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卒業式。
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りらのお骨を散骨してから数日。
俺は病院に来ていた。
今日・・・りらの荷物が全部・・・片付く。
葵「欲しいものがあったら持っていっていいぞ?」
全部の荷物を段ボールにまとめながらお兄さんが言った。
秋臣「俺はこの指輪だけで十分ですよ。」
りらの棺の中で遺った指輪。
熱でひしゃげてしまったから・・・少し長めのボールチェーンに通してネックレスみたいにした。
俺のも一緒に通してある。
葵「そっか。・・・まぁ、俺のマンションに全部置いとくから必要なら取りに来たらいい。」
秋臣「わかりました。ありがとうございます。」
段ボールをまとめて病室を見回すと・・・本来の病室の姿に戻っていた。
ベッド脇にあった機械は無くなり、着替えをするために設置してたパーテーションもない。
カーテンも無機質な色になっていて・・・りらがいた面影は一つもない状態になった。
葵「卒業式が終わったらどうするんだ?」
秋臣「あー・・・雄星のバンドに声をかけられてまして・・・。」
葵「へ!?」
りらが亡くなった報告をしたときに雄星に声をかけられたのだ。
『落ち着いたらクレセントのキーボードやらないか』・・・と。
葵「受けるのか?」
秋臣「しばらくしたら・・・受けようと思ってます。全国を回って演奏すれば・・・りらに届くかもしれないから・・・。」
葵「そっか・・・。たまには顔だせよ?・・・義弟くん。」
秋臣「!!・・・もちろんですよ。・・・義兄さん。」
俺はりらがお世話になった看護師さんたちにお礼を言って、病院を出た。
もうりらの部屋に行くことは・・・・・ない。
秋臣「お世話になりました。」
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それからしばらくの間、俺は作曲の仕事をしたり・・・とぅさんの会社の進捗状況を聞いたりしていた。
日々進歩していく研究で、もうすぐ俺が求めてる紙が出来上がりそうだった。・・・・早いものだ。
秋臣(・・・ってか、もう出来てたんじゃないか?)
そんなことを考えてるうちに時間は過ぎて・・・
とうとう今日は卒業式だ。
朝から制服に身を包んで学校に向かう。
秋臣「行ってきます。」
母「行ってらっしゃい。生徒だけの卒業式なのね、親も行きたいものだわ・・・。」
秋臣「仕方ないだろ?体育館狭いし・・・。」
うちの学校の体育館は狭くて、入学式、卒業式ともに本人以外の出席はできないことになってる。
変わった学校だけど・・・恥ずかしくなくていい。
秋臣「もー・・行ってくるから。」
母「はいはい。気をつけてねー。」
俺は家を出て学校に向かった。
数か月ぶりに行く学校。
なんだか新鮮だ。
秋臣「今日まで生きれたらよかったのにな・・・りら。」
空の雲を見上げながら呟いた。
今日の天気は晴れ。
所々に雲はあるものの、いい天気だ。
秋臣「あ・・・りらの代わりに答辞・・・読むんだっけな。」
何か先生から説明があるかもしれない。
そう思った俺は急ぎ足で学校に向かった。
ーーーーーーーーーー
秋臣「おはようございまーす・・・・。」
朝1番に学校に到着した俺はとりあえず職員室に向かった。
担任か・・・校長に今日のことをどうするのか聞くために。
担任「おぉ、工藤。おはよう。」
秋臣「おはようございます。あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど・・・。」
担任「答辞のことか?」
秋臣「そうです。どうするんですか?代読しますか?」
りらが読む予定だった答辞。
りらがもし出席できなかったら・・・俺が読むって話を前に聞いてた。
担任「頼むよ。あとで読むやつ渡すから。」
秋臣「わかりました。」
担任「名前を呼ばれたら壇上に上がって・・・まぁ、読んで、そのあと席に戻ればいいからな。」
秋臣「わかりました。失礼します。」
俺は職員室から出て、教室に向かった。
教室には数人のクラスメイトが来ていて・・・りらの死を悲しんだり、卒業後の話をしたりしてる。
秋臣(卒業したらみんなに会うこともなくなるのか。)
ここに・・・教室に来ればクラスメイト達には会えた。
それも今日、卒業式が終わったら・・・もうみんな揃って会うことはなくなる。
秋臣(少し寂しいような・・・?)
そんなことを考えてると、翼が教室に入ってきた。
みんなに挨拶をしながら真っ直ぐ俺のところに来る。
翼「・・・おはよ。」
秋臣「おはよ。」
翼「もう・・・大丈夫なのか?」
秋臣「大丈夫・・・と言えば嘘になるけど・・・まぁ、大丈夫。」
翼「そっか。」
翼は自分の席に座った。
ほどなくして担任が教室内に入ってきて卒業式の説明をし始めた。
その時、答辞の内容が書かれた用紙を俺は受け取り内容を確認する。
秋臣(まぁ・・・フツーの内容だな。)
そうこうしてるうちにもう式が始まる時間になった。
みんなで順番に廊下に並び、体育館に向かう。
担任「ちゃんと出席番号順に並べよー。呼名があるからなー。」
生徒たち「はーい。」
流れていく人の波に乗りながら体育館に入り、卒業式が始まった。
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司会「それでは第58回卒業式を執り行います。・・・卒業生、呼名。」
1組から順番に卒業生の名前が呼ばれていく。
自分の名前が呼ばれると返事をして立ち上がるのが決まりだ。
しばらくすると当然、俺の名前も呼ばれる。
担任「・・・工藤 秋臣。」
秋臣「はいっ。」
担任「小林 太一。」
小林 太一「はい!」
~~~
担任「・・・中谷・・りら。」
『りら「はいっ。」』
秋臣(・・・え!?)
聞き間違いかと思って辺りを見回す。
確かにりらの姿はない。
無いはずだ。
でも俺の耳にはりらの声が聞こえた。
秋臣(空耳・・・?)
そう思うけど、うちのクラスの生徒たちがやたらキョロキョロ辺りを見回してることに気がついた。
りらの声が聞こえたのは・・・俺だけじゃなさそうだ。
秋臣(天国から戻ってきたとか?卒業式に出席するために・・・。)
それなら姿を見たいものだと思った。
秋臣(・・・んなわけないか。)
そんなことを考えてるうちに在校生の代表から送辞が送られ、卒業生の代表として俺の名前が呼ばれる。
司会「答辞。・・・卒業生代表・・・中谷 りら。」
秋臣(・・・間違えてる。)
りらが亡くなったことの伝達が上手くいってないのか、本来、答辞を読む予定だったりらの名前が呼ばれてしまった。
これは・・・訂正され、俺の名前が呼ばれるのを待つしかない。
そう思ってた時だった。
『りら「答辞。・・・春の訪れを感じるこの良き日、私達3年生一同は無事、卒業式を迎えることができました。
校長先生をはじめ、日々励ましを下さった先生方、ご来賓の方々・・・本日は私たちの為に誠にありがとうございます。
思えば、3年前、不安と期待に胸を膨らませ学校の門をくぐりました。
あの日から3年間、数えきれないほどの思い出を、仲間とともに作ってきました。」』
秋臣(嘘だ・・ろ・・?りらの声だ・・・。)
マイクを通して聞こえてきたりらの声。
それは・・・2カ月ぶりに聞く声だった。
秋臣(なんで・・・・あっ!録音か!)
事前に録音していた音声を流してるっぽい感じがする。
感じがするどころか、もういないりらの声で答辞を読むなんて、録音しか考えられなかった。
『りら「この答辞は・・・録音させていただいたものになります。私の事を知ってる人は、私がもういないことを知ってるでしょう。卒業試験をクリアした私に答辞を読む権利を与えてくださった学校側に、心から感謝申し上げます。」』
少し緊張してるのか・・・それとも体調がそんなに良くないときに録音したから、ゆっくりと話してるりら。
もう聞くことができないと思ってた声に・・・俺の目から涙がこぼれ落ちた。
『りら「思い起こせば、この3年間の学校生活で、私達は学問のみならず、多くの貴重なことを見につけることが出来ました。
それは人間として生きて行く上で非常に大切かつ重要なことであり、個性を重視し我々を信用してくださった先生がたのおられる、この高校でなければ得られなかったものと思われます。
我々は、この高校が母校であることを誇りに、それぞれの分野で頑張っていきたいと思います。
諸先生がた、今日まで、本当にお世話になりました。
改めて御礼を申し上げます。」』
淡々と言葉を述べるりらの声をかみしめながら聞く。
もう二度と聞けない音声だから。
秋臣(りら・・・会いたい・・・。)
『りら「・・・まだまだ未熟未完成の私達ゆえ、卒業後も、よろしく御指導御鞭撻ください。
本日は、本当に有難うございました。
皆様がたのご活躍をお祈りし、御礼の言葉とさせていただきます。卒業生代表、中谷・・・・改め、工藤 りら。」』
秋臣(!!)
名乗ることのなかった『工藤』の苗字。
学校側に内緒にしてたもんだから仕方がなかった。
生徒「・・・え!?」
生徒「今・・・『工藤』って言った・・!?」
ざわつく体育館。
それを押さえるかのように・・・りらの音声が流れた。
『りら「私は1年ほど前に同じクラスの工藤 秋臣くんと結婚しました。」』
生徒「結婚!?」
生徒「えぇ!?」
『りら「長い闘病生活を経て、彼と出会い・・・恋に落ちました。恋をしたときの私の余命はおよそ2年。想いを伝えても・・・彼を苦しませるだけだと思ったのに、彼は受け入れてくれました。一緒の時間を過ごし始めてから1年半が経った時に挙式をして・・・私の苗字が工藤に変わりました。・・・卒業式にこの音声が流れてるとしたら・・・もう私は死んでるのでしょう。」』
りらの言葉を聞きながら・・・すすり泣く声が聞こえてくる。
りらのことはこの学校に在籍するほとんどの生徒が知ってる。
おそらく亡くなったことも・・・卒業生は全員知ってそうだ。
『りら「こんな私と一緒に学生生活を送ってくれてありがとう。私はみんなみたいに大人になれないけど・・・これから大人の世界に入って壁にぶち当たったりすることもあると思います。でもみんなは一人じゃない。助けを求めたら・・・きっと誰かは助けてくれる。そう信じて・・・これからの人生を生きてください。最後に・・・オミくん、そんなに泣かないで?」』
秋臣「!!」
『りら「オミくんが言ってくれた通り、私は世界一幸せだったよ?だからもう謝らないで?」』
秋臣「りら・・・りら・・・!」
『りら「私のこと、好きになってくれてありがとう。側にいることはできないけど・・・ずっとずっと大好きだよ!・・・工藤りら。』
そこで音声は終わり、体育館の中はしーん・・・と静まり返った。
その中でただ一人・・・俺だけがむせるようにして泣いてた。
秋臣「うっ・・・りら・・・っ・・・ぅくっ・・・!」
俺の声につられるようにして生徒たちのすすり泣く声も聞こえ始める。
司会の先生は式の続きを執り行い始めたけど、俺はそのあとの記憶がなかった。
久しぶりに聞いたりらの声。
俺のことを見越してるような言葉。
そのどれもが『りら』であって、無性に会いたくなる。
秋臣(・・・・ありがとな、りら。)
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