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第8話 互いの主張は平行線

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「お言葉ですけどエリザベートが不倫してオリバーお兄様を裏切ったのが原因だと思いますけど?」
「そうだ!アイラの言う通りだ!」
「そうですわ!私たちは悪くない!」

義妹のアイラが不満げな顔を向けて言い返した。義父も義母も娘の言う通りだと後押しした。公爵家側も相手になめられないようにする。貴族の爵位で自分達より格下の伯爵家に言いたい放題されすぎて黙っているわけにはいかないという思いだ。

エリザベートが不倫したのが全ての原因。義家族は自分たちの罪や責任を回避する伝家の宝刀を抜いたといえよう。公爵家一同はを得たような気がして不安が払拭ふっしょくされる。これで自分たちが圧倒的な優位が保たれると考えていた。

「義姉さん……どうして僕と関係を結ばなかったんだ……僕があんなに誘ったのにおかしいだろう?義姉さんは何を考えているんだよ!」

義弟のジャックは一人だけ間の抜けた見当外れのことを言っている。エリザベートに思春期のような恋心を抱いているので、どこの馬の骨とも知れぬ男と関係して自分と不倫しなかったことが許せないらしく口々にブツブツと不満を漏らしている。

「私の美しく愛らしい妹が不倫なんかするはずないだろう?」

頭のおかしい義弟は異常者として扱うことが両家で暗黙の了解が成立していた。義弟はいないものとして考えて無視してレオンが言い始める。

不倫をしていること自体がそもそも果てしなく間違っていると抗弁する。義家族はそれが事実だという前提の元に話をしているんです。ありもしないエリザベートの不倫という幻想をあたかも現実なものにしている。

兄のレオンは妹の性格を理解している。竹を割ったような真っ直ぐで裏表がない親切で正直な性格の妹が、夫の目を盗んで不倫相手とこっそり会うなんて万が一にもない。

「娘は社会的常識や道徳意識は人並み以上に持っている。子供の頃からそのように育ててきた。ちゃんと調べもしないで勝手に決めつけないでくれ!」

父も娘が高いモラル心をはぐくむような教育を行ってきた自負がある。公爵家に嫁ぐ前まだ伯爵邸で一緒に暮らしていた時は、やさしい思いやりがあり身の回りの世話をよくしてくれた気立てのいい娘。

貴族の中には自分のことを特別で偉いと高貴な身分なのだとのたまう選民意識を持った奴らもいる。親がそんな考え方だと子供にうつって低い身分に生まれた人に偏見や差別を助長する。だが娘は人間的に歪んだ価値感は持っていない。エリザベートは自分が貴族だということなど鼻にかけない態度で誰に対しても平等に接している。

メイドと一緒に乾いた洗濯物を畳みながら微笑んでいる娘の姿が記憶に残っていた。疲れて帰って来た時はいつもいたわりの言葉をかけて仕事の疲れを吹き飛ばしてくれた。そんな自慢の娘が夫の留守中に危険な火遊びなどするわけがないと父は張り切って言った。

父と兄は義家族の主張に真っ向から反論した。不倫というのは夫による一方的な言い分で確かな証拠があるわけではない。恋は盲目というが義家族は夫の言う事を調査もせずに、盲目的に信じていることが問題だと強い語気で言い返した。

「キャッキャ」
「ウフフ」

どちら側の空気も相当に張り詰めていた。怖いくらい真面目な顔で話し合い緊迫感に包まれたなかで、楽しそうに会話してキャッキャとにぎやかな笑い声が聞こえてきた。
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