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「ステラ、もう体は大丈夫?」
レイスさんに声をかけられ、私は笑顔を見せた。
「大丈夫ですー、いろいろありがとうございました。」
そう言って頭を下げると、レイスさんたちは顔を見合わせていた。
そして突然レイスさんを筆頭にその場にいた全員が頭を下げたのだ。
「へっ・・?」
「本当に申し訳ない・・!」
「え?・・え?」
深く下げられた頭に、私はこの前の話を思い出した。
私の風邪が治ったらちゃんと謝罪したいと言ってくれていたことを。
「何も知らない無抵抗なステラに剣を向けたことは、このワズンにきっちり謝らせる。」
「・・・。」
「そしてここまで来てくれたのにちゃんと守れなくて本当に申し訳ない。ハマル様に合わせる顔がない。」
そう言っていつまでも頭を上げてくれないレイスさんたちは、きっと私が『もういい』と言うまで下げ続けるだろう。
根競べな勝負は始めから受ける気もないのだ。
「私も何も知らないとはいえ、勝手に出ていってすみませんでした。風邪が治るまでここにいさせていただき、感謝してます。」
同じように頭を深く下げると、レイスさんたちが頭を上げてくれた。
そしてそのまま続けるようにして、ハマルおばぁちゃんが亡くなった時のお礼を言わせてもらった。
「おばぁちゃんが亡くなった時、いろいろしていただいてありがとうございました。私一人だったらきっと何もできずに苦しめていたと思うので・・・本当にありがとうございました。」
「いや、俺たちは何もしてないよ。」
「ハマル様、幸せそうに笑ってただろ?ステラと一緒にいれてよかったと思う。」
「・・そうですね。」
おばぁちゃんは確かに満足そうに旅立って行った。
『愛情のある家族』を初めて持った私にとってはものすごく辛い別れだったけど、その別れはいつか必ず来るものだ。
18年も一緒にいれたことを思い出と糧にしながら生きて行くのが、おばぁちゃんへの恩返しなのかもしれない。
「ありがとうございました。・・・あの、できれば森に帰りたいんですけどいいですか?」
レイスさんたちにも恩ができてしまった私は黙って帰ることをやめ、聞くことにした。
私の言葉にレイスさんたちは驚いた顔をしてる。
「帰る・・・!?」
「や・・ちょっと待とうか・・!」
「?」
名前を知らない二人が急いで部屋から出ていき、またすぐに戻ってきた。
手にガラスでできた箱のようなものを持ってる。
「これ・・!魔法が使える者として登録できる箱なんだ・・!してみないか・・!?」
「え?」
「森に帰ったあと、またここに来る時に必要になるんだよ。」
「?」
『必要』の意味がよくわからないけど、本来の目的はこれをすることだ。
こんな遠いところまできて何もせずに帰るのもどうかと思った私は首を縦に振る。
「よかった・・!じゃあとりあえずそこに座って?」
「はい。」
言われた通りにベッドの側にある二人掛けのような椅子に座ると、箱を持った人が私の隣に座った。
そして私の膝の上にそのガラスでできた箱を置いた。
「これ、手で両側から持ってくれる?」
「は・・はい・・・。」
「で、箱の真ん中をじっと見つめてみて?」
「じっと見つめる・・・。」
言われた通り箱の真ん中をじっと見つめた。
全面ガラスでできてる箱の真ん中がここで合ってるのかどうかわからずに見つめてると、レイスさんが指でさししめしてくれた。
「この辺りをじっと見て?で、魔力流せる?」
「魔力?」
「そう。両手から魔力を箱の中に流すイメージ。わかる?」
「両手・・・」
私のヒールは右手でしかできないものだ。
左手ではヒールを使うことができないため、両手でなんてしたことがなかった。
(できるかな・・・。)
とりあえず右手に意識を集中させ、魔力を注いでいく。
左手にも意識をむけるけどちゃんとできてるのかわからないでいた。
「うーん・・・?」
よくわからないままヒールをかけるようにして魔力を注ぐと、箱の中が薄っすらと光り始めた。
その光はどんどん濃くなっていき、箱の中が金色の光に満ちた。
「わっ・・・。」
驚いたと同時にその光は収束していき、数秒で光は消えていった。
(これで終わり・・?)
元のガラスの箱に戻ってしまったことから終わりかと思って周りを見たとき、この場にいる全員が箱を見つめてることに気がついた。
私も視線を箱に落とすと、中に小さくて丸い宝石のような石がころんっと転がっていたのだ。
「え・・これなに・・?」
そう言うと私の隣にいた人が箱を取ってくれた。
そして手を一番上のガラスに置き、スライドさせて開けたのだ。
(それ、開くんだ・・・。)
驚きながら見てると、その人はガラスの箱の中に手を入れた。
中にできていた石を取ろうとしたのだろうけど、その人の手が石に触れた瞬間、バチっ!・・・と、大きな音がしたのだ。
「えっ・・・!?」
「弾かれた・・?」
弾かれた手をまじまじと見ている私の隣の人は、腕まくりをしてまた箱の中に手を入れた。
「んなわけないだろ・・・!」
そう言って石を触ろうとしたとき、またバチっ!・・と音がして今度は石が跳ねたのだ。
「石が弾くなんて初めてだな・・・」
興味深そうにレイスさんが箱を覗きながら言った。
「そうなんですか!?」
「あぁ。・・・ステラならその石、取れると思うから取ってみてくれる?」
「え・・・。」
私は隣の人に箱を渡され、恐る恐る手を入れた。
弾かれることを覚悟して目を閉じながらその石に触れると、何も起こらなかったのだ。
(よかった・・・。)
一安心してその石を握って箱から出す。
そして手を広げて確認したその石は、金色に光輝く宝石のような石だったのだ。
「きれい・・・。」
手のひらにコロンっと乗ってる小さな石を見つめながらそう呟くと、周りにいた人たちがその石をじっと見ていた。
「金色だ・・・。」
「あぁ、間違いなく金色だな・・・。」
「?」
色がおかしいのかと思ってるとレイスさんがスッと手を伸ばしてきた。
「ステラ、ちょっと触ってみても・・・?」
「どうぞ・・?」
手を差し出してレイスさんが触りやすいように見せた。
レイスさんはゆっくり手を伸ばしてきて石に触ろうとしたけど、やっぱりバチっ!・・と音がして弾かれてしまったのだ。
「---っ!」
「あの、弾くってダメなことなんですか?そもそもこの石って・・・?」
「あぁ、説明するね。」
何もわからない私が聞くと、レイスさんは順を追って話してくれた。
この石は魔力の結晶らしく、ガラスの箱を通して魔力を具現化してできてるらしいのだ。
消費魔力は微々たるもので、この国に入る資格『魔法を使えます』という証明になるのだとか。
(確かに魔法が使えないディアヘルって国の人にはできないことだけど・・・)
もし魔法が使えない人がこの国に来たらどうなるのだろうと少し不安を覚えてしまう説明に疑問を抱いてると、『ワズン』と呼ばれていた赤い制服の人が口を開いた。
私に剣を向けた人だ。
「・・・この国は昔、ディアヘルの者たちに忌み嫌われた過去がある。だからディアヘルの者を国に入れない為にその石がいるんだ。」
「へぇー・・・そうなんですか。」
埋まりそうにない両国の溝。
その深さが一瞬だけ垣間見えたような気がした時だった。
「ステラ殿・・は魔力があることが証明された。先日剣を向けたことと威圧的な態度を取ってしまったことをここに深く詫びたいと思う。・・・申し訳なかった。」
そう言って深く深く頭を下げるワズンさん。
怖かったのは事実だけど謝ってくれたことで私の気持ちは少しだけ晴れた。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
そうは言ったものの、前世の記憶がまだ残ってる私は誠也さんのことを思い出していた。
日常的に殴られ、蹴られていたことを・・・。
(・・・私の遺体は処分されたんだろうか。)
ふと思ったことだった。
私を殴り殺した誠也さんは、きっと後始末に追われたことだろう。
警察沙汰になれば『殺人』という肩書がつくわけだけど、私のことを知ってる人は数少ない。
日常的な虐待のことはきっと事件にはならないだろう。
(転んで頭をぶつけたとか言われて終わりそうだな・・。)
そう思いながら軽くため息を漏らしたとき、レイスさんが声をかけてくれた。
「どうした?ステラ。体調悪いのか?」
そう言って私の頭を撫でようとしたのかスッと伸びてきた手。
その手が誠也さんの手とかぶって思い出してしまい、私はその手を払いのけた。
「やっ・・!!」
パシッといい音がした瞬間、自分が何をしたのか気づき、私は謝った。
「ごっ・・ごめんなさい・・・。」
「ううん?大丈夫。虫かなにかと間違えちゃった?」
「あ・・そ・・そうです・・・すみません。」
そう謝ったあと、私はもう一度自分の手にある石を見つめた。
指で摘まみ上げ、手を挙げて下から覗き込むように見ると、ダイヤのようにカットされてるように見えたのだ。
「ブリリアントカット?なのかな・・・」
ぶつぶつ言いながら石をまじまじ見つめてると、私の隣にいた人も覗き込んできた。
「何見てるの?」
「あ、こういう形なのかなーと思って・・。」
「形?俺の見る?」
「いいんですか?・・・というか持ち歩くものなんですか?」
「持ち歩くやつもいれば持ち歩かないやつもいるかな?国から出なきゃ基本必要ないし?」
「なるほど・・・。」
そんな話しながらこの人はポケットから革袋のようなものを取り出した。
小さい小さい革袋は指輪が一つ入ればもう一杯になってしまうくらいの大きさだ。
「ほら。」
紐を解いて革袋を逆さにして出された石は、濃い青色だった。
自分のものとは違う色にまじまじと見つめてしまう。
「手に取って見てみたら?」
「え!?弾かれるんじゃ・・・?」
「ははっ、大丈夫大丈夫。俺の石を弾いたやつなんていないから。」
「そうなんですか?」
「うん。」
私は恐る恐る手を伸ばし、その石にそっと触れてみた。
何も起こらない石にほっとしながら指で摘まみ上げ、その石を見つめてみる。
「形が違う・・・?」
自分の石と比べるように見ると、この人の石は楕円の形をしていたのだ。
俗にいう『オーバルカット』と言われる形だ。
(確か・・アパタイトって宝石がこんな色だったような気がする・・・。)
前世での夫、誠也さんが宝石のうんちくを語り倒してくれたときに覚えたものだ。
実物を見ることはできなかったけど、このきれいな宝石を見てるだけで満足だ。
「人それぞれ違うんだよ。よかったら全員の見る?」
「いいんですか!?」
「もちろん。」
レイスさんがポケットから革袋を取り出すと、他の人たちもみんな取り出してくれた。
それぞれ手の上に石を出してくれ、その手を私に差し出してくれたのだ。
「わぁ・・・みんな違う・・・。」
真四角な形もあれば長方形の形もあり、色もバラバラだった。
薄い青色から濃い青色まであるものの、色の根本は青一色のようだ。
「なんだかこれ・・・みなさんの瞳の色に似てる・・・?」
隣に座ってる人の瞳の色は濃い青色だし、レイスさんの瞳の色は薄い青色だ。
手にある石とほぼ同じ色をしてる。
「気のせいじゃないか・・!?」
「そっ・・そうだよ!気のせいだよ・・!」
そそくさと自分の石を袋にしまうみんなを見ながら、私は自分の石を見つめた。
金色に光り輝くこの石は・・・私の瞳と同じ色をしてる。
「---っ!!」
この結晶の意味が分かった私は椅子から立ち上がった。
「あのっ・・!私帰りますっ・・!!」
魔力の結晶の色が瞳の色ならば、ここにいる全員が私の瞳の色を知ったことになる。
まだ何も言われてはいないけど、きっと疑問に思ってるはずだ。
「休ませてくださってありがとうございました・・!失礼します!」
そう言って扉に向かったとき、バンっ!・・と音を立てて扉が開かれた。
「お話のところ失礼いたします!!トゥレイス団長!タウ団長!大変です!!堺の森から黒煙が上がってます!!」
レイスさんに声をかけられ、私は笑顔を見せた。
「大丈夫ですー、いろいろありがとうございました。」
そう言って頭を下げると、レイスさんたちは顔を見合わせていた。
そして突然レイスさんを筆頭にその場にいた全員が頭を下げたのだ。
「へっ・・?」
「本当に申し訳ない・・!」
「え?・・え?」
深く下げられた頭に、私はこの前の話を思い出した。
私の風邪が治ったらちゃんと謝罪したいと言ってくれていたことを。
「何も知らない無抵抗なステラに剣を向けたことは、このワズンにきっちり謝らせる。」
「・・・。」
「そしてここまで来てくれたのにちゃんと守れなくて本当に申し訳ない。ハマル様に合わせる顔がない。」
そう言っていつまでも頭を上げてくれないレイスさんたちは、きっと私が『もういい』と言うまで下げ続けるだろう。
根競べな勝負は始めから受ける気もないのだ。
「私も何も知らないとはいえ、勝手に出ていってすみませんでした。風邪が治るまでここにいさせていただき、感謝してます。」
同じように頭を深く下げると、レイスさんたちが頭を上げてくれた。
そしてそのまま続けるようにして、ハマルおばぁちゃんが亡くなった時のお礼を言わせてもらった。
「おばぁちゃんが亡くなった時、いろいろしていただいてありがとうございました。私一人だったらきっと何もできずに苦しめていたと思うので・・・本当にありがとうございました。」
「いや、俺たちは何もしてないよ。」
「ハマル様、幸せそうに笑ってただろ?ステラと一緒にいれてよかったと思う。」
「・・そうですね。」
おばぁちゃんは確かに満足そうに旅立って行った。
『愛情のある家族』を初めて持った私にとってはものすごく辛い別れだったけど、その別れはいつか必ず来るものだ。
18年も一緒にいれたことを思い出と糧にしながら生きて行くのが、おばぁちゃんへの恩返しなのかもしれない。
「ありがとうございました。・・・あの、できれば森に帰りたいんですけどいいですか?」
レイスさんたちにも恩ができてしまった私は黙って帰ることをやめ、聞くことにした。
私の言葉にレイスさんたちは驚いた顔をしてる。
「帰る・・・!?」
「や・・ちょっと待とうか・・!」
「?」
名前を知らない二人が急いで部屋から出ていき、またすぐに戻ってきた。
手にガラスでできた箱のようなものを持ってる。
「これ・・!魔法が使える者として登録できる箱なんだ・・!してみないか・・!?」
「え?」
「森に帰ったあと、またここに来る時に必要になるんだよ。」
「?」
『必要』の意味がよくわからないけど、本来の目的はこれをすることだ。
こんな遠いところまできて何もせずに帰るのもどうかと思った私は首を縦に振る。
「よかった・・!じゃあとりあえずそこに座って?」
「はい。」
言われた通りにベッドの側にある二人掛けのような椅子に座ると、箱を持った人が私の隣に座った。
そして私の膝の上にそのガラスでできた箱を置いた。
「これ、手で両側から持ってくれる?」
「は・・はい・・・。」
「で、箱の真ん中をじっと見つめてみて?」
「じっと見つめる・・・。」
言われた通り箱の真ん中をじっと見つめた。
全面ガラスでできてる箱の真ん中がここで合ってるのかどうかわからずに見つめてると、レイスさんが指でさししめしてくれた。
「この辺りをじっと見て?で、魔力流せる?」
「魔力?」
「そう。両手から魔力を箱の中に流すイメージ。わかる?」
「両手・・・」
私のヒールは右手でしかできないものだ。
左手ではヒールを使うことができないため、両手でなんてしたことがなかった。
(できるかな・・・。)
とりあえず右手に意識を集中させ、魔力を注いでいく。
左手にも意識をむけるけどちゃんとできてるのかわからないでいた。
「うーん・・・?」
よくわからないままヒールをかけるようにして魔力を注ぐと、箱の中が薄っすらと光り始めた。
その光はどんどん濃くなっていき、箱の中が金色の光に満ちた。
「わっ・・・。」
驚いたと同時にその光は収束していき、数秒で光は消えていった。
(これで終わり・・?)
元のガラスの箱に戻ってしまったことから終わりかと思って周りを見たとき、この場にいる全員が箱を見つめてることに気がついた。
私も視線を箱に落とすと、中に小さくて丸い宝石のような石がころんっと転がっていたのだ。
「え・・これなに・・?」
そう言うと私の隣にいた人が箱を取ってくれた。
そして手を一番上のガラスに置き、スライドさせて開けたのだ。
(それ、開くんだ・・・。)
驚きながら見てると、その人はガラスの箱の中に手を入れた。
中にできていた石を取ろうとしたのだろうけど、その人の手が石に触れた瞬間、バチっ!・・・と、大きな音がしたのだ。
「えっ・・・!?」
「弾かれた・・?」
弾かれた手をまじまじと見ている私の隣の人は、腕まくりをしてまた箱の中に手を入れた。
「んなわけないだろ・・・!」
そう言って石を触ろうとしたとき、またバチっ!・・と音がして今度は石が跳ねたのだ。
「石が弾くなんて初めてだな・・・」
興味深そうにレイスさんが箱を覗きながら言った。
「そうなんですか!?」
「あぁ。・・・ステラならその石、取れると思うから取ってみてくれる?」
「え・・・。」
私は隣の人に箱を渡され、恐る恐る手を入れた。
弾かれることを覚悟して目を閉じながらその石に触れると、何も起こらなかったのだ。
(よかった・・・。)
一安心してその石を握って箱から出す。
そして手を広げて確認したその石は、金色に光輝く宝石のような石だったのだ。
「きれい・・・。」
手のひらにコロンっと乗ってる小さな石を見つめながらそう呟くと、周りにいた人たちがその石をじっと見ていた。
「金色だ・・・。」
「あぁ、間違いなく金色だな・・・。」
「?」
色がおかしいのかと思ってるとレイスさんがスッと手を伸ばしてきた。
「ステラ、ちょっと触ってみても・・・?」
「どうぞ・・?」
手を差し出してレイスさんが触りやすいように見せた。
レイスさんはゆっくり手を伸ばしてきて石に触ろうとしたけど、やっぱりバチっ!・・と音がして弾かれてしまったのだ。
「---っ!」
「あの、弾くってダメなことなんですか?そもそもこの石って・・・?」
「あぁ、説明するね。」
何もわからない私が聞くと、レイスさんは順を追って話してくれた。
この石は魔力の結晶らしく、ガラスの箱を通して魔力を具現化してできてるらしいのだ。
消費魔力は微々たるもので、この国に入る資格『魔法を使えます』という証明になるのだとか。
(確かに魔法が使えないディアヘルって国の人にはできないことだけど・・・)
もし魔法が使えない人がこの国に来たらどうなるのだろうと少し不安を覚えてしまう説明に疑問を抱いてると、『ワズン』と呼ばれていた赤い制服の人が口を開いた。
私に剣を向けた人だ。
「・・・この国は昔、ディアヘルの者たちに忌み嫌われた過去がある。だからディアヘルの者を国に入れない為にその石がいるんだ。」
「へぇー・・・そうなんですか。」
埋まりそうにない両国の溝。
その深さが一瞬だけ垣間見えたような気がした時だった。
「ステラ殿・・は魔力があることが証明された。先日剣を向けたことと威圧的な態度を取ってしまったことをここに深く詫びたいと思う。・・・申し訳なかった。」
そう言って深く深く頭を下げるワズンさん。
怖かったのは事実だけど謝ってくれたことで私の気持ちは少しだけ晴れた。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
そうは言ったものの、前世の記憶がまだ残ってる私は誠也さんのことを思い出していた。
日常的に殴られ、蹴られていたことを・・・。
(・・・私の遺体は処分されたんだろうか。)
ふと思ったことだった。
私を殴り殺した誠也さんは、きっと後始末に追われたことだろう。
警察沙汰になれば『殺人』という肩書がつくわけだけど、私のことを知ってる人は数少ない。
日常的な虐待のことはきっと事件にはならないだろう。
(転んで頭をぶつけたとか言われて終わりそうだな・・。)
そう思いながら軽くため息を漏らしたとき、レイスさんが声をかけてくれた。
「どうした?ステラ。体調悪いのか?」
そう言って私の頭を撫でようとしたのかスッと伸びてきた手。
その手が誠也さんの手とかぶって思い出してしまい、私はその手を払いのけた。
「やっ・・!!」
パシッといい音がした瞬間、自分が何をしたのか気づき、私は謝った。
「ごっ・・ごめんなさい・・・。」
「ううん?大丈夫。虫かなにかと間違えちゃった?」
「あ・・そ・・そうです・・・すみません。」
そう謝ったあと、私はもう一度自分の手にある石を見つめた。
指で摘まみ上げ、手を挙げて下から覗き込むように見ると、ダイヤのようにカットされてるように見えたのだ。
「ブリリアントカット?なのかな・・・」
ぶつぶつ言いながら石をまじまじ見つめてると、私の隣にいた人も覗き込んできた。
「何見てるの?」
「あ、こういう形なのかなーと思って・・。」
「形?俺の見る?」
「いいんですか?・・・というか持ち歩くものなんですか?」
「持ち歩くやつもいれば持ち歩かないやつもいるかな?国から出なきゃ基本必要ないし?」
「なるほど・・・。」
そんな話しながらこの人はポケットから革袋のようなものを取り出した。
小さい小さい革袋は指輪が一つ入ればもう一杯になってしまうくらいの大きさだ。
「ほら。」
紐を解いて革袋を逆さにして出された石は、濃い青色だった。
自分のものとは違う色にまじまじと見つめてしまう。
「手に取って見てみたら?」
「え!?弾かれるんじゃ・・・?」
「ははっ、大丈夫大丈夫。俺の石を弾いたやつなんていないから。」
「そうなんですか?」
「うん。」
私は恐る恐る手を伸ばし、その石にそっと触れてみた。
何も起こらない石にほっとしながら指で摘まみ上げ、その石を見つめてみる。
「形が違う・・・?」
自分の石と比べるように見ると、この人の石は楕円の形をしていたのだ。
俗にいう『オーバルカット』と言われる形だ。
(確か・・アパタイトって宝石がこんな色だったような気がする・・・。)
前世での夫、誠也さんが宝石のうんちくを語り倒してくれたときに覚えたものだ。
実物を見ることはできなかったけど、このきれいな宝石を見てるだけで満足だ。
「人それぞれ違うんだよ。よかったら全員の見る?」
「いいんですか!?」
「もちろん。」
レイスさんがポケットから革袋を取り出すと、他の人たちもみんな取り出してくれた。
それぞれ手の上に石を出してくれ、その手を私に差し出してくれたのだ。
「わぁ・・・みんな違う・・・。」
真四角な形もあれば長方形の形もあり、色もバラバラだった。
薄い青色から濃い青色まであるものの、色の根本は青一色のようだ。
「なんだかこれ・・・みなさんの瞳の色に似てる・・・?」
隣に座ってる人の瞳の色は濃い青色だし、レイスさんの瞳の色は薄い青色だ。
手にある石とほぼ同じ色をしてる。
「気のせいじゃないか・・!?」
「そっ・・そうだよ!気のせいだよ・・!」
そそくさと自分の石を袋にしまうみんなを見ながら、私は自分の石を見つめた。
金色に光り輝くこの石は・・・私の瞳と同じ色をしてる。
「---っ!!」
この結晶の意味が分かった私は椅子から立ち上がった。
「あのっ・・!私帰りますっ・・!!」
魔力の結晶の色が瞳の色ならば、ここにいる全員が私の瞳の色を知ったことになる。
まだ何も言われてはいないけど、きっと疑問に思ってるはずだ。
「休ませてくださってありがとうございました・・!失礼します!」
そう言って扉に向かったとき、バンっ!・・と音を立てて扉が開かれた。
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