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「へっ・・!?わぁっ・・・!」


ステラの手を掴んで歩いていく。


(ここから一番近い部屋は・・・俺の部屋か。)


できればステラの部屋まで連れていきたいところだが、もし誰かに見られでもしたらステラが困ることになるかもしれない。

そう思って俺は一番近くにあった自分の部屋にステラを連れ込んだ。


「この部屋って・・・?」

「俺の部屋だ。」

「タウさんの部屋・・・?え、何か用事ですか?」


自分の顔が見えないステラはきょとんとした顔をで俺を見ていた。

薄っすら金色になっていた瞳はもう完全に金色になってしまってる。


「はぁー・・・。」

「?」

「ステラ、お前・・救い人だろ?」

「!?・・なっ・・なんで・・・」

「トゥレイスやワズンたちも知ってる。もちろん王も。」

「へっ!?」

「気づいてると思うけど、登録の時の石の色が瞳の色と同じになるんだ。お前が言うまで黙ってようって話になってるから黙ってたけど・・今、お前の瞳、金色になってる。」


そう言うとステラは手で自分の目を押さえた。


「そうやっては歩けないだろう・・・。」

「嘘っ・・!ちゃんと目薬入れたのに・・・!」


ステラの言葉の意味が分からなかった俺は、聞き返した。


「めぐすり・・・?」

「え・・まさかこっちの世界って目薬ってないんですか・・?」

「無いも何も・・・お前は一体どこから来たんだ・・?」

「・・・。」

「言いたくなければ言わなくていいが・・・その瞳の色、どうする気だ?」


ステラは服のポケットに手を入れ、小さな小瓶を取り出した。

もう中身がほとんどないその小瓶の蓋をあけ、逆さにして中身を目に入れようとしてる。


「は!?お前っ・・!何してるんだ!?」


慌てて取り上げようとしたとき、中身の一滴がステラの目に入ってしまった。


「瞳の色、変わりました?」


何度か瞬きさせてから俺に顔を近づけてきたステラ。

あまりの近さに一瞬身を引いたものの、変わっていくステラの瞳の色に目を奪われた。


「薄い青に変わっていってる・・・。」

「よかった・・・。でも昨日入れたばっかりなのにどうして・・・・」


ぶつぶつ言いながらもう片方の目にもその液体を入れたステラだったけど、こんな魔法を知らない俺はステラの肩をがしっと掴んだ。


「ふぁっ・・!?」

「どうやったんだ!?」

「え・・あ、ハマルおばぁちゃんが遺してくれたものなんです。『誰かに見つかりそうになったら目に入れなさい』って言ってくれて・・・」

「遺したもの・・・?」

「はい。」


そう言われ、俺はステラの肩を掴んでいた手を離した。


(待て待て待て・・・瞳の色を変える何かをハマル様が作っていたのか?ステラをいいように使われないようにするためだったとしても、そんな技術聞いたことがない・・・。)


国一番の魔法使いなら、特別な何かを作ることができたとしても不自然ではない。

むしろ研究に特化していたハマル様ならやりかねないのだ。


「あの・・もう戻っていいですか・・?」


そう言ったステラの手を、俺はがしっと掴んだ。

わからないことが多いステラだけど、素性が知りたくて掴んだのだ。

でも『すべてを話してくれないか?』とは言えず、ただじっと見ることしかできなかった。


「・・・。」


『いつか話してくれるかもしれない』そう思って諦めようとしたそのとき、ステラが口を開いた。


「私のこと、『救い人』ってわかってたって言ってましたよね・・?」

「あぁ。」

「わかってて黙ってくれてるんだろうなとは思ってました・・。」

「え?」

「だって明らかにおかしいじゃないですか。みなさんの石は青色ばかりなのに私のだけ金色って・・・。」

「まぁ・・・。」

「なので・・・甘えちゃいました。へへっ。」

「---っ!」


にこっと笑うステラは、幼い年齢のハズなのに大人びて見えた。

黙ってることを諦めたのか床に座り、膝をかかえて天井を見上げてる。


「少し長くなるんですけど聞いてくれますか?」

「・・・あぁ。」

「この世界に生まれたことは確かだと思うんですけど、『誰から生まれた』かはわかりません。私はこの世界に来る前、前の世界で夫に・・・殺されたんです。」


ステラは生まれる前の世界・・・『前世』のことを話し始めた。

魔法がない世界で生きていたステラは身寄りがないまま育ち、男に拾われて契りを交わした。

自由のきかない囚われ状態で何年も過ごし、息抜きをしていたところ男に見つかって殴り殺されたのだとか。


「酷すぎる・・・。痛かっただろ・・?」


同じように隣に座り、その話を聞いていた俺はステラのあまりの境遇に言葉を失いかけていた。


「・・正直なところ、毎日殴られるか蹴られるかだったんでいつか殺されるかもしれないって思ってました。あの時は・・・失敗しましたね。もうちょっとちゃんとやれてたら殺されなかったかもしれないのにって思っちゃいます。」


平然と死を話すステラは、前世に未練があるように見えた。

なにかやり残したことがあるから、前世への生があるのかもしれない。


「息抜きに何をしてたんだ?」


一体何をして男の怒りを買ったのかが気になった俺はステラに尋ねた。


「えーと・・・うーんと・・・ちょっと説明が難しいですね・・・」

「そんなに?」

「ネットってないですもんね、こっち・・・」

「ねっと?」

「うーん・・あ、私の声をこの国人全員に同時に届けることができるものがあったんです。わかりますか?」

「あぁ、なんとなくわかる。」

「それを使って・・・まぁ、歌を歌ってたんです。歌ってお金を稼いでいたので・・・」

「歌か!」

「それがバレちゃって・・・硬いもので殴られました。」

「そんなことで・・?」

「はい。」


男から逃げるために歌を歌って金を稼いでいたというステラ。

その行動が殺される原因になってしまったらしいのだ。


「その男、絶対やめといたほうがいい。」

「あはは、やめるも何ももう二度と会えませんよ。こっちの世界にあの人はいませんし。」

「それもそうか・・・。」

「ふふっ。・・・そんな過去があったんで、ハマルおばぁちゃんとずっと森で生きるって決めたんです。私にとってはハマルおばぁちゃんは初めての身内だったんです。」

「そうだったのか・・・。」


ステラが頑なに森に帰ることを希望していたのはその過去が原因だった。

前世で身内と呼べるただ一人の男に暴力を振るわれていたのだから、警戒して当たり前だったのだ。


「じゃあワズンの剣から逃げたのも?」

「自由に生きたいのにここで殺されるわけにいかないと思って逃げましたね。」

「なるほど・・・。」


だんだん紐解けてきたステラのこと。

幼そうな見た目に反してしっかりしている中身は、前世から持ってきたものだったのだ。


「・・・前世で男に殺されたなら・・・男は嫌いか?」


森で一人でいることを選んでいたくらいだ。

人そのものを嫌いになっていてもおかしくはない。


「そう・・ですね。・・・あ、でもここの人たちが優しいのは知ってますよ?前世でも優しい人はいましたし。」

「え?ならなぜその男と暮らしてたんだ?」

「あー・・一人で生きて行こうと思ったらいろいろ物入りな世界だったんですよ。お金ももちろんたくさん必要でしたし、何より『私』という存在を認めてもらえないと難しい世界だったんで・・・」

「認める?存在してたんだろ?」

「うーん・・いろいろ厳しい世界だったんですよ。」

「そうなのか・・・。」


どれだけ大変な思いをしながら生きていたのかはわからないが、この世界に生まれてるステラは自分の思うままに生きて欲しいと心から願った。

クズのような存在の男のことなんて二度と思い出すことがないよう、充実した日々を送らせてやりたいものだ。


「そういえば歌を歌ってたんだよな?」

「え?・・・あぁ、はい。」

「まだ歌えるか?」


金を稼いでいたというステラの歌。

聞いてみたいと思ったのだ。


「えっ・・・。」

「嫌か?」

「嫌ではないですけど・・・上手くないですよ?」

「上手いか下手かは俺にはわからん。歌はあまりないからな。」

「そうなんですか?」

「あぁ。」


ピストニアの国にある歌は片手で数えれるくらいしかない。

赤ん坊のころに聞かされるくらいで、大きくなってからは誰も歌わないのだ。


「じゃあちょっとだけ・・・」


そう言ってステラは歌を歌い始めた。


「♪~・・♬♩ー・・・」

「!!」


話をしてる時とは違う澄んだ声に一瞬驚いた俺だったが、ステラの声の心地よさに目を閉じた。

芯が通った歌声は透明感があっていつまでも聞いていたくなる。


「・・・へへ。」


ほんの少しだけ歌ってくれたステラは照れながら笑っていた。

その笑顔は輝いていて、歌が好きでたまらないって言ってるようだ。


「いい声だな。」

「!!・・・ふふっ。」


俺の言葉が嬉しかったのか、目を細めてふにゃっと笑ったステラ。

その笑顔にきゅっと胸が締め付けられた自分がいた。


「そろそろ戻るか?もう夜も深い。」


気のせいだと思いながら窓に目をやると、外は暗くなっていた。

だいぶ長い時間、話をしていたようだ。


「わっ・・!もう夜ですか!?私約束があるんで失礼しますっ・・!」


『約束』という言葉が気になった俺は立ち上がろうとしたステラの手を引っ張って止めた。


「・・・誰と?」

「へっ・・?あ、ヌンキさん・・です。」

「ヌンキ?」

「お風呂に入れてくれるって約束してて・・・」

「あー・・・引き留めて悪かった。風邪引かないようにな。」

「はーい。」


バタバタと急いで走っていくステラの足音を聞きながら、俺は自分の頭を後ろ手にかいた。


(あー・・くそ、何してんだ俺は・・。)


ステラの笑顔が頭から離れない俺は、ステラの『この先』を考えた。

ハマル様が作った瞳の色を変えるやつは、もう残りがない。

ステラが作り方を知っていたらこの先も瞳の色が金色とバレずに街で過ごすことはできるだろう。

でも・・


(作れるならもうとっくに作ってるよな・・・。)


追加は作れないことがほぼ確定だろう。

そうなってくるとどうするかが問題だった。


(公表したらどうなる?国民たちはステラに何かを求めにくるのか?)


読めない未来に頭を抱えてるとき、ふと自分の手が熱いことに気がついた。

両手をじっと見ながら握ったり開いたりしてみる。


「?・・気のせいか?」


よくわからない手の熱さに、とりあえずステラの瞳の色のことを王たちに相談しようと思って立ち上がった。

執務室に向かおうと部屋を出たとき、トゥレイスとアダーラ、ミンカルが廊下に立っていたのだ。


「!?・・お前ら何してんだ?」

「タウー・・・ステラ、すげぇ悲しい過去持ってんだなぁ・・・。」


アダーラが涙を流しながらそう言ってきた。


「おまっ・・・聞いてたのか!?」


涙を流すアダーラの肩をぽんぽんっと叩きながら、トゥレイスがニヤついた顔で俺を下から覗き込んでる。


「そりゃ侍女たちから『タウ様がステラ様を部屋に連れ込みました!』なんて報告が来たら来るに決まってるでしょ?」

「は!?」

「いい声だったねぇ、ステラ。俺もいつか壁越しじゃなくて目の前で聞きたいもんだよ。」

「聞こえてたのか!?」

「え?・・・あぁ、多分城の大半聞こえたんじゃない?透明感のある声だったからよく通ってたし。」

「!?!?」


そんなに大きな声ではなかったような気がしていたが、ステラの歌声は城を駆け回ったようだった。


(まぁ、ステラのいい声をみんなが知るのはいいことだし・・・。)


そう自分を納得させた。

結局侍女の大半がステラの歌声を聞いていたらしく、ステラは翌日から侍女たちに歌をせがまれることになってしまった。

『ちゃんと歌うのは恥ずかしいから』と言って、城にいるときは鼻歌をよく歌うようになっていったステラ。



その歌声がとんでもないことにつながるなんて、この時の俺は思ってもいなかった。





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