8 / 13
8
しおりを挟む
「僕とアニーの関係はどの程度マライアに知られているのかな?」
「ドレスを借りに行った以前にお兄様とアニーの関係を掴んでいたのでしょう」
「そうだと思う。でなければ叩き出すなんて普通はしませんよね」
漏らしてしまい大急ぎで着替えてきたシャールが話しに加わり、真剣な目つきで言う。戻ってきた時は赤恥をかいたので照れ笑いをしていた。
前からシャールとアニーの関係を察知していたに違いない。そうでなければいくら何でも放り出すのはやり過ぎだ。家族になって、これから先何十年間密接な関係が決定している婚約者と妹にあの態度はない。
「マライアは最初から僕との婚約は取り消すつもりかな?」
「その考えが自然だと思います」
シャールは脳裏に稲妻が走る。マライアは婚約解消を受け入れているから、あのような過激な態度で接してきたのだと漠然と理解する。アニーも彼の言葉に納得したようだった。
「だから言ったじゃないか!あのドレスはマライアの宝物だって……仮に貸してもらっても返す気もなかったんだろう?」
「当たり前ですわ。だってあのドレス一目見た瞬間に私の物にしたくて……欲しかったの!」
「はぁ……ミュエル、お前って奴は……」
怒りと苛立ちを含んだ声のシャールはミュエルをギロリと睨んで責める。恋人があのドレスをかけがえのない宝物だったことは教えてもらったことがあった。
呆れたことにミュエルは最初から、ドレスを借りても返す気は更々なかったと打ち明ける。いい加減に兄も我が妹ながら、どうにも腹が立ってやり切れない気持ちになる。
いや、とっくの昔にアニーと浮気しているので、裏切っているから顔向けができない立場なのは変わりない。それもマライアに勘付かれていた。
「僕は最低だな……彼女を辛い気持ちにさせて傷つけてしまった。自分が情けないよ」
それでもドレスのことに関してはシャールは心苦しく思う。何故なら自分がミュエルの我がままな頼みごとを承諾して、婚約者の彼女に甘えて妹にドレスを貸してあげてほしいと繰り返しお願いした。
なんて自分は恥ずべき男なのだと、彼女が大切にしてる物を軽々しく貸してと言い続けて、彼女がどれほど胸を痛めていたか。今になって分かった完膚なきまでの愚かさ。
結局のところ、妹の性格を見抜いていた彼女は賢くて貸さなかったけど、気分次第で貸していたのかもしれない。その時は何か理由を付けて妹が簡単に返すわけがないのだから、二度と大事なドレスは彼女の手には戻ってこなかったのだ。
自己反省をせざるを得なくなってきたシャールは失禁したことも忘れて、小声で呟きながらマライアに胸の中で、平身低頭ひたすら謝るばかりだった。
「ドレスを借りに行った以前にお兄様とアニーの関係を掴んでいたのでしょう」
「そうだと思う。でなければ叩き出すなんて普通はしませんよね」
漏らしてしまい大急ぎで着替えてきたシャールが話しに加わり、真剣な目つきで言う。戻ってきた時は赤恥をかいたので照れ笑いをしていた。
前からシャールとアニーの関係を察知していたに違いない。そうでなければいくら何でも放り出すのはやり過ぎだ。家族になって、これから先何十年間密接な関係が決定している婚約者と妹にあの態度はない。
「マライアは最初から僕との婚約は取り消すつもりかな?」
「その考えが自然だと思います」
シャールは脳裏に稲妻が走る。マライアは婚約解消を受け入れているから、あのような過激な態度で接してきたのだと漠然と理解する。アニーも彼の言葉に納得したようだった。
「だから言ったじゃないか!あのドレスはマライアの宝物だって……仮に貸してもらっても返す気もなかったんだろう?」
「当たり前ですわ。だってあのドレス一目見た瞬間に私の物にしたくて……欲しかったの!」
「はぁ……ミュエル、お前って奴は……」
怒りと苛立ちを含んだ声のシャールはミュエルをギロリと睨んで責める。恋人があのドレスをかけがえのない宝物だったことは教えてもらったことがあった。
呆れたことにミュエルは最初から、ドレスを借りても返す気は更々なかったと打ち明ける。いい加減に兄も我が妹ながら、どうにも腹が立ってやり切れない気持ちになる。
いや、とっくの昔にアニーと浮気しているので、裏切っているから顔向けができない立場なのは変わりない。それもマライアに勘付かれていた。
「僕は最低だな……彼女を辛い気持ちにさせて傷つけてしまった。自分が情けないよ」
それでもドレスのことに関してはシャールは心苦しく思う。何故なら自分がミュエルの我がままな頼みごとを承諾して、婚約者の彼女に甘えて妹にドレスを貸してあげてほしいと繰り返しお願いした。
なんて自分は恥ずべき男なのだと、彼女が大切にしてる物を軽々しく貸してと言い続けて、彼女がどれほど胸を痛めていたか。今になって分かった完膚なきまでの愚かさ。
結局のところ、妹の性格を見抜いていた彼女は賢くて貸さなかったけど、気分次第で貸していたのかもしれない。その時は何か理由を付けて妹が簡単に返すわけがないのだから、二度と大事なドレスは彼女の手には戻ってこなかったのだ。
自己反省をせざるを得なくなってきたシャールは失禁したことも忘れて、小声で呟きながらマライアに胸の中で、平身低頭ひたすら謝るばかりだった。
0
お気に入りに追加
776
あなたにおすすめの小説
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
【完結】婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。
Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる