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家づくり。

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宿の店主さんに『家』の相談をした私、万桜は町の中をぶらぶら歩いていた。

どこに家を建てるのがいいのかわからなくて、ひたすらに町の中を歩き続けてる。


「もしかして建物が無いところって・・・そんなにない・・?」


意外と建ってる建物の隙間を見てみるけど、家が建つほどの大きさはない。

それどころかどこも『通路』になっていて、家なんて建てたら道が無くなってしまうのだ。


「うーん・・・?」


悩みながら歩いて行くうちに、私はいつの間にか森の中に入って行っていた。

誘うように大きな木が左右に立ってる道をゆっくり進んでいく。


「なんか・・足元のグリーンも歩道みたいになってる・・・?」


大きな葉が重なり合って、まるで絨毯のようだ。

虫がいる様子もなく、私は木に手を添えながら歩いて行った。


「ちょっと上り坂・・・みたい。」


きつくはない上り坂を5分ほど上がっていくと、少し拓けた場所に出た。

陽の光が木の葉っぱから差し込んでいて、なんだか素敵な空間だ。


「ここ・・・家とか建てれるのかな・・・。」


森の中ということは獣なんかもいるかもしれない。

でもなんとなく、ここは大丈夫そうな気がしていた。


「うーん・・・とりあえず宿の店主さんに相談しようかな。」


場所だけしっかり覚え、私は踵を返した。

来た道を戻って宿に着くと、店主さんとガタイのいい男の人が話をしてるのが見える。


「あのー・・・」


二人は何か真剣な話をしてたようで、私の声にハッと振り返った。


「・・・おや、マオ。どうしたんだい?」


少し曇り顔の笑顔で私を見た店主さん。

その笑顔に疑問を持ちながらも、私はさっき見つけた場所のことを相談することにした。


「あの・・家をお願いするのって・・・森の中みたいなところでも大丈夫ですか?」

「森の中?」

「はい、さっき見つけたところなんですけど・・・」


私は目印になるような所を言いながら、場所の説明をしていった。

すると店主さんはどこか分かったらしく、何度も縦に首を振ってくれていたのだ。


「・・・で、その奥に拓けた場所があって、ちょうどいいかなって思ったんですけど・・」


そう説明した時、店主さんの隣にいたガタイのいい人が口を開いた。


「その場所・・!すぐ見に行こう!!」

「へっ・・・?」


私のすぐ側まで大股でずかずかと歩いて来たそのガタイのいい人。

あまりの身長の大きさに、私は真上を向くような姿勢になってしまった。


「ふぁ・・・大きい・・・・」

「その場所!連れて行ってくれ・・!!」

「へ?」


迫られる私を見た店主さんが、このガタイのいい男の人をぐぃっと引っ張り、私と男の人の間に入って来た。


「ちょっと!マオが驚いてるじゃないか!!・・・ごめんよ?うちの人、興奮すると周りが見えないからさ。」


その言葉を聞いて、私はこの男の人が店主さんのご主人さんなことを知った。


「・・・ご主人さんですか!?」

「そうなんだよ。たぶん、マオの言ってた場所、この前まで何も無かったところだと思うから気になったんだと思う。」


興奮気味のご主人をなだめながら言う店主さん。

でも私は『何も無かった』という言葉が引っかかった。


「え?何もなかった?」

「そう。拓けてる場所なんて無かったはずなんだよ。この町のことは私と旦那がよく知ってるからねぇ。」


不思議そうに言う店主さんだったけど、興奮をなだめられてたご主人が店主さんの手を振りほどいて私の体をがしっと抱えに来たのだ。


「へっ・・!?」

「ちょいとあんた!!」

「マオ!行くぞ!!」


私の体をひょいと肩に担ぎ、ご主人は宿を走り出てしまった。


「え!?・・ちょ・・・!」

「町を抜けたとこの森だな!?」

「そっ・・そうですけど・・・っ!」

「面白いことになりそうだな!!」


ものすごい速さで走っていくご主人さん。

担がれてる私はどうすることもできず、ただ着くのを待つしかなかった。




ーーーーー



「・・・ほんとに拓けてるな・・一体何があったんだ?」


さっきの場所に来たとき、私はご主人の肩から下ろしてもらった。

ご主人はこの辺りが変わってることが不思議らしく、辺りをぐるぐる見回ってる。


「あの・・ここって家とか建てれたりしますか・・・?」


ここに来るまでの小道も結構気に入っていた私。

家を建てれるご主人が『ダメだ』と言ったら諦めないといけないけど、『大丈夫』と言ってもらえたら是非ここにしたいと思っていた。


「・・・まぁ、いけるんじゃないか?」

「本当ですか!?」

「あぁ。獣とかの跡もないし寄り付いてなさそうだ。嫌いな植物でもあるのかもしれないな。でも数日様子を見てから決めてもいいか?気になることもあるし。」

「もちろんですっ!」


第一候補としてここをキープすることに決めた私に、ご主人は『家を建てるときにかかる費用』を教えてくれた。


「間取りはどうする?平屋か2階3階を作るか・・・。」

「あー・・・ウッドデッキ的なものは欲しいんですけど・・・」

「うっどでっき?」


私はそのあたりに落ちていた木の棒を取り、土部分にざっと間取りを書いていった。


「例えばこう・・四角い形の家になったとして、ご飯を作るところとトイレ、お風呂、食事をする場所がこういう感じで・・・」

「ふむふむ・・・」

「で、奥に小さめの部屋が一つ、2階は無くていいんですけど、屋根があって、壁がないこういう感じの・・・」


私はウッドデッキを頑張って説明した。

どうやらこの世界、気候は常に一定のようで、雨が降ると少し寒いくらいで日本の『冬』みたいなめちゃくちゃ寒い日はないらしい。

穏やかな気温がずっと続く世界だから、外でハンモックを作って昼寝するのもいいかと思っていたのだ。


(木の葉の間から差し込む光とか、眩しくないし程よく明るいし・・・きっと最高。)


そう思って一生懸命説明した。

するとご主人は私の拙い説明で理解してくれたようで、近くにあった木の棒を拾って地面に書き始めたのだ。


「こういうことだろう?」


そう言って私が欲しいものを的確に書いていくご主人。

さすがプロと思いながら、私は何度も首を縦に振った。


「そう!そうです・・!!」

「で、ここにこういう寝るやつが欲しいんだな?」

「はい!!」


ご主人はぶつぶつ何かを言いながら地面にいろいろ書き始めた。

恐らく家を建てるのに必要なものなのだろうけど、専門的すぎるのと私が知ってる材料じゃないものが書かれてるようで理解が追い付かない。


「よし、3日くれ。いろいろ考えてくっからよ。」

「よろしくお願いします!!」


ご主人にお願いした私は宿で返事を待つことにした。

そわそわしながら待つこと3日・・。

朝ごはんを宿の1階で食べてる時に、店主のご主人がバーン・・っ!と宿の扉を開けて入って来た。」」


「マオ!マオはいるか!?」


中に入るなりきょろきょろと見回したご主人はすぐに私の姿を見つけたようで、ものすごいスピードで駆け寄って来た。

そして向かいの席に座り、私の手をがしっと掴んだ。


「マオ!家、建てれるぞ!」

「!!・・・本当ですか!?」

「あぁ!!」


ご主人はあの場所に資材を運ぶ手配と、材料の手配、作業をしてくれる人材の確保と総額を計算していたらしい。

その全てがクリアできたようで、私に報告に来てくれたようだ。


「ちょっと場所が森の中だから値が張るけど・・・大丈夫か?」


そう聞かれ、私は頭の中で計算をした。


(手持ちの金貨はまだたくさんある。足りなくなりそうなら・・・稼げばいい。)


そう思って私は口を開いた。


「おいくらですか?」









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