いてくるから」
仏頂面だが優れた技能を持ち古くから仕えているメイドは気位が高く素早い動きで手品みたいにジャックの身だしなみを整える。
部屋の隅で小さく縮こまって心労で青ざめた顔の両親を奮い立つ澄んだ瞳で気にかけ励ましたジャックは馬車に飛び乗り御者に急ぐようにと働き掛けてエリザベスの家に向かう。
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