異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。

文字の大きさ
上 下
60 / 61

【番外編】リナリアの湖。

しおりを挟む
ーーーーー



翌日、朝早くから出発した俺とアイビー。

体力のないアイビーに合わせてゆっくり山を登っていっていた。


「きっつ・・・!」

「お前、ニゲラと一緒に暮らし始めて体力落ちたんじゃないか?」

「そんなことないもんっ・・!」

「変な体力はついてるかもしれないけどな。」

「---っ!」


アイビーが歩きやすいように地面を踏み均し、体にあたりそうな枝を折りながら進んでいく。

ぬかるんでそうな場所は避け、遠回りでも急じゃないところを選んで登っていった。

途中、休憩できるところで軽く食事をし、水を飲んで一歩ずつリナリアの湖に向かって進んでいく。


「こんなところまでリナリアさんと来てたの・・・?」

「あぁ、リナリアとだったらここまで・・・一時間もかからないぞ?」

「えっ・・・。」

「お前とだったら軽く4時間はかかってるがな。」

「~~~~っ!」


リナリアは山によく来ていた。

だから木の枝から枝に飛び移って移動することもよくあった。

アイビーのように地面を歩くなんてこと、あまりなかったのだ。


(こうやって遠回りすることも無かったしな。)


視線を上げればリナリアが飛び回りそうな枝がたくさん目に入った。

もう20年も前のことになるのに、まだ鮮明にリナリアの姿が思い出される。


「とぅさーん、あの山?ちょっと崩れてるように見える山があるー。」


アイビーに言われ、俺はそっちに視線を向けた。


「・・・あぁ、そうだ。あの山だ。」


欠けたてっぺんは20年経っても変わらず、すぐにその場所がわかった。

このままのペースだとあと6時間はかかりそうだ。


「アイビー、ちょっと掴まれ。」

「へっ・・!?」

「山で一晩過ごしたくないだろ?抱えていくぞ。」

「うわぁっ・・・!?」


ひょいとアイビーを抱え、俺は山の中を走りだした。

慣れた山はどこに何があるのか目をつむっていてもわかるくらいだ。


「早い早いっ・・・!早いって・・・!!」

「喚くな。携帯食持ってないんだし、お前、野宿嫌だろ?」

「それは嫌だけど・・・・ひあぁぁぁっ!?」

「しっかり摑まってろー。」


片手でアイビーの体を支え、俺は枝に手をかけた。

飛ぶように駆けて山を登り、ものの1時間ほどでリナリアの湖に辿り着いた。


「はぁっ・・はぁっ・・・死ぬかと思った・・・」

「俺がお前を落とすわけないだろ?」

「わかっていても怖いのっ・・・!」


ぶぅぶぅと文句を言うアイビーだったが、湖が視界に入った瞬間、感嘆のため息が漏れていた。


「うわぁ・・・・きれい・・・!」

「あぁ、あの頃のままだ。」


空の色を映してる湖は青々としていた。

どこまでも透き通って見える湖の中も変わりがない。


「微生物がいないのかな?」


アイビーがその湖を覗きながらぼそっと呟いた。


「びせ・・・?」

「微生物。目に見えないくらいの小さな生き物なんだけど、それがいないと湖の中に沈んでる木とかが分解されないって聞いたことがあるの。」

「へぇー・・・。」

「透明ですごくきれいねー・・・。」


じっと見つめるステラを他所に、俺は近くにあった大きめの石に腰を下ろした。

リナリアとここに来た時の思い出に少しの間ふける。


(青い湖にリナリアの茶色い髪の毛がすっげぇきれいだったんだよな・・・。)


背中の真ん中くらいまであったリナリアの茶色い髪の毛。

アイビーのように紐で結んだりしないから、いつも風にたなびかせていた。

その揺れる髪の毛を手で押さえて笑うリナリアがいつもきれいで・・・よく見惚れていたのだ。


(俺に娘ができたって言ったら・・・あいつ、驚くだろうな。)


あの世で会ったら話すことはたくさんある。

その話の一つとして、ここに耳飾りを沈めたことを話そうと、俺は鞄から包みを取り出した。

そして赤い耳飾りを二つ手に乗せて、湖の傍まで足を進める。

その時、アイビーが俺を見て突っ立ってることに気がついた。


「どうした?アイビー。」

「とぅさん・・・リナリアさんって・・・どんな特徴してた?」

「え?リナリア?」


唐突な問いを疑問に思ってるうちにアイビーはリナリアの特徴を話し始めた。


「そう。茶色い髪の毛って言ってたよね・・・?」

「あぁ。茶色い髪の毛に茶色い瞳。髪の毛は背中の真ん中くらいまであったかな。背が高くて俺くらいある。」


スラっとした体形で足が長く、一歩が俺とほとんど同じだった。

柔らかい体だったから、木の枝から枝に飛び移るのが上手かったのが記憶にあった。


「もしかしてその人・・・笑うと子供みたいな表情になったりする・・・?」


その言葉に俺は驚いた。

リナリアが心の底から笑ったときだけ、ふにゃっと幼い子供みたいな表情になることはアイビーには言ってないからだ。


「どうしてそれ・・・」


そう言いかけたとき、ふとアイビーの視線がおかしいことに気がついた。

俺を見てると思っていたのだが、視線が微妙にずれてるのだ。


「まさか・・・・」


俺はゆっくり振り返った。

するとそこに・・・・茶色の髪の毛の女が立っていたのだ。

茶色の瞳に、スラっと長い足。

白い服を身に纏って、手には赤い花。

風にたなびく髪を手で押さえ、俺を見て・・・ふにゃっと笑っていた。


「リ・・ナリ・・・ア・・・?」

「・・・シャガ。20年ぶりね。ちょっと老けたんじゃない?」

「---っ!!リナリア!!」


俺は走った。

死んだと思っていたリナリアが目の前に立ってる。

その姿を体で感じたくて、走っていってリナリアを抱きしめた。


「いっ・・生きてたのか・・・!?」

「ふふっ、もちろんよ。あの程度の地滑りで私がくたばるとでも?」

「でもっ・・・!あの乗り合い馬車は全部巻き込まれたって・・・助かった最後尾の馬車も、助け出されたのは全員男だったって・・・」


確かにニゲラはそう言っていた。

リナリアはきれいなんだから男に間違われることなんてないはずだ。


「あの時、私は髪を切っていたの。」

「は・・?髪を切ってた・・?」

「そう。馬車に乗るために。」


あの日、リナリアが乗ろうとした馬車は、男が優先だったらしく、乗り損ねると歩いて山越えになるのを懸念し、リナリアは髪の毛を切ったらしい。

持っていた帽子を目深にかぶり、『男』として乗り合い馬車に乗り込んだ。


「慌てて切ったから最後の馬車に乗ったのよ。だから助かったんだけどね。」

「え・・じゃ・・じゃあ俺の耳飾りが外に出てたのは・・・・」

「そう!!それよ!!どうして柄が入ったものを作ってくれなかったの!?確認した時に驚いたじゃない!」

「え?」


リナリアは街を出発してすぐ、手持ちの鏡で耳飾りを見たらしい。

学者をしてるリナリアはいろんな場所にいくことから、映りのいい鏡を持っていた。

それで確認して柄が入ってないことに気がついたのだとか。


「ちゃんと見るために外したときに地滑りに巻き込まれたのよ。その時に外に出ちゃったのね。」

「そ・・それはわかった。・・・じゃあ助かったのならどうしてすぐに戻ってこなかった?ニゲラもお前のこと心配してたんだぞ?」

「それは・・・ケガが酷くて戻れなかったのよ。意識を失ってた私は近くの村に運ばれたの。」


あの日、助け出されたリナリアは一旦近くの村に運ばれたあと、治療ができないということで大きい街に運ばれた。

そこでも治療の方法がみつからず、苦戦してる時に他の国から来たという男が自分の国にリナリアを連れて行ったらしいのだ。


「そこは山が何個向こうとかいう距離じゃなかった。ここまで戻ろうと思ったけどお金はたくさんいるし、時間も必要だったの。」


意識がなかったリナリアが目を覚ましたのは地滑りに巻き込まれた1年後のことだったらしい。

それから体を回復させるまでに時間がかかり、治療費を払うために働き、生まれた街に戻ってくるのにお金を貯めて・・・ようやく戻ってこれたのだとか。


「まさかシャガがここにいるなんて思いもしなかったけど・・・・ところでそちらのお嬢さんは?」


リナリアはアイビーに視線を送った。


「アイビーだ。俺の・・・娘だ。」


そう言うとリナリアは驚いた顔をしていた。


「シャガ、あなた子供ができたの!?」

「あ、いや・・・そうじゃないんだが・・・」

「え?」


どう説明しようかと思ったとき、アイビーが口を開いた。


「とぅさん、私が話してもいい?」

「・・・お前がいいのなら。」


そう言うとアイビーはひょこひょこ動きながら俺の隣まで来た。

そして子供のような笑顔でリナリアを見てる。


「初めまして。シャガの娘のアイビーです。」

「リナリアよ、初めまして。」

「リナリアさんのことはとぅさんから聞いてるんですけど・・・私、とぅさんの本当の子供じゃないんです。」

「・・・え!?」


アイビーはこことは違う世界から来たことをリナリアに話していった。

赤ん坊だったアイビーを俺が拾って、ここまで育ててきことも・・・。


「異世界・・・?」

「はい。信じてはもらえないかもしれませんが・・・とりあえずとぅさんの子供ではないことだけ信じてもらえたら嬉しいです。とぅさん・・・シャガは誰にも求婚してないですから。」


その言葉にリナリアは驚きながら俺を見た。

ここまでアイビーに言われて何もできないような男ではない。

俺は手に持っていた赤い耳飾りをリナリアに差し出した。


「これ・・・持っててくれたの・・・?」

「今、お前に相手がいるかどうか知らないが・・・よかったらもらってくれ。あの時俺が求婚してれば事故に巻き込まれなかったのかもしれない。・・・ごめんな。」


そう言うとリナリアは柄の入った耳飾りを取り、自分の耳につけた。


「私、誰の求婚も受けてないわ。一人の人からの求婚をずっと待ってたんだから・・・。」

「それって・・・」

「ふふ、あなたよ、シャガ。想いが届かないならせめてあなたの耳飾りをつけていたくてあんなお願いをしたの。」

「!!」

「私たち、二人で空回りしてたみたいね。もっと素直に言うべきだったわ。」


リナリアが笑いながらそう言ったとき、リナリアの足元がふらついた。


「あっ・・・・」

「おっと・・・!大丈夫か?」

「平気よ。ここまで歩いてきたから足が疲れてるだけ。向こうは山なんかなかったから体力も落ちてるわ。」


その時、少し離れたところからニゲラの声が聞こえてきた。


「リナリア!?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

処理中です...