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かりんと二人で。

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ホテルに着いた車は、正面玄関のところで止まり、私は車から下りた。

中に入ろうと自動ドアをくぐった時、目の前にかりんが立っていた。



美悠「・・・かりん!」

かりん「美悠っ!久しぶりっ!」



私を待っていたかのように立っていたかりん。

私はかりんに駆け寄った。



かりん「美悠が来るって聞いたから・・・待ってた。へへっ。」

美悠「私もさっき聞いたーっ。・・・ところでその服・・かりんのセレクト?」

かりん「・・・ふふ。」




私はかりんを見つけた時から彼女の服装が気になっていた。

かりんは・・・真っ白のオフショルダーのワンピースを着ていたのだ。

所々に赤いリボンもあって・・・私と全く同じ服を着ていた。




かりん「えへへー。お揃いの服、用意してもらったんだよ?」

美悠「!・・・そうだったんだ!」

かりん「滅多に会えないしねー。今日は目一杯一緒にいようねっ。」

美悠「うんっ!」




私はかりんと手を繋いで歩き始めた。

エレベータに向かいながら・・・最近のことを話す。




美悠「かりんは何してた?」

かりん「最近?最近はー・・・きょーちゃんのとこに行ってたよ?」




『きょーちゃん』こと『恭介さん』は世界を股にかけるピアニスト。

かりんのお母さんと仲がいい人だ。

そして・・・かりんの好きな人でもある。




美悠「・・・恭介さんのとこでピアノしてたの?」

かりん「うんっ。きょーちゃんのコンサートで弾かせてもらったー。」

美悠「!!・・・すごい・・。」




恭介さんのコンサートは、いつも発売と同時にチケットが売り切れるくらい人気だ。

そんなコンサートで弾かせてもらえるとか・・・『知り合い』というコネがあったとしてもすごいことだった。




かりん「私も大学卒業したら海外に行こっかなー。きょーちゃんと世界を回りたい。」




かりんがそう言ったとき、私たちはちょうどエレベーターの前に着いた。

上に上がるボタンを押して、エレベーターを待つ。




湊「・・・誰が海外に行くって?」

美悠「!?」



私とかりんの後ろから聞こえた声。

少し高くてきれいな声は・・・知ってる声だった。



美悠「・・・湊さん!」

かりん「げ・・・お兄ちゃん・・・。」




振り返ったところにいたのは湊さんだ。

タキシードに身を包んで、髪の毛は軽く後ろに流してある。

そこらのアイドルよりよっぽどかっこよく見えるのは・・・私だけだろうか。




湊「お前、英語はできるけど他の言葉ダメだろ?恭介さんの足手まといになるだけだ。」

かりん「むー・・・。向こうで覚えるもんっ。」

湊「んな簡単に行くかよ。」

かりん「わかんないでしょー。」




二人がやいやい言い合いをしてるうちにエレベーターは到着し、ドアが開いた。




美悠「ほ・・ほら、エレベーター来たし・・・とりあえず上がろ?」

かりん「お兄ちゃんは後で乗ってきてよっ!」




かりんは私の手を引いてエレベーターに乗り込んだ。

そのまま『閉まる』のボタンを押してドアを閉めてしまった。



湊「あっ・・!こらかりんっ・・!」

かりん「べーっだ!!」




ドアは完全に閉まり、かりんは最上階のボタンを押した。

エレベーターはぐんぐんと上がり始める。




美悠「かりんー・・・。湊さんも上に行くんじゃないの?」




私が言ってもかりんはぷぃっと顔を背けていた。



かりん「次のエレベーターでも上がれるじゃんっ。」

美悠「そうだけどー・・・。」



湊さんも行き先は私たちと同じところなはずだ。

いっしょに行けばいいのに湊さんには悪いことをしてしまった。



美悠(湊さん、ごめん・・・。)











ーーーーーーーー









最上階に着いた私たちは、エレベーターから下りた。

そこはフロア全体を使ったホールで、エレベーターの向こうはちょっとした空間を挟んでもう会場だった。



美悠「すごい・・・。」

かりん「今日はかりんもお兄ちゃんもいるから警備がすごいんだよ?」

美悠「そうなの?」



かりんの言葉に、私は辺りを見回した。

ホテルのスタッフはもちろんのこと、警備員や警察官まで配置されているのが見える。




美悠「・・・こんなに警備の人・・いる?」

かりん「わかんないけど・・・この前、かりんのことをパパとママが話してたの聞いたー。」

美悠「それ・・・どんな話?」




かりんの話では、最近大学にかりん関係の封筒が届くようになったらしい。

それは・・・あまり『いい』とは言えない内容のものが多くて、ちょっと良くない雰囲気がしてる・・・と。

それで念の為、今日は警備を強化してるみたいだ。





かりん「まぁ、私のことを知ってる人は知ってるしねー。」

美悠「そうだね。大学の人とか・・・同じ学科の人ならみんな知ってるんじゃない?」

かりん「結構なひとがいるから知ってるのは一部の人くらいだよ。」




うちの大学は多いときで何千人って在籍者がいる。

ものすごく人数が多いから、全く知らない人の方が多いくらいだ。





美悠「まぁ・・・それでも気をつけてよ?」

かりん「だいじょーぶっ。」




あまり危機感のないかりんは、握っていた私の手を離して会場の軽食があるところに、向かっていった。

私も後を追いかけ、置かれてある軽食を二人でつまむ。




かりん「これ美味しいっ。」

美悠「この味・・・まさかとは思うけど水樹さんが作ってるとかいう?」

かりん「水樹ちゃんが作ってるよ?」

美悠「やっぱり・・・。」



小さいころは水樹さんの料理をよく食べていた私。

沢山食べたからか・・・結構な確率で水樹さんの料理をあてられるようになっていった。

今じゃ水樹さんの味を目指して料理をするときもあるくらいだ。


二人で軽食を取っては食べ、ジュースを飲み・・・時に周りにいた人たちから微笑ましい笑顔を向けられたりなんかもした。



「あら、双子みたい。・・・ふふ。」

「あれは・・・一色のお嬢さんだな。」




うちとかりんのとこの業務提携の話は個々に挨拶をしていって、最後に大々的に宣言をすることになっているらしく、パパやママ、かりんのお父さんとお母さんが忙しく動き回って挨拶をしてるのが見えた。

私とかりんは実質、いてもなんの意味もないから楽しんでいた。





かりん「あ、美悠。ちょっとトイレいかない?」

美悠「いいよ?私も行きたいし。」




しばらく楽しんだ後にかりんからのトイレのお誘い。

かりんを一人にするのが嫌で、私もついて行く。

会場をでると長い廊下があって、そこをトイレに向かって歩き始めた。

遥か遠くにトイレの案内が見える。




美悠「・・・ここも警備の人が多いんだね。」

かりん「そうみたい・・・。」




トイレに近づくにつれて警備員や警察官が立ってる。

私たちはその視線の中、歩いた。




美悠(かりんの為に駆り出されるとか・・ほんと大変だよね・・。)



財閥のお嬢様だから仕方ないのかもしれない。

それでもこの人たちには普段の仕事があるのに・・・たくさんの人数でかりんを守っているのだ。



美悠「・・・・ん?」




歩き進めていく中で、私は一人の警察官に目がいった。

たくさんいてる警察官や警備員のなかで・・・その人の立ち姿だけ目を奪われた。

その人は姿勢よく立っていて・・・背が高い。

鍛えてるからか逞しい体つきは・・・三門さんとそっくりだ。




美悠(・・・そっくりどころか・・・本人だ!)




前を向いて一点を見つめてる三門さん。

声をかけようかとも思ったけど・・・そうはできなかった。




美悠(私は今、かりんと一緒だ。ここで宝条家のことがバレるわけにいかないし・・・三門さんは絶対に渡しに気がついてる。それでもこっちを見ないってことは・・・)



『私の為』。

そう考えるしかなかった。




かりん「あれ?あの人って・・・・」

美悠「!!・・・かりん!ほら急ぐよ!」

かりん「え?・・・うわぁぁ・・・!?」




私はかりんの手を引いて小走りにトイレに向かった。

ダッシュで洗面室に入って、かりんに説明をする。



美悠「かりんー・・・三門さんは今、お仕事中でしょ?」



私はかりんを壁に追いやり、片手を壁について閉じ込めながら話した。




かりん「あ、そっか。」

美悠「三門さんなら私に気がついてるよ。それでも話しかけてこないってことは『かりんと一緒にいる私』を不審に思わさない為でしょ?」

かりん「・・・宝条家の一人娘ってまだバレてないの?」

美悠「三門さんは知ってるよ。でも他の人は知らないの。」

かりん「そっか。」






かりんが理解(?)したところで、私はかりんを解放した。

私の腕でできた牢獄から解放されたかりんはほっと、胸を撫でおろした。

その時・・・私たちの後ろを誰かが通った。




美悠「---っ!」

「・・・・・・。」





カツン・・・カツン・・・とヒールが床にあたる音が聞こえる。

私は勢いよく振り返ってその人の姿を確認した。

通り過ぎるその女の人は・・・真っ赤なハイヒールに真っ赤な服を身に纏っていた。

その赤い服は有名なブランドの服で、実家のクローゼットにいくつか入ってたのを思い出す。




美悠(全身同じブランドの服・・・。)




その女の人は大きめなスーツケースをごろごろと引いていた。

もしかしたら宿泊客かなんかで、トイレが混んでたからこの階に来たのかもしれない。

でも・・・私はなぜか嫌な予感がした。




美悠(あのスーツケース・・・空っぽな音がする・・・。)




そう思いながら私は女の人の動きを見つめた。

女の人は私の方を見ることもなく、歩いてトイレから出て行った。





かりん「・・・聞かれた?」

美悠「多分・・・。」




通り過ぎて行った人は振り返らなかった。

『宝条家の娘』を知ったなら顔くらいは確認するはずだ。

振り返りもしなかったことを考えると・・・興味がないか、聞いてなかったかのどっちかかもしれない。




美悠「トイレ行って戻ろっか。かりんのお父さんたちにこのこと言わないと・・・。」

かりん「美悠のパパもね。」

美悠「うん。」







私とかりんはトイレに入った。

特に用を足す必要が無かった私は、手提げの小さな鞄からメモを取り出した。

それを小さめに千切って・・・ボールペンで文字を書く。




美悠「なにも無ければいいけど・・・。」



そう思って紙に書いたとき、ゴンっという大きな音が聞こえた。




美悠(!!・・・かりん!?)



私はトイレの鍵を開けて飛び出た。




美悠「・・・かりん!!」




私の目の前には倒れてるかりんの姿。

さっきの真っ赤な服の女の人がかりんの側に立っていた。



美悠「かりんに何したの!?」

「お前も一緒に来な。」

美悠「・・・え?」




その瞬間、バチっと大きな音が聞こえて、私の背中に痛みが走った。


その痛みは一瞬で全身を貫くような痛みに変わり、私は体から力が抜けた。




美悠「うぁ・・・・」

「二人仲良く連れてってやるから」




女の人のその言葉を最後に・・・私は意識を失った。


















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