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「ステラ!?・・・大丈夫か!?」


急に倒れたステラを地面すれすれで抱きとめた俺はステラの頬を軽く叩いた。

声をかけるものの、ステラは反応を示さない。


「またか!?」


ステラが倒れるのはこれで3度目だ。

一度目は外の寒さに凍えて倒れた。

二度目はヒールをかけすぎて。

三度目の今回は何が原因かわからない。


「とりあえず戻らないと・・・!」


俺はステラを抱きかかえ、空に浮かんだ。

するとその時、トゥレイスたちが追い付いてきたのだ。


「タウ・・!!大丈夫か!?」

「俺は大丈夫だ!ステラが倒れた!」

「・・・また!?」

「戻るから援護してくれ!!ステラがかけた結界魔法が解け始めてる!!」


空を見上げると国全体を覆っていた結界の上部が解けてきてるのが見えた。

解けてる部分は少しずつ広がっていってる。


「わかった!!」

「戻りながらさっきのこと話すから!!」


飛び始めた俺の後ろをアダーラとミンカルがついてきて、隣をトゥレイスが飛ぶ。

ステラの様子を確認しながらさっきのことを一通り説明すると、トゥレイスの表情は曇っていった。


「ディアヘルの者が魔法を使えるなら・・・攻めてくるつもりなのか?」

「それはわからない。」

「攻めてきたところで道具に入ってる魔力が尽きたらそれまでじゃないか?」

「それはそうだ。でも・・・」

「でも?」

「ピストニアに攻め入れさえすれば、魔力は補充できるんじゃないか?」


ピストニアの国民は全員魔力がある。

逃げ遅れた小さい子供や女性を捕まえたら・・・魔力を補充することができるのだ。


「!!・・・戦争が起こるのか!?」

「こっちは戦争になんの利益もない。・・・王がどうするかだな。」


さっきステラに弾け飛ばされた奴らは、きっと道具で命拾いしてることだろう。

そいつらが国に戻り、今回のことを報告してから攻めてくると仮定したら・・・


「1か月が最短だろうな。」

「1か月・・・」

「どうなるかはわからない。だから堺の森付近の見張りは強化しないと・・・」

「わかった!手配しておく。問題は・・・ステラだな。」

「・・・。」


前と同じように冷たくなって眠ってるステラ。

生気を感じれなく、ぞっとする瞬間が続いていた。


「原因はなんだ?結界か?ヒールか?」


ステラがしたことと言えばそれくらいだ。

そのどちらかに原因があるだろう。


「とにかく城に戻って医者に見せよう。意識が戻ったら原因を調べる。」

「そうだな。」


俺たちは今後のことを話しながら城まで飛んでいった。

ステラの歌のおかげで軽くなった体は疲れなんて知らないみたいで、俺は城に戻ったとき、全然疲れていなかったのだ。


(間近で聞くとこんなにも体が軽くなるのか・・・。)


ステラの歌の効果に驚きながらも、俺はステラの部屋に向かった。

部屋に入ると同時に医者も来てくれ、またステラの様子を診てくれてる。


「・・・・申し上げにくいのですが、今回もあまりこれといっては・・・」

「そうか・・・。」


医者は今回のこともわからないようで、何度も首をかしげながら部屋をあとにした。

とりあえず何もないなら目が覚めるのを待つしかなく、俺は椅子を持ってきてベッドの側で座った。


「トゥレイス、王への報告頼んでいいか?」

「あぁ。目が覚めるまでいてやれよ。・・・お前の大事な子なんだから。」

「!!」


そう言ってトゥレイスは手をひらひら振りながら部屋から出ていった。

蓋をしていた自分の気持ちが、いつの間にか溢れ出るくらい大きなものになってしまっていたようだ。


「くそ・・・あいつにバレてるならステラにもバレてるんじゃ・・・」


そんなことを思いながら眠ってるステラを見つめた。

こんなときじゃないとじっと見つめれないステラの顔は、見つめれば見つめるほど胸が締め付けられていく。


「抱きしめたくなるじゃねーか・・・。」


いつも少し潤んでる瞳はきれいな薄い青色で揺れていた。

金色の髪の毛は少しふわっとしていて、艶やかだ。

小さい体なのにケガをしてる人にヒールをかけ、優しい言葉もかける。

いつも笑っていて・・・その笑顔を自分だけに向けてくれたらどんなにいいかと想像しては諦めるのだ。


「倒れるならヒールなんかかけなくていい。結界なんて張らなくても俺たち騎士団がお前とこの国の人たちは守る。だから・・・目を開けてくれ。」


そう願いながら、俺はステラの手をぎゅっと握った。

するとステラの目が薄っすら開いたのだ。


「!!・・・目、覚めたか!?」

「あれ・・私・・・」

「俺にヒールをかけたあと、また倒れたんだ。どっか痛いところとかないか?」

「ない・・です・・・・」


まだ意識が混濁してるのか、ステラの目の焦点が合ってなかった。

無理矢理起きるのはよくないと思い、ステラの瞼にそっと手を乗せる。


「もう少し寝たほうがいい。起きたら水、用意しとくから。」


そう言うとステラは深い呼吸をし始めた。

手をどけると目を閉じてる姿がある。


「やっぱり魔力の使い過ぎが原因か・・・?」


前と同じような状況なことから魔力絡みが疑われた。

でも医者でもなければ研究者でもない俺は、断言なんてできない。


「何かもっと・・確信できるようなものがあればいいんだが・・・」


そんなことを考えながら、俺は次にステラの目が覚めるまで部屋にいた。

ステラの目が覚めるのは思いのほか早く、次の日の朝だった。

目が覚めたステラは少しぼーっとしてるものの、にこっと笑っていて体調は悪くなさそうに見えた。

そして俺は、昨日あった『ステラ誘拐』の話を確認しながら聞いていくことにした。


「何か嗅がされたって?路地裏で?」

「はい。」


ステラは執務室から出て行ったあと、街に行き、そこで『救い人』として視線を集めてしまった。

その視線にいたたまれなくなり、路地裏に逃げたところ、デネボラの制服を着たディアヘルの者に連れ去られてしまったらしいのだ。


「体に力が入らなくなって・・・箱に入れられたんです。」

「なるほど、箱ごと国の外に出たから誰にも気づかれなかったのか。」


上手く言い訳を作って箱をごと外に出たディアヘルの者は、少し離れたところで乗り物と一緒に待機していた奴らと合流。

そして堺の森に向かって進んでる時に、俺が見つけたってことらしい。


「あの人たちは・・・私の防界で飛んで行っちゃったんですよね?」


確認するように聞いてきたステラ。

俺は『その通りだ』と答えながらも空を見上げた。

ステラの部屋からは空なんて見えないけど、ステラがこの上に広がってると思ってるだろうものを指さす。


「ただ・・残念ながらステラの結界は・・・解けていってる。」

「・・・え!?」

「ステラが倒れてから、解け始めたんだ。」


今はもう半分ほどしか残ってないステラの結界。

ステラはベッドから飛び降りて窓の外を見に行った。


「ほんとだ・・・。」

「寝てる時とか・・・解けたことなかったのか?」

「なかった・・・ですね・・・。」

「『眠る』のと『意識の消失』は違うものなのか・・・?」


ぶつぶつ言いながら考えてると、ステラは左手の人差し指をピンっと立てた。

そしてその指を腕ごと真っ直ぐ空に向けた。


「ぼうか・・・・・」

「!?・・・言うな!」


俺は慌ててステラのところに行き、その口を手で塞いだ。


「んぐっ・・・!?」

「魔法はかけなくていい・・!」


そう言うとステラは俺の腕を掴み、口から引き離した。


「ぷはっ・・・。でも・・・」

「大丈夫だ!あいつらはまだ来れないだろうから・・・」

「え?」


内心『しまった』と思った俺だったけど、口から出てしまった言葉は戻せない。

俺は後ろ手に頭を掻きながらこれからの予想をステラに話した。

戦争になるかもしれないことを・・・。


「攻めてくるんですか・・・?」

「わからないけど、ステラの魔力を狙ってたことは確かだ。ステラをまた攫いに来るか、ステラの魔力を補えるだけの人間を攫いに来るだろう。」

「そんな・・・」

「ステラもみんなも俺たち騎士団が守る。だからお前は体調を戻すことだけを考えろ。いいな?」


そう言うとステラは少し悩んだ表情を見せた。

でも納得してくれたのか、何も言わずに首を縦に振ってくれたのだ。


「いい子だ。」


ステラの頭に手を乗せて撫でると、ステラは俺の手を取った。

そして少し顔を赤くしながら俺を見上げて言った。


「あの・・助けに来てくれて・・・ありがとうございました。タウさんなら・・・来てくれると思ったんで嬉しかった・・・です。」

「!!」


照れながら言うステラがあまりにも愛おしく見え、俺は思わずステラの体を抱きしめてしまった。


「ひぁっ・・・!?」

「悪い・・ごめん・・・」

「え?」

「こんなこと、言えないのはわかってる。お前は森に帰りたがってるんだし・・・・。でも、どうしても伝えたいんだ。」

「?」


抱きしめていた手を離し、俺はステラの両肩に手を添えた。

そして少し屈む。


「ステラが・・・好きなんだ。」

「・・・え?」

「ステラを大事にしたい。お前の笑顔を・・・俺一人が守りたいんだ。」


他の誰にもステラを触れさせたくないし、笑ってる顔なんか俺にだけ向けていて欲しいと思った。

そんなわがまま、していいはずもないけどそう思ってしまうのが『好き』って気持ちなのだ。


「拒んでくれ。」

「え?」

「想いに応えれないなら・・・拒んでくれ。」


そう言ってステラの顎をすくった。


「!!」


小さくてピンク色した唇に向かってゆっくり顔を近づけていく。


(拒まれるながらこの辺りだな・・・。)


好きでもない男と口づけなんてステラは嫌がるだろう。

そう思いながらもほんの少しだけ期待してしまう自分がいる。


(ステラも同じ気持ちだったらいいのに・・・ずっと俺が守り続けるのに・・・)


そう思いながら唇のすぐ近くで俺は近づくのを止めた。

拒まれると思ってステラの表情を見ると、赤い顔をして目をぎゅっと閉じていたのだ。


「!!・・・ステラ・・・?」


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