上 下
9 / 65

第9話

しおりを挟む
「なんで聖女の力が弱まってるの……?何で何で何で、何でなのよおおおおおぉーっ!!」

ステファニーはつぶやくように言い、急に声を高くする。最近の彼女は自分の部屋に閉じこもっていた。周囲の人には体調をくずしたから少し休息きゅうそくしたいと話していましたが、特に病気はしていなかった。

その原因となる本当の理由は、聖女のパワーが限りなく弱まっているのだ。今は全盛期ぜんせいき時代の1の力しかない事は自分でも何となくわかっている。どうしてこんな事になってしまったのか?先代の聖女から10年に1人の逸材いつざい異彩いさいを放つ《天才聖女》と言われておすみ付きを得ていたほどなのに……。

「――この国を守るために私は絶対にあきらめるわけにはいかないのよ!私にエネルギーを……前はもっと出たのに力を失っている。どうしてたくさん出ないの……?もっとエネルギー出なさあああああい!!出て出て出て、出なさいよおおおおおおおおおおぉぉーっ!!」

ステファニーはじっと目を閉じて全身に大汗を流して念じていた。こうやって日常的に何度も聖なるものへの儀式ぎしきつかさどっている。ところが切に祈っても聖なる力を呼び起こすことが出来ません。彼女の印象では、必要なエネルギーを補給できなくて燃料不足を感じるのです。

もっといっぱい出てほしいのに、前は身体が虹色にじいろの光に包まれてあふれ出ていた強力なパワーが出てこない。広大な地下迷宮めいきゅうに突然放り込まれた気分で、原因不明のスランプ状態に苦しんでいる。とにかく聖女の力が弱まってひどく困っているのが実情であった。

聖女になってからは、かがやかしい栄光の日々に包まれて、薔薇ばら色の人生が約束されていた。挫折ざせつした経験がないステファニーの頭の混乱ぶりは異常なほどで、どこか投げやりな態度を見せるのも仕方がないだろう。

「う……う、うわあああああああああああああんっ!!いやああああああああああああああぁぁぁっ!!」

実際にはセリーヌが国からいなくなった事が、ですがまだ誰もわかっていない。前は超強気な性格で有名だったステファニーが、気が弱くなってすぐ涙を流すようになった。

彼女は怪鳥けちょうのような不気味な悲鳴を部屋中にひびき渡らせ続けた。心の病気というノイローゼ気味になり、しまいには深刻なうつおちいって心気症しんきしょうまでわずらっている。とはいえ、彼女の精神が不安定に崩れていても状況は何も変わりません。


「――ステファニー!開けてくれえええええぇぇ!!フレッドが大変なんだっ!!」

次の瞬間、はげしくドアを叩く音がした。ステファニーはおどろきで心臓しんぞうが高鳴る。その声はアランだった。彼の声からは、トイレを我慢がまんしている時の軽く10倍は超えた切羽詰せっぱつまった絶望ぜつぼう感が伝わってくる。

「……今は無理なの……」
「なんで?」

ほとんどパニック状態だったステファニーは、どう受け答えしてよいのかも迷っていましたが、このままではドアを完全に破壊はかいしてでも入ってきそうないきおいだったので返事をしたのです。

「……私ちょっと風邪かぜをひいてしまって……ごほっ、ごほっ」
「はぁ?風邪なんてどうでもいいだろ!フレッドは魔物まものにやられて半分死にかけてるんだっ!!」
「えっ……!?」

とりあえず仮病けびょうを使ってごまかす方法を思いついて実行したのだが、アランには通用しなかった。むしろこうした態度で彼を本気で怒らせてしまったようだ。フレッドが生死をさまよう重傷を負っていると聞かされて、彼女は衝撃しょうげきを受けて思わず声を出すと思考しこうが停止した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ
恋愛
 公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。  聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。  その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。 ※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。

【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。

五月ふう
恋愛
「聖女が妊娠したから、私とは婚約破棄?!冗談じゃないわよ!!」 私は10歳の時から王子アトラスの婚約者だった。立派な王妃になるために、今までずっと頑張ってきたのだ。今更婚約破棄なんて、認められるわけないのに。 「残念だがもう決まったことさ。」 アトラスはもう私を見てはいなかった。 「けど、あの聖女って、元々貴方の愛人でしょうー??!絶対におかしいわ!!」 私は絶対に認めない。なぜ私が城を追い出され、あの女が王妃になるの? まさか"聖女"に王妃の座を奪われるなんて思わなかったわーー。

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...