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私の状況。
しおりを挟む馬車に行くまでに、この人は色々と話をしてくれた。
名前は『ゼオン』。
金色のような髪色で、肩にかかるくらいの長さがある。
切れ長の二重に、緑色した目。
俗にいう・・・外人さんってやつだ。
お城で『騎士』をしてるらしい。
リズ「あの・・・『馬車』って・・・もしかして馬が引く乗り物のことですか?」
ゼオン「そうですよ?乗り心地がいいかどうかはわかりませんけど・・・。」
リズ「・・・馬!」
教科書で習ったことはあっても、見たことはなかった動物。
この目で見れるのかと思うと一気に興奮してくる。
ゼオン「もしかして・・・『馬』を見たことがない・・とかおっしゃいます?」
リズ「ないです!」
ゼオン「馬を見たことが無いとすると・・・やはり『橋渡しの者』の可能性が高いですね。」
そう言われ、私はゼオンさんに聞き返した。
リズ「『橋渡し』って・・なんなんですか?」
意味はスクールで習ってるけど、『橋渡しの者』なんて役割なんて聞いたこともない。
ゼオン「『橋渡しの者』はこの国が危機に瀕した時、国を救うべくやってくる者のことです。」
リズ「救世主ってことですか?」
ゼオン「左様にございます。」
リズ「それ・・・私じゃぁないと思うんですけど・・・。」
国を救うなんてこと、私にできるものじゃない。
もっと科学者とか・・研究者とかが担うものだ。
現にアンダーでは科学者たちが日夜地上のことを調べて研究してる。
ゼオン「私はあなただと思いますよ?」
にこっと笑って言うゼオンさん。
リズ「え・・・?」
ゼオン「その『橋渡しの者』がこの国にやってくるときの特徴があるのです。」
リズ「特徴?・・・どんな?」
ゼオン「まず、太陽から地面に向けて一直線の光のすじが現れます。その光のすじの先に『橋渡しの者』が現れると文献に載ってるのです。」
そう言われ、私は空を見上げた。
空には太陽が一つ、真上くらいで輝いてるのが見える。
リズ「でも光のすじなんていくらでも作れるでしょう?」
ゼオン「・・・・はい?」
リズ「太陽も偽物だし・・・それくらいできそうですけど・・・?」
そう言うとゼオンさんは口をぽかんと開けて私を見た。
リズ「?」
ゼオン「リズさま・・・太陽はこの世で一つしかありませんよ?」
リズ「・・・え?」
ゼオン「あとにも先にも・・・空にある太陽はただ一つでございます。」
ゼオンさんのその言葉を聞いて、私は空を見た。
眩しくて長い間見てはいられないけど、アンダーにある疑似太陽とは少し・・・明るさが違って見える気がする。
大きさも・・・なんだか小さく見えて・・・違和感を感じた。
リズ「ほ・・本物・・・?」
ゼオン「・・・左様にございます。」
リズ「ここ・・・地上なんですか・・・?」
ゼオン「?・・・はい。」
私は辺りを見回した。
近くに木が見える。
その木に近づいていき・・・ゼオンさんに尋ねた。
リズ「さ・・触ってみても・・・?」
ゼオン「?・・どうぞ?毒もない木ですし。」
私はそっと手を伸ばした。
背の高い木は、葉っぱは届きそうにないけど、木の本体は触ることができる。
リズ「わ・・・すごい・・・。」
作りものとは違って、ごつごつしが感じがある。
生きてるからか程よく温かく、ぬくもりを感じた。
リズ「すごい・・・。」
ゼオン「そろそろ行きましょう。すぐそこですよ。」
私はゼオンさんに言われ、木から手を離した。
ここが『地上』だということを認識した私は、辺りを見回したくてしかたなく、空を見上げて歩き始めた。
アンダーの世界はいつも同じ空の色をしてる。
時間になれば空の色が変わっていくけど、それは毎日同じだ。
『それ』が空の色だと思ってたのに、今、私の真上にある空は見たことのない色をしていた。
青は青だけど、深みがあるのがわかる。
雲も風に吹かれて流れてるのが見える。
手前にある雲はスピードが遅くて、空高くにある雲は速く流れていく。
リズ「これが自然・・・。」
人工物じゃないものを初めて見て私の心は踊り始めた。
ゼオン「着きましたよ。」
ゼオンさんの言葉を聞いて、私は目線を頭上から下げた。
そこには・・・『馬』が二頭。
それと・・・人が乗れそうなくらいの大きな箱・・・窓付き。
リズ「馬って・・・大きい・・・。」
立体のホログラムで見たことはあったけど、こんなに大きいものだとは思ってなかった。
私の身長なんて馬の胴体くらいしかない。
茶色くて・・・所々黒いところもあって・・・大人しい子だった。
近くから見ると、小刻みにふるふると震えるときがあった。
ゼオン「こちらにお乗りください。」
リズ「はい。」
ゼオンさんは馬の後ろにあった大きな箱のドアを開けた。
私はその箱の中に乗り込む。
中は椅子・・・のようなものが向かい合わせに設置されていた。
リズ「えっと・・・・。」
初めて見るものにどうすればいいのか分からずにいると、ゼオンさんが乗り込んできた。
馬のちょうど後ろの椅子らしきものに腰かける。
ゼオン「?・・・どうぞ?」
リズ「座っていいんですか?」
ゼオン「もちろんですよ。」
私はゼオンさんの向かい側に腰かけた。
私が座ったところはごつごつとしていて、とてもじゃないけど座り心地がいいなんて言えるものじゃなかった。
アンダーの椅子は疲労回復機能も付いていて、座ってる感覚がないくらいだった。
私が知ってる椅子とは・・・全然違った。
ゼオンさんは私が腰かけたのを見て、後ろにある壁をコンコンっと叩いた。
ゼオン「・・・出してくれ。」
ゼオンさんの言葉が聞こえたのかガタンっという音がして馬車は大きく揺れた。
その揺れに驚き、私は手を壁についた。
ゼオン「すみません、時々揺れますので・・・。」
リズ「そ・・そうなんですね・・。」
ガタガタと揺れながら進む馬車。
外はあまり見えないけど、私は窓の外を流れる景色を眺めた。
空の間に時々木の枝が見える。
ゼオン「先ほどの話の続きですが・・・。」
リズ「?」
ゼオン「『橋渡しの者』が太陽からの光のすじの先に現れる・・といいましたよね?」
リズ「はい。」
ゼオン「先ほど、その『光のすじ』が現れたのです。」
リズ「!!」
ゼオンさんの話によると・・・お城でいつもの通りに仕事をしてる時、太陽が一瞬眩しく輝いたらしい。
その直後に太陽から光のすじが現れて、城下町を指した・・・と。
その光ははお城中の人がわかったようで、ゼオンさんが代表して城下町まで様子を見に来たら、私を見つけた。
そういうことだったらしい。
リズ「でも、私じゃないと思いますよ?」
なぜ私がここにいるのかはわからなかったけど、私が救世主じゃないことは確かだ。
そんな話、今まで聞いたこともなかったんだから。
ゼオン「リズさまはご自分のお召し物が我々と違うということをご存知ですか?」
リズ「・・・・・あ。」
よくよく考えてみれば、私はTシャツにパーカー、ショートパンツだ。
さっき、町で会った人も・・・ゼオンさんも、私とは全く違う格好をしてる。
ここで浮いてるのは・・・私だ。
ゼオン「リズさまはおそらく異世界から来られたのでしょう。」
リズ「異世界って・・・」
仕事が休みの時に、暇を持て余して調べものをしたことがある。
何気なくウィンドウを開いてタップをしてるときに見つけた『異世界説』。
それは何百年も前からそんな話が出ては消え、出たは消えを繰り返してたけど・・・
結局立証はされてなかった。
リズ「・・・そんなの本当にあるんですか!?」
ゼオン「この世界では数百年に一度、異世界人が現れることがあります。」
リズ「・・・えぇ!?」
ゼオン「まぁ、全ては文献に載ってくらいなので証人はいません。なんせ数百年も生きれる人間はおりませんし。」
リズ「それが・・・私・・?」
ゼオン「おそらく。」
なんてことだ。
私は異世界に来てしまったらしい・・・。
ただビートの充電をするために地上に向かってただけなのに、ビートを狙う人から逃げる羽目になった。
逃げる途中で階段から落ちて・・・異世界に飛ばされたようだ。
リズ「ビートが無事なら・・・いいんだけど・・・。」
『私』は別にどうだってよかった。
人生の半分も生きたし、私を特に必要とする社会でもない。
毎日同じことを繰り返していくだけだから・・・どこに行こうが別によかった。
でも問題は・・・ビートだ。
ゼオン「・・・びぃとさんとは?一緒だったんですか?」
私のつぶやきが聞こえたのか、ゼオンさんが聞いてきた。
さっきの町の人の反応を思い出して・・・話すことを少しためらってしまう。
リズ「・・・・。」
ゼオン「・・・我々、城にいるものは『橋渡しの者』の味方でございます。危機に瀕したこの国を救っていただくのですから。」
リズ「私が異世界から来たんだとしても『橋渡しの者』だと証明はできません。私に何かできるとは思えませんし・・・。」
ただの一社会人なだけでなんの取柄もない。
自慢できるものも、特技も・・・なにも無いのが私だ。
ゼオン「それは城に着いてから証明しましょうか。」
にこっと笑うゼオンさん。
その笑顔はなぜか自信に満ち溢れていた。
リズ「・・・・。」
ゼオン「ほら、お城が見えてきましたよ。」
窓の外からチラッと見える建物。
あれがきっと『お城』と呼ばれるものなのだろう。
私が『橋渡しの者』の証明をお城ですると言ったゼオンさん。
どう証明するのか不安に思いながらも・・・馬車はお城に向かって着実に進んで行った。
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