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第26話

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「殿下と何かあったの?」

心労で血色の悪い顔のアイラ令嬢を心配したジュリア令嬢が少しの装いもない素直な思いで言う。

「うん……」

嘘偽りのない真実の返事をするアイラ令嬢は、体だけでなく声の調子さえも衰えて追い詰められたような独特の響きだった。

「私もアイラの力になりたい。悩みは放っておくとどんどん膨らむよ」
「アイラ一人で悩まないで私達にも苦しい気持ちを共有させて」

病室にいる他の二人のフローレンス令嬢にクラリス令嬢も親友の心の底にたまった不安を解消するように手を握り、お互いの友情が手から渡される。

アイラ令嬢は常識では考えられない婚約者ガブリエル殿下の異常な痴態が頭をよぎると、何も言えない自分が悔しくて身を切られそうな悲しい顔で寂しげな影が目に宿る。

想像を絶するような思いで大切な人を失ったように熱い涙が流れ始めましたが掌で顔を撫で下ろしてごまかす。

この中では幼馴染で一番深い結びつきがあるジュリア令嬢にも、いくら気を遣う必要の無いかけがえのない親友達にも話せないことがある。

それを思うと胸の中で涙が溢れて視界がまたにじむと涙と一緒に湧き水みたいに体の細部まで喪失感が広がっていく。

恋人の恥をさらけ出し告白することは悪事でも働いたように胸が痛く、二度と払拭できない屈辱と無念さが心に残り、いつまでも泡のように湧いて頭から消えることはない。

「アイラ辛かったら泣いていいからね」
「大丈夫だよアイラ」
「私達は何があってもアイラの味方だから」
「みんな……ありがとう」

先ほどまではかろうじて堪えていた気持ちが弾けて大粒の涙がこぼれた。涙を声にしたようにアイラ令嬢は溢れんばかりの感謝を口にした。

胸に湧き上がるある種の予感を親友達も感じて申し訳なさそうな顔つきになります。

しばらく全員が何も言わずに肩を抱き頭や体を撫でて、深い悲しみを背負った家族のように断ち切りがたい絆の無二の友人の心が穏やかになるまで傷口を舐めるようにして慰める。

令嬢達の暖かさにいたわりの言葉が疲れを解きほぐすように染み込んできて、いざという時に救ってくれるのは親友だと思えました。アイラ令嬢は心に薬を塗ってもらったような安堵感を覚えます。

この親友達とは血のつながりよりも大事な絆がある。深い穴の中へ入っていて闇の中にいた自分に光が差した。一人で悩む気持ちにピリオドを打ってアイラ令嬢は重い口を開く。


(アイラ苦しんでいるね。でもこのくらいでは許さない。私の傷ついた心は全然癒されないの)

同じ男性を好きになってちょっと気まずくなったというそんな単純なものではない。

アイラ令嬢と裏切り者の二人の確執の糸はもつれてしまって歩み寄りの余地が見つけられなく、今もその令嬢の心は冷ややかな空気が流れている。

3人の中に一人信用に値しない灰色以上の真っ黒な親友がいるのに、ガブリエル殿下との出来事を心のドアを開けて余すところなく打ち明けました。
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