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産む、産まない。

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その日の深夜・・・



仕事が終わった俺は千冬の病室に向かった。




秋也(千冬・・・もう寝てるよな・・・。)



一緒に寝るため、簡易の布団セットを片手に持って来た。




秋也(中絶の手続きも取ったし、あとは無事に手術が終わるのを待つだけだな。)





俺は千冬の病室を軽くノックして中に入った。




ガラガラガラ・・・





秋也「やっぱ寝てる。」





点滴が外れたからか、横向きで寝てる千冬。

熱が無いか確認しようと手を伸ばすと、千冬の手にエコー写真が握りしめられていた。





秋也「・・・・・・。」






俺は千冬の手からエコー写真を取り、ゴミ箱に捨てた。





秋也「ごめんな、千冬・・・ごめん・・・。」




俺がどんなにがんばって責任を取っても、母体である千冬は傷つく。


それは、体の傷だけじゃなくて心も。




秋也「ごめん・・・。」





俺は千冬の頭を撫でながらベッドに顔を埋めて眠りについた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー






千冬side・・・





朝、目が覚めると、私の横に秋也さんの顔があった。

どうも一晩、ここで寝たみたいだ。




千冬「秋也さん?朝だよ・・?」




声をかけると秋也さんは目を開けた。




秋也「ふぁ・・・おはよ、千冬。」

千冬「おはよ。ねぇ、私、帰っていい?」




そう聞くと秋也さんは驚いた顔で私を見た。




秋也「・・・なんで?」

千冬「え?だって手術、来週でしょ?もう貧血落ち着いたし。」




造血剤を入れてもらって体は楽になった。




秋也「手術まで入院を勧めたいけど?」

千冬「えぇぇ・・・。」

秋也「・・・千冬の主治医と相談する。もしダメって言われたら諦めろよ?」

千冬「うぅぅ・・・わかった。」





秋也さんはそのあとすぐに私の主治医のもとに行ってくれた。

私は秋也さんが帰ってくるのを待ってるんだけど・・・





千冬「?・・・あれ?写真がない・・・?」




昨夜遅くまで見ていた赤ちゃんの写真。

確かに握ってた記憶はあるのにベッドのどこにも写真はなかった。





千冬「ま・・さか・・・。」



ベッドから下りて床を探す。

どきどきしながらゴミ箱を覗くと、エコー写真が捨てられていた。




千冬「--っ!・・・秋也さん・・。」




捨てたのは秋也さんで間違いない。

私の体を想ってしてくれたことだと思うけど・・・




千冬「私は産みたい。」




どうやって秋也さんを説得するか考えてると、病室をノックする音が聞こえた。



コンコン・・・




千冬(隠さなきゃ・・・!)




枕の下に写真を隠し、ベッドに座った。

その瞬間開いたドア。




ガラガラガラ・・・





秋也「千冬ー?やっぱ主治医もダメだってさ。」

千冬「えー・・・。」

秋也「来週までだから我慢な。俺もここに泊まるし。」

千冬「それは・・・嬉しいけど・・・。」

秋也「あと、薬預かってきた。それと寝る時以外点滴な。造血剤も入れるし。」

千冬「うぇぇぇ・・・。」

秋也「あとで取ってくるからいい子で待ってろよ?」





そう言って秋也さんはベッド脇に薬を置いて、病室から出て行った。




千冬「ずっと点滴って・・・体が水だらけになっちゃうよ・・。」








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






それから3日。

点滴漬けの私はすることがなく、病院内をうろついていた。




秋也「あんまり遠くには行くなよ?」

千冬「大丈夫だよ。」




点滴台をガラガラと押しながら、私は血液内科に向かった。

ナースステーションで顔見知りの看護師さんに聞く。




千冬「おじさん先生はいる?」

看護師「あら千冬ちゃん。先生に用事?」

千冬「うん。いつももらってる薬が無くなりそうだから。」

看護師「待合で待ってて?すぐ呼んでもらうから。」

千冬「はーい。」




座ってすぐに呼ばれるのが嫌で、私は診察室の前で立っていた。

案の定すぐに名前を呼ばれる。



『八重樫 千冬ちゃん、どうぞー。』

千冬「!・・・名字だ!」




驚きながら私は診察室のドアを開けた。




ガラガラガラ・・・




医師「お、早いね。」

千冬「今、名字で呼んだ!?」

医師「だってもう結婚するんでしょ?名字が変わるから呼んどこうと思って(笑)」

千冬「ふふ。」




診察用の椅子に腰かける。

おじさん先生はパソコンとにらめっこを始めた。





医師「えーと・・・薬?この前笹倉先生に預けたけど・・?」

千冬「もらったんだけどゴミに間違われたみたいで無くなってた。」

医師「あぁ、それは大変だね。」

千冬「だから1か月分出して?」

医師「あぁ、いいよ?・・・ほんとに無くなってるなら出してあげる。」

千冬「--っ!」





おじさん先生はパソコンの画面を見たまま話し続ける。





医師「笹倉先生が渡し忘れるなんてことないと思うし、千冬ちゃんはちゃんと管理するよね?・・・『話』した?笹倉先生と。」




おじさん先生の言葉に、私は俯きながら答えた。




千冬「・・・堕ろすの一点張り。」

医師「まぁ・・出産するとなると出血が怖いからなぁ、千冬ちゃんは。」

千冬「うん・・・。わかってる。秋也さんが私を大事にしたいって思ってくれてること。でも・・・」

医師「・・・・まぁ、今回は諦めて、次にしたら?できるかどうかはわからないけど。」

千冬「『次』って・・・」

医師「計画的に妊娠するようにすれば自己血も取っておける。今回はほとんどゼロに近いから何かあっても対応できないんだよ。」





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