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貴族の最上位の立ち位置で王族に並ぶ公爵家が、下層階級で行儀作法を知らない平民の子供に汚されて、喜びも楽しみも無残に奪われていく。そんな事はあってはならない。

リディアは汚染が全身に広がってくるような気分がして、鳥肌が立ち密かな恐怖を感じる。変わり果てた自分が育った部屋を見渡して、取り返しがつかない事態になっているのだと改めて認識したのです。

「どうしてこんなに汚いのかしら……?」

乱雑な部屋を見ながら胸の中で思ったことをつぶやいた。エマが掃除しないのは納得できる。でもメイドが衛生的に部屋を保ってくれるはずなのに、なぜ色々な物が片付けてなくて放置されたままなのか?

リディアは皆目わからない表情になる。その理由はメイドに『この部屋には絶対に入るな!』とエマは自分の都合がいいように命令していました。


「すごい!こんな食べ物がこの世にあったんだ!」

ふわふわでしっとりとした生地に生クリームでデコレーションされて、宝石みたいな果物で飾り付けられたケーキ。エマはこんな素晴らしいお菓子を見たことも食べたこともありません。

感動で体を震わせ心の底から喜びを爆発させて、今まで生きてきた中で一番幸せだと、ぽろぽろと涙を落とし泣き笑いながら物凄い勢いで食べた。

「美味しすぎるよ……生きてて良かった……」

エマは辛い日常に自ら命を絶とうと、うっすら考えたこともあった。でもあの時、死ななくて良かったと今は本心からそう思う。

高級スイーツ店の贅沢尽くしのお菓子を思う存分味わい、日々うっとりした幸福感に満たされた表情になり、全ての悩みから解放されるような体が溶けそうなほど心地いい気分でお菓子の魅力におぼれる。

最初の頃は、立派な貴族の屋敷に驚きと興奮を感じるばかり。見たこともない美術品に骨董品に触って壊してしまったらと気後れして、自分の立場を自覚し遠慮を見せていた。

しかし慣れとは怖いものでエマは人格が変わり、次第に横柄な態度をとるようになる。引き金となったのは、両親からの尋常でない溺愛ぶりが後押した目に見えた結果。

一週間も経てば自分が平民なのをすっかり忘れて、上から目線でメイドに我がままを要求をするお姫様みたいに威張り散らす。

「早くお菓子をたくさん持ってきて!少なかったら許さないから!」
「エマ様ただいまお持ちいたします」
「家の菓子職人が作っている最中ですから、少し待っていただけますか?」
「やだ!それなら今すぐに買いに行ってきて!」
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