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ニゲラとのデート。

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「楽しかったか?」


セダムの仕事場から帰ってきたあと、シャガが聞いてきた。



「うんっ。みんなすごいねー。」

「山で遭難する奴は多かったからな。山に入ったことがあるやつらがよく助けに行ってたけど・・・それ専門の仕事もあっていいんじゃないかって話になって作られた。」

「そうなんだ。・・・あ、あそこの練習するとこ・・とうさんが作ったって言ってたよ?」

「あぁ。一番最初だけな。あとは自由に増えたり変えたりされてる。」

「へぇー・・・。」


持って帰ってきたお弁当箱を洗いながら話をしてると、シャガがぬっと覗き込んできた。


「な・・なに?」

「お前さ、前の世界でもそうやって家事してたのか?最近家事は全部任せてるけど・・・。」

「そうだよ?片付けるの好きだし、ご飯作るのも好きだし。でもこっちじゃしないんだよね?」

「しない。まー・・外では気をつけろよ?」

「うん。」



私は洗い物をしながら『次』のことを考えていた。

ニゲラとのデートのことだ。


(ニゲラが終わったら約束は終わる。これが最後だ。)


一妻多夫制の世界は意味があった。

それは子供だ。

子供をたくさん産むために一妻多夫制が取り入れられてる。

私が結婚すると、たくさん子供を産まないといけなくなる。

産むためにはそれなりに『行為』が必要になってくるわけで・・・

私はそれがあまり好きではない。


(でも結婚しなかったら襲われるとか物騒なことも聞いたし・・どうしよう。)



頭を悩ませながらもニゲラとのデートを終わらせてしまおうと、私は考えた。

そう考えて数日。

見事きれいに完成した押し花をシャガに見せると驚いてくれた。

いつかセダムに見せてあげようと思い、私用の本棚にしまった。




ーーーーー



ニゲラとのデート当日。



「ねぇ・・・どこ行くの?」


行き先も服装も指定されなかったデート当日。

昼過ぎに私を迎えに来たニゲラは私の手を引いて歩いてるだけだ。


「俺んち。」

「・・・家!?」

「そ。」


他所の家は・・・ダリアの家以外は初めてだ。

お店ならいくつも入ったことはあるけど、生活空間である家は入ったことが無かった。


(・・・まだ成人してないし・・・襲われることはないよね・・?)


ニゲラのことはシャガの友達だからか信用していた。

ダリアが亡くなった時も、無言で私の頭を撫でてくれたりして・・・いいお兄ちゃんだ。


「驚くぞ?」

「?」


一体何に驚くのか分からなかったけど、引かれるまま歩いて行く。


「そういえばニゲラの家って・・・どこにあるの?」

「ん?がっこの近く。」

「・・・えぇ!?そんな近く!?」

「そ。なんかでっかい建物覚えてるか?」


そう言われ、私は記憶の中で学校の回りを探した。

すると確かに学校の近くに大きな建物があったことを思い出したのだ。


「・・・あった!うちの4倍はありそうな家みたいなとこ・・・。」

「そこがうちだ。」

「!?」


驚きを隠せないままニゲラは私の手を引いて歩いて行く。

そのまま学校の近くまできて・・私はニゲラの家に案内された。


「え・・・ほんとにここなの・・?」


大きな家を前に私は立ち尽くしていた。

ニゲラは鍵のようなものを取り出して戸を開けてる。


「そうだ。ちょっと待てよ?」

「鍵・・・するんだ?」

「高いものがあるからな。念のため。」


かちゃんっという音が鳴り、戸が開けられる。

ニゲラは私の腰元を支え、中に入るように促してきた。


「ほら。」

「お・・お邪魔します・・・。」


中はうちとは違って前の世界みたいな家の造りだった。

ワンルームのようなうちとは違い、壁で部屋が仕切られてる。



「こっちな。」


そう言って家の中に入って行くニゲラの後ろをついて行った。


(すごい・・・キッチンとかちゃんと区切られてる・・・。)


いくつも棚があるのも見える。

こんな大きな家で一人で暮らしてるとか疑問を持ちながら奥に入っていった。


「ほら、どうだ?」


そう言ってニゲラはドーム状の天井の部屋に入った。

そこは壁一面が・・・本だった。


「うわぁ・・・すごい・・・。」


丸く作られた部屋はおよそ20畳。

その壁一面が本棚で、本で埋め尽くされていた。

天井に近いところに窓があり、そこから光が射し込んでるのが見える。


「アイビー、本とか好きなんだろ?勉強もできるしな。」

「!!・・・とうさんに聞いたの?」

「あぁ。」


この世界は『娯楽』が少ない。

テレビも無いし、ゲームも無い。

遊ぶものが何もない代わりに本があり、私は小さいころからそれをよく読んでいたのだ。

学校の教科書とかも例外じゃない。


「好きなだけ読んでいいぞ?」

「え・・・ほんとに?」

「あぁ。」

「私・・集中すると周り見えないよ?」

「俺も読むし。仕事もするしな。」


ニゲラは部屋のあちこちに置いてある大きなクッションを指差した。


「好きなの使っていいよ。ごろごろしながら読んでいい。」

「!!・・・じゃ・・じゃあ1冊だけ・・。」


本棚を見渡すと、いろんなジャンルに分かれたタイトルが目に入った。

歴史、小説、専門書、辞書・・・数えきれないくらいの本がある。


「どれにしようかな・・・。」


悩みながらも1冊手に取った。


「お?歴史か?」

「うん・・・ちょっと気になるから。」


クッションにもたれるようにして座り、1ページ目を開いた。


(この世界の始まりは学校で習ったけど・・・あんま詳しくは習ってないし・・・。)


いろいろ知れることがあるかもしれないと思いながら、私は読みふけった。




ーーーーー



「アイビー、喉乾いたら飲めよ?ここに置いとくからな。」


そう言ってニゲラは私の側に小さな机を置き、カップを置いた。

真剣に本を読んでる私は返事をすることで精いっぱいだ。


「んー。」

「真剣だな。」

「んー・・・・。」


私は置かれたカップを手に取り、一口飲んだ。

口の中に広がるコーヒーは頭をスッキリとさせてくれる。


「おいしいー。」

「そりゃよかったな。」


私は時間が経つのを忘れて没頭した。

ニゲラが入れてくれたコーヒーが白い実であるミルク入りだって気づかずに・・・。



ーーーーー




ーーーーー





「・・・・あ!!」


本を読んでる途中に我に返った私は今の時間が気になって辺りを見回した。

暗くなってるのがわかる天井の窓。

本棚に置かれてるランプが明るく、陽が暮れてることに気がつかなかったのだ。


「やっば・・・!とうさんが心配する・・・!」


慌てて本を元の場所に戻し、私はニゲラを探した。

見回してもニゲラの姿が見えないことからこの本の部屋にはいなさそうだ。


「ニゲラ?」


置いてあったカップを手に持ち、私はほんの部屋を出た。

ニゲラを探して回る。


「ニゲラー?」


少し大きめの声で名前を呼ぶと、私の知ってる声が聞こえてきた。


「アイビー!こっちだー!」

「え・・・この声とうさん?」


声のした方に歩いて行くと、ダイニングらしきテーブルをニゲラとシャガが囲ってるのが見えた。

二人して喋ってたみたいだ。


「もう本はいいのか?」


ニゲラが席から立ち上がり、私が持っていたカップを取りに来てくれた。


「うん・・・日が暮れてることに気がついて・・・とうさんが心配すると思ったんだけど・・・。」

「あぁ、夢中で読むだろうから迎えに来た。ニゲラに『家に連れてく』って聞いてたからな。」

「なるほど・・・。」


シャガも席から立ち上がった。


「そろそろ帰るか?」

「うん。今日はありがとう。ニゲラ。」

「俺、基本的には家にいるから。本読みたくなったらいつ来てもいいからな、アイビー。」

「ありがと。」


私はシャガと一緒にニゲラの家を出た。

歩きながら今日のことをシャガに話す。


「ニゲラの家、すっごく広いんだね。」

「あぁ、学者の家は本がたくさんあるからな。基本的にデカい。」

「そっかー・・・。ほんとにまた行ってもいいのかな。」


仕事をしてると言っても月に何度かあるくらいだ。

家事をして、畑をしたら毎日がヒマ。

出来るならニゲラの家にある本を何冊か借りたいくらいだった。


「行きたかったら行けばいい。ただ、次は迎えに行かないから晩飯までに帰って来いよ?」

「うーん・・・わかった。」


こうして私は4人とのデートを終えた。

正直みんなと結婚はまだ考えられなかったけど、どのデートも楽しかったことだけは覚えてる。



(成人してからまた考えたらいいかな・・・。)


成人まであと3年。

3年経つまでの間もジニアやライム、セダムは私をデートに誘いに来た。

それを時間が合う時に受けていった。

でもニゲラだけは私をデートに誘うことはなかった。

『誘う必要』が無かったからだ。


私は3日に一回はニゲラの家に行き、本を読んでいた。

特にニゲラと会話をするわけでもないけど二人でクッションにもたれて本を読んでいた。

ニゲラが仕事をするときは本の部屋の机で何か書いたり調べものをしているのを見ていた。


(楽でいいなー・・・)


仕事もしながら私は有意義に成人までの時間を過ごしていった。





ーーーーー





「どれ読もうかなー・・・。」



成人まであと数か月と迫ったある日、ニゲラの家で読む本に悩みながら踏み台に上っていた。

高い位置に置いてある本を端から順番に見ていく。


「んー・・・あ、あれがいいかな。」


赤い表紙に目を奪われ、私は手を伸ばした。

でも思ったよりも高い位置にあり、手が届かない。


「んーっ・・!あとちょっと・・・!」


一生懸命背伸びをしながら手を伸ばしてる時、私の身体がふわっと浮いた。


「へ!?」

「ほら、これで取れるか?」


ニゲラが私の身体を抱え上げていたのだ。


「え!?ちょ・・・!」

「ん?取れないのか?」

「やっ・・!取れるけど・・・。」

「なら取れよ。」


身体を抱えられながら私は手を伸ばした。

そのまま読んでみたかった本を取る。


「と・・取った・・・。」

「ん。」


ニゲラは私を抱えたまま歩き、大きなクッションの上にそっと乗せてくれた。


「取れないの言えよ?取るから。」

「う・・うん・・・。」


私の頭を一撫でしてから机に戻って行ったニゲラ。

その大きな手に胸が一瞬どきっとした。

ニゲラの姿を隠すように本を広げる。


(待って・・学者なのにニゲラの腕とか逞しすぎ・・・。)


軽々と私の身体を持ち上げた。

近くで見たニゲラは切れ長の目をしていた。

優しい目で私を見て、優しく撫でた。


(ジニアたちとは・・・違うんだよね、ニゲラって。)


盾にしていた本を少しずらし、ニゲラを見た。

私よりもずっと年上だからか余裕があるように見える。

ジニアやライム、セダムは同い年か年下のように見えて・・・どきっとすることはあっても『弟』か『友達』みたいに思えていた。


(ここの居心地がいいのって・・・ニゲラがいるからなのかな・・・。)


よくわからないまま私は本に目を落とした。



ーーーーー





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