上 下
18 / 36

崩れる夢3

しおりを挟む
ーーーーー

兄side


看護師から一華のことをことを聞いた俺は、救命救急センターに足を踏み入れた。

処置を受けてる一華の姿が目に入る。


「一華!!どうした!?」


側に駆け寄ると、一華は目を開けていた。

朧げに見えてるのか、視点が合ってない。


「状況は?」


そう聞くと処置にあたってくれてる医師たちが答えてくれた。


「突発的に血圧が急上昇したみたいです。救急隊が駆けつけた時には意識がありませんでした。」

「突発的?」

「今は落ち着いてます。時間にしておよそ30分。急な血圧の上昇で意識を失ったのかと。」

「そうか・・・。」

「念の為、精密検査はしておいた方がいいでしょう。入院の手続き取っといてもらえますか?」

「わかった。・・・一華、聞こえるかー?」


肩を叩きながら聞くものの、一華は微かに口を開くだけだった。


「脳の検査からだな。悪いけどあと頼む。」


そう言って俺は救命センターを出た。

廊下にいるエプロン姿の女の人が目に入り、声をかける。


「すみません、小森一華の付き添いで来られた方ですか?」

「あ・・はい。彼女、今日幼稚園の教育実習でして・・私はそこの職員です。」


職員の方の話によると、朝、子供たちの出席を取ってる時に様子がおかしくなったらしい。

そして一華を保健室に連れて行き、救急車を呼んだとこのこと。


(聞いた話じゃケガとかじゃなさそうだな。頭を打ったようなこともなさそうだし・・・。)


やっぱり生まれ持ってる血液系の病気が、なんらか原因を作ったと考えるのがよさそうだった。


「付き添っていただいてありがとうございます。申し遅れましたが、私、小森一華の兄です。妹がお世話になってます。」

「あ・・!お兄さんだったんですか・・!」

「はい。・・・妹は生まれつき疾患がありまして・・・今回もそれが影響したと考えられます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

「疾患・・・・。」


俺は一華の病気のことを大まかに説明した。

昔は突然倒れることもあったけど、ここ数年、そういうことは無いことを。

加えて食事制限も無ければ運動の制限もないことも。

職員さんは俺の話を真剣に聞いてくれてたけど、少し考えるようなそぶりも見て取れた。

そして


「実習は今日で終了の予定だったので、あとのことは学校でお願いしますとお伝えください。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「では・・・失礼します。」


職員さんは軽く頭を下げて、帰っていった。


「実習・・・最後まで受けれなかなった場合はどうなるんだろ・・・」


せっかくの実習を途中リタイアした一華は、目が覚めたらきっと悔やむだろう。

準備してきたものや、今まで学んできたことを最後までやり切ることができなかったのだ。


「もう一度、チャンスが来るといいな。」


そう思いながら、俺は事務に向かって歩き始めた。




ーーーーー

一華side


「ん・・・・」


目が覚めた私は、霞んで見える視界に何度か瞬きをした。

だんだんと合ってくる焦点に、ここがどこなのか理解できた。


「・・・びょーいん。」


真っ白な壁に鼻につく消毒液の匂い。

慣れた光景だけど、私はここが病院であることを理解した瞬間、ベッドから飛び起きた。


「今何時!?まだ間に合う!?」


幼稚園教諭の資格を取るには実習は必須科目だ。

他の科目はレポートや試験で単位が決まるからやり直しがきく。

でも実習は・・・やり直しがきかないのだ。

幼稚園側にも都合があるし、こちらの勝手で日にちを変えたりできるものではない。

だから今日の実習最終日をクリアできないと・・・資格を手にすることができないのだ。


「時計・・・!!」


私は時計を探して部屋の中を見回した。

白い壁をぐるっと一周見るけど時計はない。


「・・・スマホ!」


自分のスマホで時間がわかることに気がついたけど、鞄も見当たらないのだ。

部屋に時計がないなら、外に探しに行くしかない。


「ナースステーションに行けば時間がわかる・・・!」


私はベッドから降りて扉に向かった。

幸いにも足元もふらつかず、倒れる前より気分はいい。


「点滴もされてないし・・・一時のなんかだったのかなぁ。」


そんなこと思いながら、扉の取っ手に手を伸ばした。

その時、私が開けるよりも先に扉が開いた。


「へっ?」


扉の向こうには兄が立っていたのだ。


「・・・かずくん!?」

「一華!!目が覚めたのか!!」


驚いたような顔で私を見る兄。

その姿を見て『今日』は、私が倒れた日ではないことを悟った。


「かずくん・・何日経った・・・?」


諦めるように俯きながら聞くと、兄は私の肩をぽんぽんっと優しく叩いた。


「3日だ。朧気に目を開けるときはあったけど・・・」

「・・・・。」

「とりあえずベッドに戻れ。」


兄に体を支えられながら、私はベッドに戻った。

腰掛けるように座ると、兄が聴診器を取り出す。

そして胸の音をじっくり聞き始めた。


「体調はどうだ?息苦しくないか?」

「うん・・・」

「意識は?ハッキリしてる?」

「うん・・・」

「痛いとこはない?」

「・・・・。」


兄の問診なんて私にとってはどうでもよかった。

今まで病気と上手く付き合ってきたつもりだったのに、一番大事なとこで裏切られたのだ。


「一華?」

「・・・・。」


俯きながら床をじっと見つめる私を心配したのか、兄は聴診器をポケットにしまった。

そして私の隣に座った。


「一華、大学から伝言がある。」


その言葉に私は視線を床から兄に移した。


「『教育実習お疲れ様でした。最終日の実習は途中終了とみなし、単位修得は不可とさせていただきます。貴殿のこれからの活躍をお祈りいたします。』・・・って。」

「ーーーっ!!」


大学からの通告で、免許は取れないことが確定した。

これまでがんばってきたことが水の泡になり、私の目から涙がこぼれ落ちた。


「うぅー・・・・。」


寝ずにがんばった試験も、一生懸命練習したピアノも、何度もやり直しして作った絵本も全て無意味となった。

私は幼稚園の先生に・・・なれない。


「うわぁぁぁぁああ・・・・!」

「一華・・・。」


声を上げて泣く私を、兄はぎゅっと抱きしめてくれていた。

なだめるように背中をさすってくれている。


「がんばったのに・・・私、がんばったのにぃーーー・・・!」

「うん、一華はがんばったよ。」

「どうして・・・っなんでっ・・!うわぁぁぁぁあ・・・・!」

「よしよし、いっぱい泣け、にぃちゃんがいるから。」


私は涙が枯れるまで泣き続けた。

3日も寝ていた私は体力が落ちていて、兄の腕の中で気を失うようにして眠りについていき、その後1週間眠り続けてしまった。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【R18】スパダリ幼馴染みは溺愛ストーカー

湊未来
恋愛
大学生の安城美咲には忘れたい人がいる……… 年の離れた幼馴染みと三年ぶりに再会して回り出す恋心。 果たして美咲は過保護なスパダリ幼馴染みの魔の手から逃げる事が出来るのか? それとも囚われてしまうのか? 二人の切なくて甘いジレジレの恋…始まり始まり……… R18の話にはタグを付けます。 2020.7.9 話の内容から読者様の受け取り方によりハッピーエンドにならない可能性が出て参りましたのでタグを変更致します。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

見知らぬ男に監禁されています

月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。 ――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。 メリバ風味のバッドエンドです。 2023.3.31 ifストーリー追加

処理中です...