上 下
36 / 49

第36話

しおりを挟む
「暗い顔してどうしたんだ?」
「旦那と離婚しました」

ある日いつもより落ち込んでいるエステル夫人から旦那と離婚になったと教えられるとガブリエル殿下は現実が受け入れられなくて頭脳が一時活動を停止する。

そして自分は罪を償うために彼女にどのようにすればいいのかと頭を悩ませて今すぐにこの場から逃げ出したいという情けないことも胸中をかすめてしまう。

「このようなことになって心苦しく思う。言い訳のしようがない」

ガブリエル殿下は誠心誠意で謝罪をするが、その間もエステル夫人は生きる気力を失ったような顔をしていた。いくら夫婦関係が救いようのないくらいの状態でも離婚はショックだった様子。

エステル夫人の現実の希望のなさに打ちのめされた表情を見るとガブリエル殿下は極度に取り乱し精神的に追いつめられる。

「とりあえず今まで通り生活の面倒は見る。他になにかできることはないか?何でも言ってくれ」
「殿下が私の旦那だったら良かった」
「……」

これからも手助けすると約束するがエステル夫人が突然本音を漏らすとガブリエル殿下は心に何の用意もなくて黙ったまま困ったような顔つきになった。

「殿下……愛しています」

エステル夫人はガブリエル殿下の手を握りしめる。彼女の家庭を壊し離婚させてしまった負い目から触れてきた手を邪険に払うことも出来ず妙に体が固くなる。

「殿下申し訳ございません。どうかしていました」
「エステルが謝ることはない」
「今の言葉は忘れてください」

しばらく無言の間が続くとエステル夫人はハッとした面持ちになって我に返る。部屋中に寂しそうな雰囲気が包まれ消え入るような声で詫びてガブリエル殿下は自分をたしなめるように応答した。

そんな彼女が愛おしく思いまた抱いてしまう。終わった後に一人になり正気を取り戻すとアイラ夫人を裏切ってしまった後ろめたさに胸が締めつけられる。

「僕はまたアイラを……すまない……」

アイラ夫人を騙し続けているという意識は自己嫌悪を膨らみ胸の内で泣きながら謝り帰宅した。

「お帰りなさい」

純粋な笑顔で温かく家庭に迎え入れる妻の顔を見て同じ過ちを繰り返す愚かさと完膚なきまでの馬鹿さ加減に精神のバランスも崩壊した。ガブリエル殿下は明らかに病んだような闇を抱えた顔に変化する。

「最近は元気がなさそうだけど大丈夫?」
「ああ」
「ガブリエル」
「待ってくれ!ちょっと疲れてるから」
「ごめんなさい」

夕食が終わり寝室でガブリエル殿下の様子がおかしいことに何となく気がついているアイラ夫人は勇気づけようと後ろから体を寄せてきた。

その瞬間ガブリエル殿下は光のようなやわらかな愛情に包まれているのを感じるが事もあろうに裏切り汚れた自分に妻を抱く権利はないのではと強い口調で思わず拒否してしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

婚約破棄ですって?私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

花見 有
恋愛
「ダーシャ!お前との婚約を破棄する!!」 伯爵令嬢のダーシャ・パレデスは、婚約者であるアーモス・ディデス侯爵令息から、突然に婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄ですって?アーモス様は私がどうして婚約者になったのか知らないのかしら?

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

処理中です...