41 / 65
第41話
しおりを挟む
「――セリーヌなのか!?」
アランは崩壊した公爵邸の跡地で親友のセリーヌに涙を流して詫びていた。そしたら背後から足跡が聞こえて人の気配を感じた。その場に膝をつき両手をついた状態から素早く立ち上がった。
誰だ?険しい顔で最初はそんな気持ちで振り返って確かめた。嘘だろう?見た瞬間に驚異の目を見張って心は震えるほど驚いていた。ずっと会いたくて謝りたかった女性が視界に飛び込んできたのだ。
「アラン久しぶりね」
「本当にセリーヌなのか?」
「そうですけど?」
セリーヌの心は水が澄んだように平静で落ち着いた声で話しかけた。アランは信じられないような顔で寄って来る。セリーヌはぼんやりと見つめて、不思議な気がして仕方がなかった。
アランは締まりのない笑顔で言葉を続ける。先ほどまでセリーヌを追放したことを懺悔して泣いていたのに、今は嬉しくて涙がにじんで視界が揺れるような感覚がする。
「生きていて良かった……」
「涙もろくなりましたね。昔は女性の前で泣く騎士は意気地がないとおっしゃっていたのに」
「セリーヌすまない。セリーヌに許されない事をしてしまって何度も後悔していた」
「生まれ育った国がこのようになってから頭を下げられても困ります」
アランはセリーヌが生きていてくれて、心底嬉しく情のこもった言葉をかけた。止まることなく目頭に熱い涙が湧いて謝罪の気持ちを表した。
国がこんな悲惨な状態になっていては、どんなに謝罪したところで受けいれてもらえない事はアランもわかっている。ただセリーヌに会うことができたらまずは謝ろうと決めていた。
「セリーヌーーーーー!!」
「いきなり抱きついてくるのは御遠慮ください」
「な、なんで?どうして君をさわれないんだ!?」
正面から向き合って少し話すとアランは何を思ったのか?セリーヌをふいに引き寄せようとして強く抱きしめようとした。だがセリーヌの身体に手で触れることは許されなかった。
「魔法で危ない人は跳ね返してるだけです」
「親友だった男が危険だというのか?」
「それは昔の事でしょう?私を追放宣言した時のフレッド殿下とアランの顔は途方もなく怖かったです」
セリーヌの身体の周りは光の壁で覆われていた。この能力も竜に与えられたもので、防御手段の一つとして利用している。もう平和な日々を過ごせた場所ではなくなっているので、セリーヌも気をひきしめて用心ぶかく事前に自分を守るために備えていた。
道を歩いていてもいつ誰に危害を加えられるか分からないし、最悪の場合は命を落とすかもしれない。ところがアランは身の危険を感じる男と言われて、歯をくいしばって悔し涙をこぼした。
*****
新作「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。」を投稿しました。ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
アランは崩壊した公爵邸の跡地で親友のセリーヌに涙を流して詫びていた。そしたら背後から足跡が聞こえて人の気配を感じた。その場に膝をつき両手をついた状態から素早く立ち上がった。
誰だ?険しい顔で最初はそんな気持ちで振り返って確かめた。嘘だろう?見た瞬間に驚異の目を見張って心は震えるほど驚いていた。ずっと会いたくて謝りたかった女性が視界に飛び込んできたのだ。
「アラン久しぶりね」
「本当にセリーヌなのか?」
「そうですけど?」
セリーヌの心は水が澄んだように平静で落ち着いた声で話しかけた。アランは信じられないような顔で寄って来る。セリーヌはぼんやりと見つめて、不思議な気がして仕方がなかった。
アランは締まりのない笑顔で言葉を続ける。先ほどまでセリーヌを追放したことを懺悔して泣いていたのに、今は嬉しくて涙がにじんで視界が揺れるような感覚がする。
「生きていて良かった……」
「涙もろくなりましたね。昔は女性の前で泣く騎士は意気地がないとおっしゃっていたのに」
「セリーヌすまない。セリーヌに許されない事をしてしまって何度も後悔していた」
「生まれ育った国がこのようになってから頭を下げられても困ります」
アランはセリーヌが生きていてくれて、心底嬉しく情のこもった言葉をかけた。止まることなく目頭に熱い涙が湧いて謝罪の気持ちを表した。
国がこんな悲惨な状態になっていては、どんなに謝罪したところで受けいれてもらえない事はアランもわかっている。ただセリーヌに会うことができたらまずは謝ろうと決めていた。
「セリーヌーーーーー!!」
「いきなり抱きついてくるのは御遠慮ください」
「な、なんで?どうして君をさわれないんだ!?」
正面から向き合って少し話すとアランは何を思ったのか?セリーヌをふいに引き寄せようとして強く抱きしめようとした。だがセリーヌの身体に手で触れることは許されなかった。
「魔法で危ない人は跳ね返してるだけです」
「親友だった男が危険だというのか?」
「それは昔の事でしょう?私を追放宣言した時のフレッド殿下とアランの顔は途方もなく怖かったです」
セリーヌの身体の周りは光の壁で覆われていた。この能力も竜に与えられたもので、防御手段の一つとして利用している。もう平和な日々を過ごせた場所ではなくなっているので、セリーヌも気をひきしめて用心ぶかく事前に自分を守るために備えていた。
道を歩いていてもいつ誰に危害を加えられるか分からないし、最悪の場合は命を落とすかもしれない。ところがアランは身の危険を感じる男と言われて、歯をくいしばって悔し涙をこぼした。
*****
新作「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。」を投稿しました。ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。
6
お気に入りに追加
3,256
あなたにおすすめの小説
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
婚約を……破棄…?ですか……本当によろしいのですね?
ねこママ
恋愛
毎年開かれる「カイザード王立学園」の卒業パーティーで第二王子率いる生徒会役員数名が、挨拶をするため壇上に集まりました。
ん?……あの令嬢も生徒会役員でしたかしら…?
「フォスティナ・ヴァリス公爵令嬢!」
第二王子が高らかにわたくしの名を呼びました。
「私サイラス・カイザードは今この場を持ってフォスティナ・ヴァリス公爵令嬢との婚約を破棄するっ!」
「婚約を……破棄…?ですか……」
ここは前世でプレイした乙女ゲーム『~あなたに惹かれて~』の世界…
3年前、入学式当日に原因不明の高熱で1週間意識不明で寝込み目覚めると、前世の暮林 美紗の記憶を思い出した。
でも、あの乙女ゲーム『~あなたに惹かれて~』は卒業パーティーで悪役令嬢を断罪、国外追放を言い渡しその場で第二王子とヒロインが抱き合いハッピーエンドで終わるのよね…
ここは乙女ゲーム『~あなたに惹かれて~』の世界でも、今生きている現実世界でもあるのだけど…大丈夫?
わたくしは第二王子に問いかけます。
「本当によろしいのですね?」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
生まれて初めての投稿です。
短編ですし、完結はさせたいと思っています。
読みたい物も多く、不定期更新ですが、全くの初心者ですのでお手柔らかにお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる