38 / 41
必然な出会いたち
出会い2
しおりを挟む
この人は私に頭を下げたとき、身体が少しよろめいていた。
体調が悪そうに見えたのは間違いがなさそうだ。
「どうして私が必要なんですか?」
体調が悪いながら行くべきところは病院だ。
一木さんの患者なら尚更病院にいくべきだと、私は思った。
単なる中学生の私ができることなんて何もないんだから・・・。
「あの日・・お前が弾いてた音に、俺は惹かれた。今まで一木先生のところに通って仕事の息抜きをしてたけど・・・お前の音がいい。」
そう言われ、私はあの時のことを思い出していた。
おもちゃのピアノの音が聞きたくて、鍵盤を叩いたことを。
(私もあの音にすごく感激したけど・・・この人は私とは違うよねぇ・・・。)
あの時の私は、施設から出たばかりで右も左もわからないことだらけだった。
憧れていたピアノの生の音を初めて聞いて、身体が震えるくらい感動したことは今も鮮明に覚えてる。
でもこの人は・・・一木さんの患者さんだ。
『心療内科』の医師である一木さんは、患者さんの心の『重さ』を少し取る仕事をしてると教えてくれたことがあった。
一人で解決できない心の痛みを、一木さんが少し負担することで患者さんの痛みが減るのだ。
(調子悪そうだけど・・・私のピアノを聴けば元気になるの?)
決していいとは言えない顔色に、よろめく身体。
ピアノとは違う方法で治したほうがいいと思うものの、話をしてるうちに放っておけなくなってしまっていた。
「じゃ・・じゃあ、そこのピアノで・・いいですか?」
そう言ってさっきのピアノの方を指差した。
私が歩いて来た道だ。
「!!・・・助かる。」
私は踵を返して歩き出した。
私のすぐ後ろを『伊織』さんがふらつきながらついてくる。
(うーん・・・。)
体格のいい身体に、すこし長めの黒い髪の毛。
年は・・・私よりは遥かに上に見えた。
『仕事の息抜き』と言ってたことからお仕事をされてる年齢なのは読み取れていた。
伊織さんの回りにいる人たちも同じようなスーツを着ていて、どうもお仕事の途中のように見えた。
(お仕事って、お兄ちゃんやお父さんのしか知らないからわからないけど・・・この人は何の仕事をしてるんだろう。)
そんなことを考えながら、私はさっきのピアノのところに戻って来た。
まだ列に並んでる人数は減ってなく、どう見てもあと数時間は待ちそうだ。
(うーん・・・今日、私は予定無いけど何時間もここにいるのはちょっと・・・。)
そう思いながら伊織さんを見た時だった。
彼は私の腕をぐぃっと引っ張ったのだ。
「ふぇっ・・!?」
「悪い、仕事の都合があって長くは待てないんだ。ちゃんと家に送るから・・・来てくれ。」
そう言って伊織さんは私の腕を掴んで歩き出してしまった。
「へっ・・!?あのっ・・・」
どうしたいいのかわからずにいると、どこからともなく真っ黒の車が現れた。
伊織さんの回りにいた人達がその車のドアを開け、伊織さんは私をその車の中に押し入れた。
「10分くらいで着く。」
そう言って伊織さんも車に乗り込んできた。
ドアを閉めると同時に車が走り出し、私は行き先も告げられないままどこかに向かうことになってしまった。
ーーーーー
「着いたぞ。」
車が走り出して10分ほど経った時、車は大きな門をくぐった。
ゆっくり開いた門は木でできていて、その分厚さに壁かと思うほどだ。
門をくぐった車はそのままゆっくりと走り、一軒の大きな家の前で止まった。
そして伊織さんはドアを開けて車から下り、私に向かって手を差し出して来た。
「下りれるか?」
「は・・はい・・・。」
その手を取り、車から下りたとき、耳をつんざくような声が私を襲った。
「お帰りなさいませ!!若!!」
「ひゃあっ・・!?」
あまりの声の大きさに思わず耳を塞ぐ。
すると、そんな私に気がついたのか、伊織さんが私を覗き込んできた。
「どうした?大丈夫か?」
「あ・・ちょっと大きい声が苦手で・・・」
施設で身についてしまったのか、小さい音を拾うのが得意だった私は、施設を出てから大きい音が苦手になってしまっていた。
街中ではたくさんの音が溢れてるからそんなに驚きはしないけど、今みたいな急に現れる大きな音は苦手なのだ。
「悪い。」
伊織さんはそう言うと、大きな声を出した人を睨みつけていた。
睨まれた人は委縮したように身を小さく縮めてる。
「こっちだ。」
そう言って伊織さんは歩き始めた。
家の中に入り、土足のまま進んで行く。
その姿を見て、私も靴を脱がずについていった。
家の中は広々とした玄関があり、長くて幅の広い廊下が左右と真正面に伸びてる。
その左側の廊下を歩きながら、私は目に入る中庭をずっと見ていた。
『庭』のハズなのに、屋根付きの休憩所みたいなところがあり、大きな池のようなものも見える。
遠くを見ようとしても壁のようなものは見えず、庭じゃなくて大きい公園じゃないかと錯覚してしまいそうだ。
「亜子、これ弾けるか?」
その言葉に視線を前に向けると、伊織さんが一つの扉に手をかけて私を見ていた。
伊織さんは扉をゆっくりと開け、手を部屋の中に差し出した。
まるで『入れ』と言われてるようで私はその部屋に足を向けた。
中に入るとそこに・・・グランドピアノがあったのだ。
「すごい・・・。」
私が驚いたのはグランドピアノ本体ではなかった。
驚いたのは・・・ピアノの黒鍵部分だ。
見えた鍵盤の黒鍵部分がカラフルに塗り替えられていて、赤にピンク、ブルーに紫、黄色にグレー、それに金と、様々な色になってる。
そんな珍しい配色をしたグランドピアノを初めて見た私は、思わず笑みを溢した。
「かわいくて・・・面白い。」
私は伊織さんの許可も得ず、ピアノ前にあった椅子に座った。
そして私が弾ける曲の中で、このピアノに一番似合いそうな曲を選び、鍵盤に手を置いた。
♪~・・・!
体調が悪そうに見えたのは間違いがなさそうだ。
「どうして私が必要なんですか?」
体調が悪いながら行くべきところは病院だ。
一木さんの患者なら尚更病院にいくべきだと、私は思った。
単なる中学生の私ができることなんて何もないんだから・・・。
「あの日・・お前が弾いてた音に、俺は惹かれた。今まで一木先生のところに通って仕事の息抜きをしてたけど・・・お前の音がいい。」
そう言われ、私はあの時のことを思い出していた。
おもちゃのピアノの音が聞きたくて、鍵盤を叩いたことを。
(私もあの音にすごく感激したけど・・・この人は私とは違うよねぇ・・・。)
あの時の私は、施設から出たばかりで右も左もわからないことだらけだった。
憧れていたピアノの生の音を初めて聞いて、身体が震えるくらい感動したことは今も鮮明に覚えてる。
でもこの人は・・・一木さんの患者さんだ。
『心療内科』の医師である一木さんは、患者さんの心の『重さ』を少し取る仕事をしてると教えてくれたことがあった。
一人で解決できない心の痛みを、一木さんが少し負担することで患者さんの痛みが減るのだ。
(調子悪そうだけど・・・私のピアノを聴けば元気になるの?)
決していいとは言えない顔色に、よろめく身体。
ピアノとは違う方法で治したほうがいいと思うものの、話をしてるうちに放っておけなくなってしまっていた。
「じゃ・・じゃあ、そこのピアノで・・いいですか?」
そう言ってさっきのピアノの方を指差した。
私が歩いて来た道だ。
「!!・・・助かる。」
私は踵を返して歩き出した。
私のすぐ後ろを『伊織』さんがふらつきながらついてくる。
(うーん・・・。)
体格のいい身体に、すこし長めの黒い髪の毛。
年は・・・私よりは遥かに上に見えた。
『仕事の息抜き』と言ってたことからお仕事をされてる年齢なのは読み取れていた。
伊織さんの回りにいる人たちも同じようなスーツを着ていて、どうもお仕事の途中のように見えた。
(お仕事って、お兄ちゃんやお父さんのしか知らないからわからないけど・・・この人は何の仕事をしてるんだろう。)
そんなことを考えながら、私はさっきのピアノのところに戻って来た。
まだ列に並んでる人数は減ってなく、どう見てもあと数時間は待ちそうだ。
(うーん・・・今日、私は予定無いけど何時間もここにいるのはちょっと・・・。)
そう思いながら伊織さんを見た時だった。
彼は私の腕をぐぃっと引っ張ったのだ。
「ふぇっ・・!?」
「悪い、仕事の都合があって長くは待てないんだ。ちゃんと家に送るから・・・来てくれ。」
そう言って伊織さんは私の腕を掴んで歩き出してしまった。
「へっ・・!?あのっ・・・」
どうしたいいのかわからずにいると、どこからともなく真っ黒の車が現れた。
伊織さんの回りにいた人達がその車のドアを開け、伊織さんは私をその車の中に押し入れた。
「10分くらいで着く。」
そう言って伊織さんも車に乗り込んできた。
ドアを閉めると同時に車が走り出し、私は行き先も告げられないままどこかに向かうことになってしまった。
ーーーーー
「着いたぞ。」
車が走り出して10分ほど経った時、車は大きな門をくぐった。
ゆっくり開いた門は木でできていて、その分厚さに壁かと思うほどだ。
門をくぐった車はそのままゆっくりと走り、一軒の大きな家の前で止まった。
そして伊織さんはドアを開けて車から下り、私に向かって手を差し出して来た。
「下りれるか?」
「は・・はい・・・。」
その手を取り、車から下りたとき、耳をつんざくような声が私を襲った。
「お帰りなさいませ!!若!!」
「ひゃあっ・・!?」
あまりの声の大きさに思わず耳を塞ぐ。
すると、そんな私に気がついたのか、伊織さんが私を覗き込んできた。
「どうした?大丈夫か?」
「あ・・ちょっと大きい声が苦手で・・・」
施設で身についてしまったのか、小さい音を拾うのが得意だった私は、施設を出てから大きい音が苦手になってしまっていた。
街中ではたくさんの音が溢れてるからそんなに驚きはしないけど、今みたいな急に現れる大きな音は苦手なのだ。
「悪い。」
伊織さんはそう言うと、大きな声を出した人を睨みつけていた。
睨まれた人は委縮したように身を小さく縮めてる。
「こっちだ。」
そう言って伊織さんは歩き始めた。
家の中に入り、土足のまま進んで行く。
その姿を見て、私も靴を脱がずについていった。
家の中は広々とした玄関があり、長くて幅の広い廊下が左右と真正面に伸びてる。
その左側の廊下を歩きながら、私は目に入る中庭をずっと見ていた。
『庭』のハズなのに、屋根付きの休憩所みたいなところがあり、大きな池のようなものも見える。
遠くを見ようとしても壁のようなものは見えず、庭じゃなくて大きい公園じゃないかと錯覚してしまいそうだ。
「亜子、これ弾けるか?」
その言葉に視線を前に向けると、伊織さんが一つの扉に手をかけて私を見ていた。
伊織さんは扉をゆっくりと開け、手を部屋の中に差し出した。
まるで『入れ』と言われてるようで私はその部屋に足を向けた。
中に入るとそこに・・・グランドピアノがあったのだ。
「すごい・・・。」
私が驚いたのはグランドピアノ本体ではなかった。
驚いたのは・・・ピアノの黒鍵部分だ。
見えた鍵盤の黒鍵部分がカラフルに塗り替えられていて、赤にピンク、ブルーに紫、黄色にグレー、それに金と、様々な色になってる。
そんな珍しい配色をしたグランドピアノを初めて見た私は、思わず笑みを溢した。
「かわいくて・・・面白い。」
私は伊織さんの許可も得ず、ピアノ前にあった椅子に座った。
そして私が弾ける曲の中で、このピアノに一番似合いそうな曲を選び、鍵盤に手を置いた。
♪~・・・!
0
お気に入りに追加
265
あなたにおすすめの小説

My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる