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第30話
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「……マリア」
「なんでございましょうか、ランドルフ様!」
姉のアイラと妹のマリアが互いを睨み合って、意見が真っ向から対立していた。その様子を顔に感情を表すこともなく、何となく見ていた魔王ランドルフが一言喋り出す。
名前を呼ばれたマリアは、心を弾ませて一番良い笑顔を作った。ランドルフに甘えるように見つめながら言葉を返した。あまりの愛嬌の振り撒きぶりにアイラは悔しげに顔を歪める。
「アイラ様、心配なさらないでください」
その声はエルフの指導的な立場のフェルディナントでした。彼はアイラが急に怯えたような顔に変わったのを心配して小さな声でそう言った。
(フェルディナントありがとう)
アイラは彼の声を聞いて口元を少し嬉しそうに緩めた。優しい思いやりの感情を向けてくれた彼に、心の中でお礼を返した。
フェルディナントの思った通り、アイラは不安な心になっていた。なぜかと言うと、ランドルフをマリアに取られるかもしれないと焦ったのです。ランドルフとマリアが見つめ合った次の瞬間、忘れていた嫌な記憶が蘇ってきた。小さい頃から何でも妹に奪われて、結果として婚約者のアルスまで取られて魔王領に追放された形になった。
それなりに愛していた男から婚約を無かったことにされた。彼女はひどく悲しい思いをしましたが、魔王領は王国で学んだような悲惨なところではなかったのが救いでした。
「――アイラ様を見ていると愛おしくてたまらない……」
「この胸のときめきは何なのだろう?」
「彼女と一緒の空間にいるだけで……切なさが込み上げてくる」
「私はこんな感情は10年ぶりだ……」
日常的に見目麗しいエルフの若者たちに身の回りの世話をしてもらい、彼らから自分のことが好きすぎて自分を思うと胸が壊れそうと告白された。信仰するように目を輝かせて、尊敬と愛情の混じった美しい顔を向けられて大切にされてきた。
「寝ても夢の中に起きても頭の中にアイラ様がいらっしゃる」
「私はこの前アイラ様が少し疲れたと言われたので、抱きかかえて部屋までお運びしたのだ!」
「なんだと……!?ずるいぞ、正直羨ましいが……」
「俺はアイラ様と毎日挨拶する時に、軽く体に触れてもらったこともあるんだぞ!この前は手を握られたっ!!!!!」
それ以外にも魔王領には、王国に無い珍しくて美味しい食べ物もたくさんあって、日々感動を味わうことができたのです。彼女は今ふと思うと、公爵家の令嬢に生まれて王国にいた時よりも、はるかに素晴らしい生活をしていたのだと感じたのだった。
*****
新作「王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。」を投稿しました。よろしくお願いします。
「なんでございましょうか、ランドルフ様!」
姉のアイラと妹のマリアが互いを睨み合って、意見が真っ向から対立していた。その様子を顔に感情を表すこともなく、何となく見ていた魔王ランドルフが一言喋り出す。
名前を呼ばれたマリアは、心を弾ませて一番良い笑顔を作った。ランドルフに甘えるように見つめながら言葉を返した。あまりの愛嬌の振り撒きぶりにアイラは悔しげに顔を歪める。
「アイラ様、心配なさらないでください」
その声はエルフの指導的な立場のフェルディナントでした。彼はアイラが急に怯えたような顔に変わったのを心配して小さな声でそう言った。
(フェルディナントありがとう)
アイラは彼の声を聞いて口元を少し嬉しそうに緩めた。優しい思いやりの感情を向けてくれた彼に、心の中でお礼を返した。
フェルディナントの思った通り、アイラは不安な心になっていた。なぜかと言うと、ランドルフをマリアに取られるかもしれないと焦ったのです。ランドルフとマリアが見つめ合った次の瞬間、忘れていた嫌な記憶が蘇ってきた。小さい頃から何でも妹に奪われて、結果として婚約者のアルスまで取られて魔王領に追放された形になった。
それなりに愛していた男から婚約を無かったことにされた。彼女はひどく悲しい思いをしましたが、魔王領は王国で学んだような悲惨なところではなかったのが救いでした。
「――アイラ様を見ていると愛おしくてたまらない……」
「この胸のときめきは何なのだろう?」
「彼女と一緒の空間にいるだけで……切なさが込み上げてくる」
「私はこんな感情は10年ぶりだ……」
日常的に見目麗しいエルフの若者たちに身の回りの世話をしてもらい、彼らから自分のことが好きすぎて自分を思うと胸が壊れそうと告白された。信仰するように目を輝かせて、尊敬と愛情の混じった美しい顔を向けられて大切にされてきた。
「寝ても夢の中に起きても頭の中にアイラ様がいらっしゃる」
「私はこの前アイラ様が少し疲れたと言われたので、抱きかかえて部屋までお運びしたのだ!」
「なんだと……!?ずるいぞ、正直羨ましいが……」
「俺はアイラ様と毎日挨拶する時に、軽く体に触れてもらったこともあるんだぞ!この前は手を握られたっ!!!!!」
それ以外にも魔王領には、王国に無い珍しくて美味しい食べ物もたくさんあって、日々感動を味わうことができたのです。彼女は今ふと思うと、公爵家の令嬢に生まれて王国にいた時よりも、はるかに素晴らしい生活をしていたのだと感じたのだった。
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