上 下
28 / 43

カーマインの力。

しおりを挟む
ーーーーー



その翌日、私はトープくんたちに断りを入れて今日の勉強は休みにしてもらった。

もう一度あの木のところに行きたくて、作ったサンドイッチを持って朝から歩いて行く。


「たぶんこっちで合ってるはず・・・。」


枯れた木があったのは広大すぎる場所だった。

そのことから考えて、がむしゃらに真っ直ぐ歩いて突っ切ればあの場所に辿り着くと計算したのだ。


「お腹が空いたらサンドイッチを食べるか、昼ぐらいに食べるか悩むところだなぁ。」


昨日初めて見た木だったけど、あの木が『桜』かもしれないと思った私はもう一度ゆっくり見たいと思っていた。

花が咲くならお花見もいいと思うけど、あの木に懐かしい感じがしたのが気になって仕方ない。


「まぁ桜だったら懐かしく思うよねぇ、この世界に日本のものなんてないし。」


お皿やコップ、食べ物なんかは馴染みがあるものもあるけど、桜ほどの規模のものはない。

自分の名前に『桜』って漢字が使われてることもあって、じっくり見たかったのだ。


「あの木の下だったら昨日のこともゆっくり考えれそうだし。」


そう思いながら私は茂る森の中を進んでいった。

太い根が地面を盛り上げていて、山登りのようなテンションで歩きながら休憩を何度か挟んであの場所に向かったのだった。



ーーーーー



「つ・・ついた・・・。」


恐らく昼をとっくに回ったころに広大な草原にでた私。

まだ遠くに見えてる木は少し小さく見えてることから、まだもう少し歩かないと行けなさそうだ。


「食べながら歩こうかなぁ・・・って、それは行儀悪いか。」


目標物を視界に捉えれたことで気が楽になったわたしは、もう目的地で食べることにして歩いて行った。

森の中と違って周りを見回せる草原は目が楽しくて、鼻歌を歌いながら歩けてしまう。


「♪~・・・」


吹き抜ける風を感じながら歩いて行くと、幅の広いあの木の下に誰かがいるのが見えた。

立派すぎる木の幹にもたれかかって、腕を組んで座ってる。


「あれは・・・カーマインさん?」


見覚えのある短髪の髪型。

近づいていくと彼で間違いなかった。


「・・・寝てる。」

「・・・zzz。」


足を真っ直ぐに伸ばして幹にもたれかかり、すぅすぅと眠ってるカーマインさん。

まさか私以外にお客がいると思わず、どうしようか悩んでしまう。


「起こす・・のも悪いよね。仕事で疲れてるんだろうし・・。」


草原であるこの場所は風が気持ちよく吹いてる。

きっとそれが心地よくて眠ってしまってるのだろう。

起こすのが忍びなくて私は少し離れて腰を落とした。

広大な草原を眺めながらサンドイッチを取り出す。


「へへっ、いただきまーす。」


大きな口を開けてサンドイッチを食べようとした時、カーマインさんの体がもそっと動いた。


「あれ・・・?マオ・・?」

「あ・・起きました?おはようございます。」


ぱくっとサンドイッチにかぶりつくと、カーマインさんは崩れた姿勢を直すように体を動かしてる。


「え・・お前、ここまでどうやって来たんだ?」

「歩いてですよ?ちょっとゆっくり見てみたくなったんで来ました。」


そう言いながらサンドイッチを食べ進めてると、カーマインさんの視線がサンドイッチに移っていったのがわかった。

お昼を回ってまでここで眠っていたのなら・・・まだ昼ご飯は食べてないだろう。


「一つ食べます?」


そう聞くと彼は驚いた顔をしていた。


「え・・・!?」

「お昼まだでしたらどうぞ?まぁ、簡単なサンドイッチですけど。」


そう言って私はカバンからサンドイッチを一つ取り出した。


「・・・いいのか?」

「?・・・はい。ちょっと味は満足できてないんでその辺は勘弁してくださいね。」


カーマインさんに手渡したのは『たまごサンド』だ。

この世界、卵はあるけどマヨネーズはない。

卵と油、それに酢があればマヨネーズは作れるから作ったんだけど、大手メーカーの味に慣れてしまってるのかどうしても味に納得できない自分がいた。


(改良の余地あり。)


そんなことを考えてるうちにカーマインさんは私が作ったサンドイッチをばくっ・・!と、食べていた。

大きな口だからかパンの半分ほど無くなってる。


「!!・・・うまっ!?」

「疑問形?・・・ふふ。」


よくわからない感想に笑いながらサンドイッチを頬張る。

少し味が物足りないマヨネーズがなんとも言えない味だけど、外で食べるご飯は格別だ。

目から入ってくる景色や耳に聞こえる自然の音が調味料になってくれる。


「こんなの食べたことない・・・これ、マオが作ったのか?」

「え?・・・あ、そうですね。料理は好きなんで・・・。」


前の世界でも自炊はしていた。

時間さえあるのなら凝ったものも作りたかったけどなかなか時間が取れなかったのだ。


(料理検定とか取ったけど・・・結局使うことなかったし。)


何かの役に立つかと思って取った資格だったけど結局小学校の教員で就職が決まり、あまり『家庭科系』の資格は活用できなかった。

中学や高校の教員で採用が決まっていたらまた違ったのかもしれないと思うけど、違う世界に来てしまってる今、そんなこと考えたって何の意味もない。


「マオは・・・前の世界で何してたんだ?こことは違う世界だったんだろ?」

「まぁ・・そうですね。あ、でも大きくは違いませんよ?人がいて、家があって、お店があって・・・学校とか。」

「がっこう?」

「勉強しに行くところですね。みんな6歳になったら通う義務が発生するんです。15歳になるまでいろんなことを学んで・・・大きく成長していくんです。」


子供たちは義務教育期間の中でも小学校の間が一番大きく成長する。

知能や体はもちろんのこと、心も。


「マオはそこでも勉強を教えてたのか?子供たちに教える姿は随分慣れてるように見えたが・・・」

「あー・・ご名答です。コパーくんたちよりもっと小さい子から上は18歳まで教える資格を持ってました。」

「しかく?」

「お給金をもらって教えるには国の試験を受けて『教えれます』って証明がないといけないんですよ。・・・あ、カーマインさんの耳飾りみたいな感じですかね。」


力が使える者がつけてるという五角形の耳飾り。

ピアスのようだけど、これも資格証明書みたいなものだ。


「なるほど・・・。」

「文字の読み書きができないくらいの年の子にはお話を聞かせてあげたりとか、もう大人の仲間入りするくらいの年の子は、興味のあることを深く深く教えて・・・って、そんな感じでしたね。」


私は前の世界の生活をカーマインさんに話していった。

思えばこんな話をするのはここに来て初めてのことで、思い出しながらの話は私にとってとても楽しものだった。

楽しかった学生時代や苦労した初めての教育実習、家族でのバーベキューのことなんかがまだ鮮明に思い出せれる。


(これもいつか朧げな記憶になっていくんだろうなぁ・・・。)


そんなことを感じながら話していくけど、カーマインさんは私の話を真剣に聞いてくれていた。

相槌は欠かさないし、なんならずっとこっちを見ながら頷いてくれていたのだ。

聞き上手なのかと思いながら一通り話した私は、次はカーマインさんのことを聞こうと思って問うことにした。


「・・・カーマインさんは?」

「うん?」

「カーマインさんは騎士団として働くようになる前はどんな生活してたんですか?」


そう聞くとカーマインさんの顔から笑顔が消えていった。

聞いてはいけないことだったのかと思ってると、小さめな声でカーマインさんが話し始めたのだ。


「俺は・・俺に力があることがわかるまでは普通の生活してた。それこそコパーとかメイズとかみたいなな。」

「『力があることがわかるまで』?・・・10歳頃くらいまでってことですか?」

「あぁ。」


カーマインさんは作物を作る農家の家庭に生まれたらしく、毎日新鮮な野菜を口にしていたらしい。

朝は家の手伝いをして、昼からは同年代の子供たちと遊び、夕暮れ時に家に帰ってくる。

そんな生活をしていたらしいのだが、10歳の時に受けた『騎士判定』のテストで彼の周りは激変したそうだ。


「まぁ、『力』を持って生まれたことは喜ばしいとされてるんだけど、俺の力は独特というか・・ちょっと異質なものでさ。俺の周りに誰も近寄らなくなって・・・」

「え?誰も?ご両親もですか?」

「・・・そう、両親も。」


その激変した生活に耐えれなくなったカーマインさんは家を出ることを決め、ずっと城下町にある騎士団の寮のようなところで生活をすることに決めたのだとか。

そこで出会ったのがトープさんとセラドンさんらしく、二人はカーマインさんの力を理解し、受け入れてくれてるらしくて気を許せる唯一の存在らしい。


「あいつらがいるから・・他から無下に扱われても平気だし、仕事もできる。感謝しかない存在なんだよ。」


そう笑顔で話してくれるカーマインさんだけど、私はその『力』がどんなものなのか気になって仕方なかった。


(周りの人が離れていくような『力』って・・なんだろ。毒とか?)


そんなことを考えてると、私の考えが分かったのかカーマインさんは困ったように笑いながら教えてくれた。


「俺の『力』は『言霊』なんだ。対象物に触れて問うと、嘘偽りない答えを聞き出せるし、命令もできる。」

「・・・言霊!?」

「そう。まぁ、『力を使う』って思わない限り何も起こらないけどな。」

「へぇー・・・!」


聞き出したいことを聞けるなら情報系で役に立ちそうだ。

敵がいるなら尋問すればすぐに情報を聞き出せるし降伏させることもできる。

仲間内でも何かあれば全員から『本当のこと』を聞き出すことはできるだろう。

ただ、その『本当のこと』が主観的なものであればあるほどごちゃごちゃになるかもしれないけど・・・。


「あれ?じゃあもしかしてカーマインさんの近くにいた人が遠巻きになったのって・・・」

「俺に何か聞かれたり言われたりするのを恐れて・・・ってとこだな。」

「あー・・なるほど。」


秘密にしてることを無理矢理聞き出されたらいい気はしない。

言いたくないことやしたくないことを無理矢理させられるのも嫌なことだ。


(でもカーマインさんってそんな無理矢理みたいなことはしないと思うけど・・・。)


そんなことを考えながら私はまた一口サンドイッチを頬張る。

むしゃむしゃと食べ進めていくと、カーマインさんが不思議な顔をしながら私を見てることに気がついた。


「?・・・どうかしました?あ、おかわりですか?」


もう一つサンドイッチを取り出そうとカバンに手を入れると、カーマインさんは私を覗き込むようにして見てきた。


「お前・・逃げないのか?」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...