上 下
10 / 32

10話

しおりを挟む
「私がどんな気持ちだったかわかる?何度も手紙を書いても返事をよこさないで……」

ナタリアがどんな気持ちで日々過ごして待っていたか想像すると普通の感覚なら申し訳なく思うくらいだ。

「そんなこと知るか!僕が会いたいと言っても病気がうつるから見舞いを断ったんじゃないか!」
「それは医者の判断ですから仕方なかったんです」

伝染病は最も恐ろしい病気だとされていると、主治医は何か重大宣言をするようにナタリアの病気について語った。もし会っていたらラウルが感染していたとしても何の不思議もない。

病気の知識や情報にこれまでの経験によって身につけた医者が、予防するための正しい選択によって決定された。不動とも思われる地位と権力を掌握しょうあくしている公爵家と言えど医者の意向に従わないわけにはいかなかった。

「黙れ!僕はとても寂しい思いをした。悲しさで胸が空っぽになっていた時に寂しさを埋めてくれたのがアイリスだった。ナタリア今さら遅いんだよ!」
「きゃあああっ」
「アイリス僕たちはこのままでは確実にする運命にある」
「そうするしかないのね……」

ラウルはナタリアを再び殴って倒すとアイリスに説得するように言い聞かせた。アイリスも納得するようにつぶやく声を出した。二人でナタリアの体を床におさえつけた。

ナタリアは抜け出そうとして必死にもがいていた。苦しそうな顔をして助けを求めますがラウルとアイリスの力は弱まることなく、それどころか強まる一方であった。

「苦しい……助けて……」

病気が回復したとはいえ一年間の療養生活を送っていたナタリアには、体力低下も重なって抵抗する力もつきたらしくやがて動かなくなった。

「ナタリア……?」
「嘘でしょ?」

ラウルとアイリスは、はっと我に返ったように息を飲みこんだ。手足をばたつかせたり首を動かしたりしていたナタリアがぐったりと動かなくなった。

かなり消耗したようすの青白い顔で動かない開いた目のまま涙を流していた。顔にはどうにもならない悔しさがにじみ出ていました。ナタリアは不運にも命を落とした。婚約者と親友に殺されてしまった。二人に取り押さえられ窒息死を起こしたものと見られる。

「ラウルどうするのよ!」
「僕に聞かれても困る……」
「私達の結婚はどうなるの?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!ナタリアをなんとかしないと……」

ナタリアの遺体が横たわっている。そのとなりで二人は呆然とお互いの顔を眺め続けた。アイリスは苛立った気持ちが大きな声となって出た。ラウルは困ったという風に両手で頭を抱え短い呼吸を繰り返した。

アイリスはこうした状況の中で結婚の心配を始めた。問いかけられたラウルは頭ごなしに怒鳴りつけた。ナタリアの遺体を処理することが最重要の課題である。結婚などもうどうでもいいと思っていた。

(幸せな人生を送りたかった。お父様、お母様ごめんなさい……)

ナタリアは虫の息となって倒れ伏していた。ラウルとアイリスが交わす会話を聞きながら、最後に両親の素敵な笑顔を浮かべながら意識は徐々に薄れていった。まだ二十代の前半という若さでナタリアはこの世に未練を残して亡くなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが

ふじよし
恋愛
 パトリツィアはティリシス王国ラインマイヤー公爵の令嬢だ。  隣国ルセアノ皇国との国交回復を祝う夜会の直前、パトリツィアは第一王子ヘルムート・ビシュケンスに婚約破棄を宣言される。そのかたわらに立つ見知らぬ少女を自らの結婚相手に選んだらしい。  けれど、破棄もなにもパトリツィアとヘルムートの婚約はすでに解消されていた。 ※現在、小説家になろうにも掲載中です

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。 両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。 そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった… 本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;) 本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。 ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?

私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~

瑠美るみ子
恋愛
 サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。  だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。  今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。  好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。  王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。  一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め…… *小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!

新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…! ※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります! ※カクヨムにも投稿しています!

処理中です...