聖女に王子と幼馴染をとられて婚約破棄「犯人は追放！」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で価値の高い女性だった。

第60話

「え？礼儀正しく言ったつもりだが？」

褒めてもらえると思っていたアランは、セリーヌに驚くほど声高に怒鳴りつけられて怯えたような目つきに変化する。アランはどうして自分が怒られたのか分からないという風に首を振る。

「お客様に対しては良いけど私には申し訳ございませんじゃなくて、すみませんくらいの感じでいいよ。みんなが緊張感に欠けない程度に明るくアットホームな雰囲気も大事にしてるからね」
「やたらと注文が多いオーナー様だな」

セリーヌは客には丁寧な言葉遣いで話すように指導しているが、店の従業員たちには遠慮なく気さくに接してほしいと言っている。アランは口をとがらせて愚痴のようなつぶやきをした。

セリーヌは正直なところ心配しているが、アランには調理の方は無理と判断して客に接するウェイターをすすめた。仕事は人によって慣れるまでにずいぶん時間がかかる人もいるので、とりあえずは様子を見ようと思う。

「この子がホールリーダーだからアランは新人なんだから指示に従ってね」

セリーヌは接客する従業員をまとめるリーダーを紹介した。アランはフレッドと同じで一番新入りなので、先輩たちの言うことを聞いて分からない事があったら先輩たちに教えを受けてほしい。

「わかってるよ」
「アランきちんと挨拶して！」
「アランだ、よろしく頼む」
「ニーナです、よろしくお願いします」

アランは面倒くさそうに返事をしたので、セリーヌはとがめるような厳しい声を出した。新人のくせに生意気な態度は許せません。

セリーヌにきついお叱りを受けたアランは、びくっと体が震えると少し緊張した顔に変わって背筋を伸ばして挨拶をした。ホールリーダーはニーナという女性で穏やかに挨拶を返した。

「え……!!」

その時、アランが虚を衝かれたように慌てた声を出した。この男は突然なにをそんなに驚いているのか？

「アランどうしたの？」
「いや、男だと思ったから」

アランは信じられないといった表情で呆然としている。アランが何で動揺する様子を見せたのかセリーヌには全くわからなかった。セリーヌが質問するとアランは失礼なことを言い始めた。

「はぁ？」
「ニーナが男だと思ったんだよ」

セリーヌは理解が追いつかなくてぼんやりした声を出して、不思議そうな顔をしてアランの顔を見つめていた。アランはニーナが男性だと思ったと口にする。

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