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10話
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「私がどんな気持ちだったかわかる?何度も手紙を書いても返事をよこさないで……」
ナタリアがどんな気持ちで日々過ごして待っていたか想像すると普通の感覚なら申し訳なく思うくらいだ。
「そんなこと知るか!僕が会いたいと言っても病気がうつるから見舞いを断ったんじゃないか!」
「それは医者の判断ですから仕方なかったんです」
伝染病は最も恐ろしい病気だとされていると、主治医は何か重大宣言をするようにナタリアの病気について語った。もし会っていたらラウルが感染していたとしても何の不思議もない。
病気の知識や情報にこれまでの経験によって身につけた医者が、予防するための正しい選択によって決定された。不動とも思われる地位と権力を掌握している公爵家と言えど医者の意向に従わないわけにはいかなかった。
「黙れ!僕はとても寂しい思いをした。悲しさで胸が空っぽになっていた時に寂しさを埋めてくれたのがアイリスだった。ナタリア今さら遅いんだよ!」
「きゃあああっ」
「アイリス僕たちはこのままでは確実に破滅する運命にある」
「そうするしかないのね……」
ラウルはナタリアを再び殴って倒すとアイリスに説得するように言い聞かせた。アイリスも納得するようにつぶやく声を出した。二人でナタリアの体を床におさえつけた。
ナタリアは抜け出そうとして必死にもがいていた。苦しそうな顔をして助けを求めますがラウルとアイリスの力は弱まることなく、それどころか強まる一方であった。
「苦しい……助けて……」
病気が回復したとはいえ一年間の療養生活を送っていたナタリアには、体力低下も重なって抵抗する力もつきたらしくやがて動かなくなった。
「ナタリア……?」
「嘘でしょ?」
ラウルとアイリスは、はっと我に返ったように息を飲みこんだ。手足をばたつかせたり首を動かしたりしていたナタリアがぐったりと動かなくなった。
かなり消耗したようすの青白い顔で動かない開いた目のまま涙を流していた。顔にはどうにもならない悔しさがにじみ出ていました。ナタリアは不運にも命を落とした。婚約者と親友に殺されてしまった。二人に取り押さえられ窒息死を起こしたものと見られる。
「ラウルどうするのよ!」
「僕に聞かれても困る……」
「私達の結婚はどうなるの?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!ナタリアをなんとかしないと……」
ナタリアの遺体が横たわっている。そのとなりで二人は呆然とお互いの顔を眺め続けた。アイリスは苛立った気持ちが大きな声となって出た。ラウルは困ったという風に両手で頭を抱え短い呼吸を繰り返した。
アイリスはこうした状況の中で結婚の心配を始めた。問いかけられたラウルは頭ごなしに怒鳴りつけた。ナタリアの遺体を処理することが最重要の課題である。結婚などもうどうでもいいと思っていた。
(幸せな人生を送りたかった。お父様、お母様ごめんなさい……)
ナタリアは虫の息となって倒れ伏していた。ラウルとアイリスが交わす会話を聞きながら、最後に両親の素敵な笑顔を浮かべながら意識は徐々に薄れていった。まだ二十代の前半という若さでナタリアはこの世に未練を残して亡くなった。
ナタリアがどんな気持ちで日々過ごして待っていたか想像すると普通の感覚なら申し訳なく思うくらいだ。
「そんなこと知るか!僕が会いたいと言っても病気がうつるから見舞いを断ったんじゃないか!」
「それは医者の判断ですから仕方なかったんです」
伝染病は最も恐ろしい病気だとされていると、主治医は何か重大宣言をするようにナタリアの病気について語った。もし会っていたらラウルが感染していたとしても何の不思議もない。
病気の知識や情報にこれまでの経験によって身につけた医者が、予防するための正しい選択によって決定された。不動とも思われる地位と権力を掌握している公爵家と言えど医者の意向に従わないわけにはいかなかった。
「黙れ!僕はとても寂しい思いをした。悲しさで胸が空っぽになっていた時に寂しさを埋めてくれたのがアイリスだった。ナタリア今さら遅いんだよ!」
「きゃあああっ」
「アイリス僕たちはこのままでは確実に破滅する運命にある」
「そうするしかないのね……」
ラウルはナタリアを再び殴って倒すとアイリスに説得するように言い聞かせた。アイリスも納得するようにつぶやく声を出した。二人でナタリアの体を床におさえつけた。
ナタリアは抜け出そうとして必死にもがいていた。苦しそうな顔をして助けを求めますがラウルとアイリスの力は弱まることなく、それどころか強まる一方であった。
「苦しい……助けて……」
病気が回復したとはいえ一年間の療養生活を送っていたナタリアには、体力低下も重なって抵抗する力もつきたらしくやがて動かなくなった。
「ナタリア……?」
「嘘でしょ?」
ラウルとアイリスは、はっと我に返ったように息を飲みこんだ。手足をばたつかせたり首を動かしたりしていたナタリアがぐったりと動かなくなった。
かなり消耗したようすの青白い顔で動かない開いた目のまま涙を流していた。顔にはどうにもならない悔しさがにじみ出ていました。ナタリアは不運にも命を落とした。婚約者と親友に殺されてしまった。二人に取り押さえられ窒息死を起こしたものと見られる。
「ラウルどうするのよ!」
「僕に聞かれても困る……」
「私達の結婚はどうなるの?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ!ナタリアをなんとかしないと……」
ナタリアの遺体が横たわっている。そのとなりで二人は呆然とお互いの顔を眺め続けた。アイリスは苛立った気持ちが大きな声となって出た。ラウルは困ったという風に両手で頭を抱え短い呼吸を繰り返した。
アイリスはこうした状況の中で結婚の心配を始めた。問いかけられたラウルは頭ごなしに怒鳴りつけた。ナタリアの遺体を処理することが最重要の課題である。結婚などもうどうでもいいと思っていた。
(幸せな人生を送りたかった。お父様、お母様ごめんなさい……)
ナタリアは虫の息となって倒れ伏していた。ラウルとアイリスが交わす会話を聞きながら、最後に両親の素敵な笑顔を浮かべながら意識は徐々に薄れていった。まだ二十代の前半という若さでナタリアはこの世に未練を残して亡くなった。
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